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自分の人生を家族に搾取されてきた女性が、母親から虐待されている少年と出会い、自身の“声なきSOS”を聴き救い出してくれた日々を思い出す『52ヘルツのクジラたち』がいよいよ劇場公開!

2024年2月26日

©2024「52ヘルツのクジラたち」製作委員会

 

家族から搾取されて傷ついた辛い記憶を持つ女性が、虐待を受けている少年を助け、自らを救った人物を思い出す様子を描き出す『52ヘルツのクジラたち』が3月1日(金)より全国の劇場で公開される。

 

映画『52ヘルツのクジラたち』…

自分の人生を家族に搾取されて生きてきた女性である三島貴瑚。ある痛みを抱えて東京から海辺の街の一軒家へ引っ越してきた彼女は、そこで母親から「ムシ」と呼ばれて虐待される、声を発することのできない少年と出会う。貴瑚は少年との交流を通し、かつて自分の声なきSOSに気づいて救い出してくれたアンさんとの日々を思い起こしていく。

 

本作は、2021年本屋大賞を受賞した町田そのこさんのベストセラー小説を、杉咲花さん主演で映画化したヒューマンドラマ。杉咲さんが演じる貴瑚を救おうとするアンさんこと岡田安吾を志尊淳さん、貴瑚の初めての恋人となる上司の新名主税を宮沢氷魚さん、貴瑚の親友である牧岡美晴を小野花梨さん、「ムシ」と呼ばれる少年を映画初出演の桑名桃李さんが演じる。『八日目の蝉』『銀河鉄道の父』の成島出監督がメガホンをとり、『四月は君の嘘』『ロストケア』の龍居由佳里さんが脚本を担当。タイトルの「52ヘルツのクジラ」とは、他のクジラが聞き取れないほど高い周波数で鳴く、世界で1頭だけの孤独なクジラのことを指す。

 

©2024「52ヘルツのクジラたち」製作委員会

 

映画『52ヘルツのクジラたち』は、3月1日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のTOHOシネマズ梅田や難波のTOHOシネマズなんば、京都・二条のTOHOシネマズ二条や三条のMOVIX京都や七条のT・ジョイ京都、神戸・三宮のOSシネマズミント神戸等で公開。

最初のシーンがスクリーンに映し出された瞬間に「この場面は本で読んだあのシーンだ!」と感じ、物語の世界にすんなりと入り込めた。いや、貴瑚やアンさんに再会するために帰ってきた、というべきだろうか。原作を愛読した者の目から見て、映像化されたその景色に既視感があるというのは凄いことだ。この冒頭のシーンからだけでも、この映画は製作者たちが原作をきちんと読み込み、背景となる問題を注意深く扱い、とても誠実に映像化していることが伝わってきて安心した。

 

映画化にあたり、脚色もよく考え抜かれている。思い切って割愛された要素も多い。活字では文字数を費やし、じっくりと表現できた場面を、映画では短い映像で伝えるために的確に落とし込まれたシーンの数々にも感心する。例えば、貴瑚が出会う少年の呼び名を決める場面は、原作を上回る説得力のある流れの上手さに唸ってしまった。

 

キャストが本当に素晴らしい。主演の杉咲花さんは最近の公開作である『法廷遊戯』や『市子』等での、幸せではない主人公の生き様を全力で演じる姿が印象的だった。本作ではその演技力がさらに先のステージへと進んでいる感がある。映画の公開に合わせた各プロモーションでは、多数のメディア上にインタビュー記事が多数公開されているが、そこでのコメントからうかがえる、本作に向き合う真摯な姿勢は深く尊敬する。他の俳優の方々も実に見事で、一人ずつ絶賛していくとキリがない。

 

切実に叫ぶ声が周囲には届かない者達の姿を見ていると、辛くて重く苦しくなる物語は、抜群の俳優陣とスタッフの手でしっかりと語り切っている。杉咲花さんの言葉を借りるなら「現代社会を生きる人々が、共に考える問題」が慎重に描かれ、観た後には「前よりは聞こえる音域が少し広がったと思える」作品だ。

 

なお、原作では説明されているが映画では省略されていた情報を二点挙げたい。ひとつは、一般的なクジラの鳴き声は10~39ヘルツ程度、だから52ヘルツで鳴くクジラの声は仲間たちに届かない。そして、劇中でも貴瑚や少年が動画で聞いているこのクジラの声は「人間の耳に聞こえやすいように加工されたもの」だという。キューン、といういかにも切ない響きなのだが、実際の声はもっとブオーッ、というくぐもった低い音のようだ。彼らの本当の声は、いまだ我々には届いていないのかと思うと、なんだか悲しくもある。もう一点は、原作の小説を手に取ってみてほしい。鑑賞後でも問題ない。文庫本のカバーを捲ると、その裏には後日談のエピソードが掲載されており、要チェックなポイントだ。

 

試写にて鑑賞後しばらく経った今でも、ふとした瞬間にあの海辺の町を思い出し、クジラの声が聞こえるような気がして耳を傾けてしまう。本作を初見した時の余韻を大事にとっておきたい気もしている。だが、またすぐにもう一度観に行きたい気持ちのほうが強い。いくら言葉を尽くしても、この作品の良さを伝えるには足りないのがもどかしく、ただ「観てください!」としか言えない、それほどの傑作だ。

fromNZ2.0@エヌゼット

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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