復職した新聞記者が心の居場所を見出す『ヒューマン・ポジション』がいよいよ関西の劇場でも公開!
©Vesterhavet 2022
フィヨルドに囲まれたオーレスンを舞台に、主人公が猫や支えとなる恋人と過ごす生活で心の居場所を見つける様を描く『ヒューマン・ポジション』が10月25日(金)より関西の劇場でも公開される。
映画『ヒューマン・ポジション』は、病気の療養から復帰した新聞記者が、なにげない日常や社会とのつながりから心の居場所を見いだしていく姿を描いたノルウェー製のドラマ。ノルウェーの港町で新聞社に勤めるアスタは、地元のホッケーチームやアールヌーボー建築を保存するための小さなデモ、クルーズ船の景気など、地元に関するニュースを取材し、記事にしている。プライベートではガールフレンドのライヴとふたり、穏やかな時間を過ごしている。そんなある日、アスタは、ノルウェーに10年間住み、働いていた難民が強制送還されたという記事を目にする。その事件を調べていくについれて、アスタは自身を覆っていた無気力感を払拭し、仕事とプライベートの両方で自分が求める“心の居場所”を次第に見いだしていく。
https://www.youtube.com/watch?v=qvkG4c0i8tE
本作が長編2作目となるアンダース・エンブレム監督が、自身の故郷であるノルウェーのオーレスンを舞台に、主人公の心の機微や日常を優しく美しく、静かなタッチで描いていく。心に傷を抱いた主人公アスタを、エンブレム監督のデビュー作でもタッグを組んだアマリエ・イプセン・ジェンセンが演じた。
©Vesterhavet 2022
映画『ヒューマン・ポジション』は、関西では、10月25日(金)より、大阪・梅田のテアトル梅田や京都・烏丸御池のアップリンク京都、11月2日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。
優しさは距離感の中に宿る。本作を観終えた時、最初に浮かんだ感想がこれだった。
まず、カメラと登場人物との距離が優しい。本作のほぼすべてのショットが、固定カメラによるロングショットで構成されている。フィヨルドに囲まれたノルウェー・オーレスンの美しい街並みや、パステルカラーのかわいらしい家の中で、どこか所在無げな主人公アスタの姿をカメラは少し遠くから静かに映し出す。それは、まるで子猫や街中の鳥たち、あるいは彼女のパートナーであるライヴの視点であるかのようだ。カメラはアスタの回復を急かさず、適切な距離感を保ち続けている。身体や心のケアが必要なとき、誰かが適切な距離感で共にいるだけで、私たちは救われる。本作は、主人公が回復していく過程を描く中で、観客の身体や精神までも癒してくれる力を持っている映画だ。
また、サウンドも本作の優しさを体現している。劇伴はアスタの周りの生活音が主軸だ。街の声、波の音、鳥たちの羽ばたき。観ているうちに、いつの間にかこちらの感覚も研ぎ澄まされていく。物語の中でアスタが自分の居場所を徐々に取り戻していくのと同じように、観客もいつの間にか生活の手触りを取り戻していく感覚になる。だからこそ、ライヴから贈られるあるプレゼントに、落涙してしまったのかもしれない。
私たちは、現代社会で早く成果を出すことを常に求められている。心や身体を酷使して、なんとか今を生きている。本作は、タイトルの通り、人間本来の居場所はどこなのかをもう一度思い出すための映画だと思う。自分にとって居場所はどこなのか。人との距離感はどうあるべきか。本作は、これらの問いについて改めて考える良いきっかけを与えてくれるに違いない。
fromオーイシ。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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