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主演俳優が「自分が出演した映画を初めて気に入った」と言ってくれた…『おんどりの鳴く前に』パウル・ネゴエスク監督に聞く!

2025年1月22日

モルドヴァ地方の村を舞台に、鬱屈した日々を送っていた中年警察官が、惨殺死体が発見されたことで、美しいはずの村が秘めていた闇を目の当たりにする『おんどりの鳴く前に』が1月24日(金)より全国の劇場で公開される。今回、パウル・ネゴエスク監督にインタビューを行った。

 

映画『おんどりの鳴く前に』は、ルーマニアの辺境の村を舞台に、狭いコミュニティ内で起きた殺人事件を通して人間の醜悪さを生々しく描いたサスペンス映画。ルーマニア北東部モルドヴァ地方の自然に囲まれた静かな村。野心を失い鬱屈とした日々を過ごす中年警察官イリエは、果樹園を営みながらひっそりと第二の人生を送ることを願っていた。そんなある日、平和なはずのこの村で、斧で頭を割られた惨殺死体が発見される。捜査を任されたイリエは、美しい村に潜んだ闇を次々と目の当たりにしていき、やがて驚くべき結末にたどりつく。ルーマニアの若手監督パウル・ネゴエスクが、欲望と正義の狭間で揺れる主人公の葛藤を、社会風刺を交えながら巧みに表現。ルーマニアのアカデミー賞にあたるGOPO賞で作品賞・監督賞・主演男優賞など6冠に輝いた。

 

パウル・ネゴエスク監督の過去作に出演経験があるラドゥ・ロマニュクが本作の脚本に携わっており、彼がルーマニア北部にある田舎の村で育ったことで培ったライフスタイルから着想を得て書かれた作品。「過去に撮った作品の主人公達と、本作の主人公イリエとキャラクター性が似ている部分が少しあるな。そして、自分自身にも似ている部分が少しあるな」と気づき、パウル・ネゴエスクは監督することを決めた。なお、本作の原題は「Oameni de treaba」。英語に直訳すると”people of work”といった意味になるが、様々な意味が含まれており、他国の言語に訳するのは難解な言葉のようだ。”nice guy”(善良な人)であると同時に”one of us”(こちら側の仲間)といった意味も含まれており「後ろめたいことをしている時、”He is one of us”といった言い方をする。実は、劇中に起きる事件のシーンで用いられる台詞にこのタイトルが登場する」と説く。

 

キャスティングにあたり「映画の舞台になっているモルドヴァ地方の言葉は、アクセントや訛りが強い。この言葉を喋ることができる俳優を探そう」と決め、村長の妻や神父や検事の役は見つけることが出来た。だが、イリエと村長は、主人公や副主人公でありながら、好感度を得づらいキャラクターでもあるため、条件をクリアできる俳優を見つけることに苦労してしまう。ようやく発見し村長役を演じたヴァシレ・ムラルは、大晦日等に放送されるテレビ番組に出演するような好感度のあるコメディアンで「実は彼もこのモルドヴァ地方にルーツがあり、アクセントについても問題なかったので、すごくラッキーだった」と安堵。イリエを演じたユリアン・ポステルニクは、ルーマニアで活躍している俳優として存じていたが「まさかモルドヴァ地方のアクセントを喋れるとは思っていなかった。なんと彼もモルドヴァに親戚がおりルーツがあった」と驚き「完全にモルドヴァで生まれ育っていなくても、親戚がいればアクセントを学ぶことができる。キャスティングされた人たちにはルーツがあったり親戚がいたりしたので、セリフを話すことができた」と話し、難所を乗り越えることが出来た。

 

作中、イリエが酔っ払うシーンが2つあり、パウル・ネゴエスク監督はイリエ役のユリアン・ポステルニクと「酔っ払う演技をしても、俳優の目を見たら、本当は酔ってないことが分かってしまう。どうしようか」と話し合い「じゃあ、実際に酔っ払ってしまおう」という結論に。そこで、翌日が撮休日となる日に撮影を敢行。本当にお酒を呑んで酔っ払ってもらって演じており「最高の演技だ!」と喜んだが「休憩を少し長めに取らないといけないので、撮影がかなり押してしまった。当初の予定より少なめの撮影量になってしまったが、そこから厳選して作品に使用した」と苦笑せざるを得ない。なお、ラストシーンに関しては、当初は4日間を予定したが予算の関係で3日間となり、しかも雨が降ったり風が吹いたりと天候に恵まれない中で、限られた状況下で苦労を重ね、撮影を終えた。

 

監督自身、映画制作中は常に迷ったり疑問を感じたりしながら遂行しており、確信を得たり、達成感を得たりすることは難しいようだ。「シーン毎に手応えがあり気に入っても、編集して全てのシーンを繋げてみると最終的にどうなるかわからない」と常に不安を抱きながら映画制作をしている中で、本作では「試写会で、ユリアン・ポステルニクが映画を観終えた時に『自分が出演した映画を初めて気に入った』と言ってくれた。彼がそう言ってくれるなら、この映画には何かがあるのかもしれない」と確信が得られた。ルーマニアで劇場公開された際には、本作をコメディ映画として楽しんだ観客と、シリアスなドラマやスリラー映画として楽しんだ観客といった2つのタイプがいたようで「2つの反応に分かれたことにとても驚いた」と意外性があったが「多くのお客さんは、この映画をリアルな話であると感じたようだ。この映画は完全にフィクション。俳優達の演技も、リアリティある演技というより、誇張して演じてもらったつもりだ。それにも関わらず、凄くリアルな話として受け取られたんだな」と感心している。なお、現在のルーマニアでは、コメディ映画が人気で、映画俳優が出演している映画よりも、YouTubeで人気のあるコメディアンやタレントが出演している映画が受け入れられている状況があるようだ。

 

また、今後の予定としては「田舎に住む10歳の男の子が主人公。近くの町に靴を買いに行くけれども、家に帰ってみると、買った靴はどちらも右足用、左足がないということに気づく。お店に戻って同じ靴の左足を買おうとしたら、店員さんからは、同じ靴の左足側で2足を別の人が買っていったことを知らされてしまう。その自分の左足の靴を手に入れるための旅に出る、という映画の監督をする」と話してくれた。さらには、アウトラインの段階ではあるが、アジアの女性が主人公の作品も構想としており「まだ国籍は決めてないので、もしかしたら日本人になるかもしれない」と楽しみにしている。

 

映画『おんどりの鳴く前に』は、1月24日(金)より全国の劇場で公開。関西では、1月24日(金)より大阪・梅田のテアトル梅田や京都・烏丸の京都シネマ、2月21日(金)より兵庫・尼崎の塚口サンサン劇場で公開。また、神戸・元町の元町映画館でも順次公開予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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