大衆演劇に興味を持って観てもらったら、さらに映画がおもしろくなる…『瞼の転校生』松藤史恩さんと藤田直哉監督を迎え舞台挨拶開催!
埼玉県川口市を舞台に、大衆演劇の世界に生まれ転校を繰り返す少年が、出会った人々と限られた時間の中で心を通わせ、成長していく姿を描く『瞼の転校生』が関西の劇場でも4月5日(金)から公開。4月6日(土)には、大阪・十三の第七藝術劇場に松藤史恩さんと藤田直哉監督を迎え、舞台挨拶が開催された。
映画『瞼の転校生』は、若手映像クリエイターの登竜門にもなっているSKIPシティ国際Dシネマ映画祭の20周年と、映画祭の開催地でもある埼玉県川口市の市制施行90周年を記念し、埼玉県と川口市が共同製作した長編映画。川口市を舞台に、大衆演劇の世界に生き、公演に合わせて転校を繰り返す中学生が、限られた時間の中で出会う人々と心を通わせながら成長していく姿を描いたヒューマンドラマ。旅回りの大衆演劇一座に所属する中学生の裕貴は、公演に合わせてひと月ごとに転校を繰り返している。そのため、どの学校でも出会いに期待せず、友だちを作ろうともしない。そんな裕貴だったが、ある学校に通っていた時、担任から学校へ来ないクラスメイトへの届け物を頼まれたことをきっかけに、不登校なのに成績優秀な建と知り合う。ひょんなことから彼と仲良くなり、建の元カノである茉耶も加わり、3人で過ごす時間が増えていくなかで、裕貴は2人に役者として舞台に立つ自分を見てほしいと思いはじめるが…
裕貴役は『雑魚どもよ、大志を抱け!』等に出演してきた松藤史恩さん、建役は『カラオケ行こ!』の齋藤潤さん、茉耶役は『福田村事件』で映画初出演を果たした新人の葉山さらさん。そのほか、村田寛奈さん、タモト清嵐さん、高島礼子さん、佐伯日菜子さんらが脇を固める。監督は、『stay』で2020年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭国内コンペティション短編部門の優秀作品賞を受賞した新鋭の藤田直哉さん。
今回、上映後に松藤史恩さんと藤田直哉監督が登壇。本作や大衆演劇の魅力が伝わってくる舞台挨拶が繰り広げられた。
長編作品デビューとなった藤田監督は初めての経験が多い中で「お客さんとふれあう中で様々な感想を頂けると共に、考えさせられる機会もあり、次の作品製作に向けて背中を押されている」と心境を話す。初主演映画となった松藤さんは緊張ぎみになりながら「初主演映画が、この作品になったことを嬉しく思います」と語った。
大衆演劇について、北海道出身の藤田監督は「北海道には大衆演劇の劇場がない。関西や九州で盛り上がっている。僕が上京するまで全く知らなかった」と告白。松藤さんも知らなかったが「小学1年生の頃、歌舞伎を体験した。その時、大衆演劇について見世物のようなものだと捉えていた」と打ち明ける。今回、主演することが決まり、改めて調べていく中で「歌舞伎は高貴なもの。大衆演劇は誰でも気軽に行ける。歌舞伎と大衆演劇で差はない、と聞いた。派生型のようなもの」と知り、実際に藤田監督と鑑賞し、そのおもしろさを分かっていく。お客さんを見送る「送り出し」というものに驚きながら「舞台上ではお客さんをイジる。舞踊ショーの中でファンサービスがある。お客さんとの距離が近い。歌舞伎とは距離感に違いがある」と理解していった。
大衆演劇の概念のようなものが降りかかってきた時期を迎えた藤田監督は、かつては地下アイドルを追いかけていた時期と重なるものを感じ「お客さんの距離感やライブ感がリンクするところがあり、個人的に刺さるものがあった。これを使って映画に出来ないかな」と本作を構想。そこで、大衆演劇の役者さんに取材して脚本化していった。松藤さんは、役作りにあたり「裕貴は、座員さん以外とは関わらない子。建と最初はどう接していいか分からない。次第に、本当の友達として関わっていく時間経過を意識して演じました」と思い返す。松藤さん自身は、生後半年から俳優をやっており「裕貴も生まれた時から舞台に立っているので、同じかな」と自身と重ねていく。
