“プールの底”から始まる青春群像劇『水深ゼロメートルから』が第19回大阪アジアン映画祭のコンペティション部門で世界初上映!
©『水深ゼロメートルから』製作委員会
プール掃除を指示された女子高校生達と、掃除に合流した水泳部の同級生達が他愛ない会話を重ねていく『水深ゼロメートルから』が第19回大阪アジアン映画祭のコンペティション部門で世界初上映された。
映画『水深ゼロメートルから』…
高校2年生のココロとミクは体育教師の山本から、夏休みに特別補習としてプール掃除を指示される。水の入っていないプールには、隣の野球部グラウンドから飛んできた砂が積もっていた。2人が嫌々ながらも掃除を始めると、同級生で水泳部のチヅルや、水泳部を引退した3年生のユイも加わる。学校生活や恋愛、メイクなど何気ない会話を交わすうちに、彼女たちの悩みが溢れ出し、それぞれの思いが交差していく。
本作は、『カラオケ行こ!』『リンダ リンダ リンダ』の山下敦弘監督が、2019年に開催された第44回四国地区高等学校演劇研究大会で文部科学大臣賞(最優秀賞)を受賞した徳島市立高等学校の同名舞台劇を映画化した青春群像劇。舞台版の原作者である中田夢花さんが脚本を手がけ、メインキャストにはココロ役の濱尾咲綺さん、ミク役の仲吉玲亜さん、チヅル役の清田みくりさん、ユイ役の花岡すみれさんらフレッシュな顔ぶれがそろった。
©『水深ゼロメートルから』製作委員会
映画『水深ゼロメートルから』は、3月7日(木)10:30よりABCホールでも上映。そして、5月3日(金)より全国の劇場で順次公開予定。
中学・高校の6年間の部活が水泳部だったものとしては、短水路(25m)のプールを水深ゼロメートルからカメラが捉えた映像を見せられた時、これは高校にあったプールと同じだ!と思わされ、ノスタルジーに浸ってしまった。全国の公立高校にあるプールのデザインはあまり違いがないのかもしれない。校庭の隅っこに追いやられたかのように思える場所にプールがあり、校庭の大部分を占めることが多い野球部からボールが飛んできたことが実際にあった。本作の場合は、砂まで飛んでくる始末だ。実際にそんな高校はわりとあるのだろうか。撮影するにあたり、実際にそんなロケーションを探したのか。無かったとしたら、よくぞ実現させてくれる高校を見つけられたな。プロダクションノーツを是非とも読んでみたい。本作に登場する女子高校生達は、とある理由で水がないプールでの掃除を体育教師から指示されるが、真面目に掃除する者はおらず。田舎の女子高校生らしい脱力感あるオフビートな会話劇が繰り広げられていく。このテイストは山下敦弘監督作品との相性が良く、ゆったりとした気持ちで観ていられる。だが何気ない会話の中には、登場人物各々の立場におけるジェンダーの在り方が語られていく。共学高校における女子の在り方、男女が一緒になって取り組んでいる部活における女子の在り方、また、教員の中にある女性の在り方まで込められていた。本作は、高校演劇が基になっているが、顧問の指導が入ったとしても、女子高校生がリサーチをした上でここまでのジェンダー論を盛り込んだ脚本を具現化したことに驚かされると共に、感動の境地に至ってしまう。全国大会レベルの高校演劇となれば、プロの演劇に匹敵するクオリティがあることは『アルプススタンドのはしの方』を通じて実感したが、またもや傑作の誕生だ。予想外のシスターフッド作品だが、ラストは山下監督作品ならではのエモーショナルな盛り上がりがあり、その後にスカートの澤部渡さんの声がじんわりとココロに響いてきた。今回、コンペティション部門のグランプリ(最優秀作品賞)は本作で良いんじゃないか!
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!