移動映画館で日銭を稼ぐ父と娘の姿を描く『グレース』がいよいよ関西の劇場でも公開!
ロシアの辺境を舞台に、キャンピングカーで旅をする父と思春期の娘の成長を描く『グレース』が11月1日(金)より関西の劇場でも公開される。
映画『グレース』は、息の詰まるような停滞感に覆われたロシア辺境を舞台に、移動映画館で日銭を稼ぐ父親と思春期の不安を抱える娘の日常を描いたロードムービー。ロシア南西部の辺境で、乾いた風が吹きつけるコーカサスの険しい山道。無愛想な目をした16歳の少女とその父親である寡黙な男は、錆びた赤いキャンピングカーで旅を続けながら移動映画館で生計を立てている。母親の不在が父娘の関係に影を落とし、車内には重苦しい沈黙が漂う。やがて2人は世界の果てのような荒廃した海辺の町にたどり着き、娘は終わりの見えない放浪生活から抜け出そうとある行動に出る。
本作は、ドキュメンタリー出身の新鋭イリヤ・ポボロツキーが東欧の民話をモチーフに監督・脚本を手がけ、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が本格化する直前の2021年秋に撮影を敢行。全編を通して陰鬱さの中に不思議な温かさを漂わせながら、ロシア辺境の大地と人々を独自の感性で描き出す。2023年の第76回カンヌ国際映画祭の監督週間に選出され、同年のカンヌ国際映画祭で上映された唯一のロシア映画となった。
映画『グレース』は、関西では、11月1日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、11月9日(土)より、大阪・九条のシネ・ヌーヴォ、11月16日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。
ウクライナへの軍事侵攻が始まって以来、現代ロシアを舞台にした映画を観る機会は非常に限られている。そんな中、本作は侵攻が本格化する直前の2021年秋にロシア南西部を舞台にした貴重な作品だ。
主人公である父と娘の名前は明かされない。父親をはじめ、荒涼とした大地に生きる大人たちにはどこか諦観が漂い、終末的な空気すら感じられる。一方で、少女が身の周りに飾る数々のものは、大人たちの諦観に対する静かな抵抗であり、日々の祈りのようにも見えた。特に、彼女がバンの中に集めた写真には、首を真綿で絞められるような日々の中で、確かに生きる意味を見出そうともがく姿が浮かび上がってくる。その姿は、現代ロシアでこの映画を撮った監督自身とも重なるように感じた。
タイトルの『grace』とは、キリスト教における「恩寵」、すなわち「罪から解放された状態」を指す。本作のラストシーンでは、海に母の遺骨を散骨し去っていく少女の後ろ姿が映し出される。その姿には、知らず知らずのうちに大人達の罪を背負わされる世界中の子供たちが重なっていく。この行き詰まった世界の中で、それでも前を向き静かに生きようとする少女の姿には、未来へ進むための祈りにも似た小さな希望の光を感じられた。
fromオーイシ。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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