キャスティングにあたり、裕貴、建、茉耶の役はオーディションで決めている。松藤さんについて、藤田監督は「佇まいが裕貴だ」と直感し「演技してもらったら、自分の言葉でやってくれる。落ち着いている。媚びずに淡々とやってくれた。子供歌舞伎や日本舞踊を習っていた、という情報はあったが気にしておらず、ふたを開けてみると、それが映画に活きている」と感じた。女形も演じることになるが「化粧してみると映えるかどうか、オーディションでは分からない。やってもらったら、相当綺麗」と驚き、ポテンシャルを発揮してくれている。
脚本製作にあたり、藤田監督は「大衆演劇一座で生まれた子は1ヶ月毎に転校するので、学校をメインにして生きていないことにフィーチャーした。建も自ら不登校を選んでおり、ある意味ではアウトロー。そういう人達を映画で描くことで、大衆演劇の世界で生きている人達をポジティブに肯定できる映画になればいいな」と企画。台本を読んだ松藤さんは「台詞にふせんを貼ってみたら、多いな」と驚き「ほぼ全部のシーンで台詞がある。物語に触れていくと、裕貴は最初の頃は心を閉じている。『友達はいらないです』と言ったのは、慣れているからなんだろうな。建君と出会って、心が開いていくんだろうな」と受けとめた。建を演じた齋藤潤さんについて「とにかく格好良い。凄くイケメン。演技をやっていきながら、本番中は『上手いなぁ』と思った。ついていけるか分からなかった」と衝撃を受けてしまう。茉耶を演じた葉山さらさんついても「演技が上手い」と感じ「この2人に主演の僕はついていけるかな」と不安に。とはいえ、仲良くさせてもらい「お弁当を一緒に食べたり、話したりしながら、3人で話す機会が多くあり、コミュニケーションが楽しい」と現場を楽しみ「撮影でもおもしろいので、勉強にもなります。潤君はファンが多く、そこからも学ぶことがありました」と参考になることが多かった。撮影現場では緊張しきりだったが「潤君やさらさんが『大丈夫だよぉ』って言ってくれて、緊張が少しずつ解きほぐれていきました」と助けてもらっている。
作中には、ドキュメンタリーチックなシーンがあり、藤田監督は「搬入に関しては、プロフェッショナルがいるので、再現性が難しい。ならば、実際に撮らせてもらう方が、導入として没入できる。実際は、10tトラック2台分の搬入があり、相当な物量を毎月出し入れしている」と解説。出演してもらった劇団美松に関しては「大衆演劇の中でも関東で若い人が中心になって活躍している劇団として候補に挙がり、お願いした。当時18歳の市川華丸君には、どういう中学・高校生活を送っていたか、をヒアリングして脚本に取り入れた」と話す。キャスティングによって脚本が変化しているところもあり「オーディションで決まった後、3人に寄せていったことがあります。それは、彼らが演じる意味がそこにある。キャラクターを自分に寄せて演じてもらうことで深みが出る。それをやらないと3人の良さを画面に映し出せない」と説明。撮影のスケジュールはタイトだったようで「劇場で使って撮影したので、撮影量に対して時間が少ない中で、松藤君が鬘を付けて化粧するのは、疲弊して時間がかかる。それは話し合いながら無理しない程度に」と気遣った。松藤さんも「鬘が重かった。次第に首が痛くなってくる。撮影の合間には踊っている。カットがかかった瞬間に前かがみになってしまう。白塗りは、皮膚呼吸が出来なくなる。少しずつだるくなってくるので、精神的にもきつくなる。首も痛くなるので、危険な状態に」と打ち明けてしまう。女形の演技については「小学1年生で歌舞伎にハマり、銀座のスクールで白塗りすると、自分の心の中にあるスイッチが入るので、表情や振りの仕方が、女っぽく出来る」と述べた。
最後に、藤田監督は「大衆演劇を知らない人も、是非この映画をきっかけに観にいってもらえたら。この3人を好きになってもらえるような映画を作ったつもりなので、応援して頂いてスターになれるように」とメッセージ。松藤さんは「この映画を通じて、大衆演劇に興味を持って頂いたなら、劇場に足を運んで頂いて、大衆演劇にふれて頂くと、より一層にこの映画がおもしろくなる」と期待を込め、舞台挨拶は締め括られた。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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