負の遺産を背負っている世界で僕達は生きている…『湖の女たち』大森立嗣監督を迎え舞台挨拶開催!
琵琶湖のほとりに佇む介護施設で起きた殺人事件を追う刑事と、容疑者にあげられた介護士の関係性と、若手の雑誌記者が事件の裏にある薬害事件を追っていく『湖の女たち』が5月17日(金)より全国の劇場で公開中。5月19日(日)には、京都・二条のTOHOシネマズ二条に大森立嗣監督を迎え、舞台挨拶が開催された。
映画『湖の女たち』は、『日々是好日』『MOTHER マザー』の大森立嗣さんが監督・脚本を手がけ、吉田修一さんの小説を映画化したヒューマンミステリー。湖畔に建つ介護施設で、100歳の老人が何者かに殺害された。事件の捜査を担当する西湖署の若手刑事である濱中圭介とベテラン刑事の伊佐美佑は、施設関係者の中から容疑者を挙げて執拗に取り調べを行なっていく。事件が混迷を極めるなか、圭介は捜査で出会った介護士の豊田佳代に対して歪んだ支配欲を抱くように。一方、事件を追う週刊誌記者の池田由季は、署が隠蔽してきた薬害事件が今回の殺人事件に関係していることを突き止めるが…
若手刑事の圭介役を福士蒼汰さん、介護士の佳代役を松本まりかさんが担当し、特殊な関係に溺れていく刑事と容疑者という難役を熱演。ベテラン刑事の伊佐美を浅野忠信さん、週刊誌記者の池田を福地桃子が演じた。
上映後、プロデューサーの吉村知己さんが舞台挨拶の司会を担い、大森立嗣監督が登壇。作品に込めた思いを真摯に伝える姿が印象的な舞台挨拶が繰り広げられた。
「僕としては確信を持って脚本から映画に向けて作っていったんです」と話す大森監督。改めて「圭介と佳代の関係性は一言では言い表せない。恋人や夫婦ではない。不倫という言葉では片づけられないSM的な行為があり、どう捉えていいか分かりにくいと思うんですよね」と述べると共に「一方で、伊佐美や松江は負の遺産を持って生きている。さらに、もう一つは、記者が僕達の架け橋になる人。事件のもみ消しに抗おうとする。三者三様に、負の遺産を背負っている世界で僕達は生きている」と解説。そこで「圭介と佳代が湖のように存在している。湖は雄弁には語ってくれない。自然物である湖は、勝手にグロテスクで、勝手に美しい」と説き「海には物語が出来る。湖は見つめ返してくる。つまり、自分達が感じたことを映し鏡のように湖が伝えてくる。彼等に対してカテゴライズできない。彼等をどう思うか、は僕達にそのまま返ってくる」と吉田修一さんの言葉を引用しながら表す。プロデューサーの吉村さんも吉田修一さんの原作を読んでおり「原作にほぼ近しい。少しだけ変えている。例えば、記者は原作では男性だけど、大きな流れは変わっていない。途轍もなく必要なことが描かれている原作。難しいことは色々ありますが、これを映画に出来たら、今大事なことが映画として社会に提案が出来る」と確信し、一生懸命に切磋琢磨して作り上げた。特に「40代,50代のこれからまだまだ社会を支えていったり、子供が出来たりして未来のことを考えていかないといけない人達が感じなければいけないことや認識しなければいけないことがこの映画に描かれている」と理解しており「それをきちんと丁寧に届けられるように作ろう」と意気込でいる。
そして、今回は、ティーチイン形式でお客様からの質問に応えていった。湖が綺麗に撮影されていることについて聞かれ、大森監督は「明け方に撮ってやろう(と取り組みました)。場所は何処から何時に日が出て…と全部調べて計算しましたね。様々な湖で撮っている。映画の冒頭部分、船から撮っているシーンだけは別の日に撮っている。夜に水が黒いのは、カメラマンが探って撮ってくれましたね」と振り返る。原作では、吉田さんによる自然に対する描写がしっかりしており「(描写が)凄くて、読んで感動した。吉田さんの書評を書くために、この小説を読んだんです。その時は映画館に関する話はなかった。その後、編集者を通じて、吉田さんから監督リクエストの手紙を頂き、(映画化)が始まった」と明かし「一読した時の印象は、湖の最後の描写が凄かった。救いを自然に求めるしかない人間が、人間でありつつ生物である部分を描きたい」と思いを抱いていたことを語った。次に、ラストシーンの解釈について聞かれ、本作で描かれている様々な要素も含め解説していく。
キャスティングについて聞かれ、松本まりかさんについて「19歳の頃から知っている。彼女が映画をやりたいこと、女優としてすぐに売れていったわけではなく、その頃のことも知っている。今の彼女なら、この映画を成立させるような力もある。それらが上手くハマったことが大きい。松本さんと仕事が出来たのは幸せなこと」だと受けとめており「よくここまで、女優をやりたい、と思い続けて戦ってきたなぁ。僕自身も監督になって20年ぐらい、よく映画を作り続けられているなぁ」と現場で感慨深く見ていたことを話す。福士さんを大森監督に提案したのは吉村さんで「どちらかといえば、ヒーロー・戦隊ものやラブストーリーが多いので、圭介みたいな役を演じるイメージは無い。彼みたいな人が圭介という役を演じてくれるのは賭けだった。やるとなったら、相当な覚悟を決めてやるだろうな。2人とも覚悟がある役なので、そこに賭けてみた」と明かした。財前直見さんについて、大森監督は「地元の大分に帰って農業しているのをTVで観た。良い歳のとりかた、皺が自然に刻まれていて、太陽を浴びて土をさわって生きている女性に見えた。着飾って美しい女優の姿を脱ぎ捨てている」と興味を持ってオファーしている。浅野忠信さんに関しては「凄い俳優で、ずっと興味があったが仕事する機会がなかった」と振り返り「90年代前半、今までの演技の仕方を1人で変えた。それは、絶対に嘘をつかない芝居をしている、と思った。その後に、そのことさえも自分で超えていった。相米慎二監督の『風花』では、自分の感覚の振り幅を大きくしていく。その後はアメリカにも行ってしまう。1人でエポックメイキングで自分を変えていける力がある俳優。浅野さんを使い切る監督は日本に少ない。興味があり、やりたいことがハッキリしている人ですよね」と讃えた。記者役の福地桃子さんは、7,800人規模のオーディションの中で選ばれており「この映画のように、グラグラ揺れている福地さんを選んだ」と明かす。その記者を男性から女性にしたことについても聞かれ「『湖の女たち』というタイトルであるので女性が良い。それとは別に、福地桃子さんは感受性が強いので、世界が美しいかどうか、という大きなテーマに敏感に(なってくれる)。彼女が社会にまみれていないことを表現したかった。心がグラグラして上司に抵抗する。男が記者が演じると、マッチョに見られるのを避けたかった」と説く。最後に「観て頂いて嬉しい限りです。僕、やっていることに自信がある。伝わる人には伝わっている。志は高く持って、これからもやっていこう、と思っているので、是非応援して頂けば」と思いを込め、舞台挨拶は締め括られた。
映画『湖の女たち』は、5月17日(金)より全国の劇場で公開中。関西では、大阪・梅田のTOHOシネマズ梅田やテアトル梅田、難波のTOHOシネマズなんば、京都・二条のTOHOシネマズ二条や三条のMOVIX京都、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸等で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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