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伊藤野枝はあらゆる権力に立ち向かった人…『風よ あらしよ 劇場版』柳川強さんに聞く!

2024年2月7日

大正時代に、筆の力だけで結婚制度や社会道徳に異議を唱えた女性解放運動家である伊藤野枝の生き様を描く『風よ あらしよ 劇場版』が2月9日(金)より全国の劇場で公開される。今回、演出の柳川強さんにインタビューを行った。

 

映画『風よ あらしよ 劇場版』は、2022年にNHK BS4K・8Kで放送された吉高由里子さん主演の特集ドラマ「風よ あらしよ」を再編集したもの。大正時代に結婚制度や社会道徳に真正面から異議を申し立てた女性解放運動家の伊藤野枝を描いた。原作は村山由佳さんによる評伝小説。福岡の田舎の貧しい家で育った伊藤野枝は、家族を支えるための結婚を断り、単身上京する。「元始、女性は太陽だった」と宣言し、男尊女卑の風潮が色濃い社会に異を唱えた平塚らいてうに感銘を受けた野枝は、らいてうらによる女流文学集団・青鞜社に参加。青鞜社は野枝が中心になり婦人解放を唱えていく。第一の夫であるダダイストである辻潤との別れ、生涯をともにする無政府主義者である大杉栄との出会い、そして関東大震災による混乱のなかで彼女を襲った悲劇など、野枝の波乱に満ちた人生を描いていく。野枝役を吉高さん、平塚らいてう役を松下奈緒さん、辻潤役を稲垣吾郎さん、大杉栄役を永山瑛太さんがそれぞれ演じる。演出は吉高主演のNHK朝の連続テレビ小説「花子とアン」も手がけた柳川強さん。

 

偶然にも書店で「妙に禍々しく赤い本があるな、なんなのかな」と思い、村山由佳さんの「風よ あらしよ」を手に取った柳川さん。伊藤野枝は以前から興味があったが、村山由佳さんと結びつかず「どういった本なんだろうな」と思って購入したこともあり「表紙の印象の凄さにやられました」と話す。

 

伊藤野枝の評伝小説である原作の脚本化にあたり「全て映像化したら、6~8時間程度かかる」と見積もり「まず、青鞜社はそんなに描かないことにした。青鞜社はきっかけにしか過ぎない。また、四角関係は深堀りしても、話が別方向に行ってしまうから、あまり描かない」と取捨選択しており、野枝中心の物語にしている。他にも、辻潤との2番目の子供のことは描いておらず「あれをやると2時間で収まらなくなる。しかし、大杉との生活はしっかりと描いた」と説き、2時間に収めるためには苦労したようだ。なお、テレビドラマ版は劇場版より30分長く「ドラマの方が、青鞜社についてもう少し深く平塚らいてうとの件等は描いています。青鞜社が、当時の男性社会で石を投げられたり唾を吐きかけられたりしてバッシングされていた様子などを色濃く描いていますね。逆に言えば、映画にするにあたり、青鞜社の件は割と割愛しているところがあるかもしれない」と挙げる。昨今の社会情勢を鑑み「当時の社会は、現代の風潮に近い」と捉えており「当時のメディアは雑誌と新聞。雑誌と新聞で色々言われることと今のSNS論争が同じではないか」と意識していた。

 

キャスティングにあたり、メインとなる4人全て第一希望が通っている。通常、俳優のスケジュールが合わなかったりすることも多いが、珍しいことだ。吉高由里子さんについては、2014年にNHK連続テレビ小説『花子とアン』の主演をしていることもあるが「伊藤野枝について考えた時、主張する女性という面だけを強調して描くと、野枝の愛らしさは出せない。野枝には、感受性のお化けであり人たらしでもあるという2つの側面がある。人たらしじゃないと、その主義主張に皆がついてこない。青鞜社で一番若い人が編集長になることもありえない。人たらしと感受性のお化けにという点について考えた時、キャスティングする際のリストアップでは様々な名前を書いたが、やっぱり吉高さんだよね」と自然に定まった。松下奈緒さんに関して「平塚らいてうは、時代を切り開くアイコンであり、太陽みたいな人。上流階級の人であり、高貴なイメージも持つ松下奈緒さんの顔が思い浮かび、ぴったりだな」と直感。稲垣吾郎さんについて「彼には退廃的なモードもあるし、明治・大正の知識人というムードも持っている」とピッタリだった。永山瑛太さんは「大杉栄はやんちゃな男性だけど主張がある。原作では、目が大きく引き込まれるような魅力があるような書かれ方があった。大人も子供にも大杉は好かれるイメージもあり、それは瑛太さんしかいなかった」と説く。なお、甘粕正彦について、ベルナルド・ベルトルッチ監督の『ラストエンペラー』では、坂本龍一さんが演じていたこともあり「格好いいイメージを作ることはできる。退廃的なエロティシズムを醸し出す人として描くこともできる。所謂誰かの命令でやっている中間管理職的な描き方も可能」だと検討し「どちらのキャラクターにするべきか…軍隊の上層部から言われてやっている雰囲気が出た方がいい。写真を見てみると、音尾琢真さんに少し似ているんです。だからこそ、最初からブレずに音尾さんだったんです」と明かした。

 

なお、NHKの衣装部は、激動の大正時代を表現することを得意としている。今作では、キャラクターの性格に応じて色合いを決めたことが大きく「例えば、着物。野枝さんの生命力を表すためには、ブルー系の色合いにしている。逆に、らいてうさんは時代のアイコンでもあるので華やかなイメージもあるが、どこか気の弱い面もあるので、薄赤っぽいイメージが合っている、とか。神近市子は、強いキャラクターを出すために強い色。特に、4人で集まる時は、彼女の心の底に秘める怒りを表現するため火炎色の衣装にしており、衣装のカラーには拘って作っています」と挙げた。小道具は、当時について十分に調べた上で作っており「野枝が書いた字は力強い。書道指導の人にお願いし、力強い字を意識してもらった。細かい箇所でしっかりとキャラクターが出るようにしています」と説明する。

 

撮影では、吉高さんに対して、のべつ幕なく風を当てたり雨を降らしたりしており「タイトルを意識していることもありますが、野枝はひたすら何かに戦い続けている人だから、ずっと風を当てているんです。吉高さんは苦労したと思います。しかも撮影は冬、寒さの厳しい1月から2月だったので、海で撮影していると、寒かっただろうな」と慮っていた。また、伊藤野枝の生命力を表現するために頻繁に走らせており「伊藤野枝はあらゆる権力に立ち向かった人ですから、負荷をかけても負けないように演じることが一つのテーマでもある。途中で、吉高さんは『肉離れになるよ』と言っていたけど、走ってもらいました」と明かす。その結果として、吉高さんが伊藤野枝になったと感じる瞬間がいくつもあり「辻潤と離別するシーンでは、野枝の悔しさを体全体で表現していた。演説シーンでも体が持つ全ての力を使って声を出している」と表す。

 

編集では、120分のバージョンを一度は作っていたが「急いで作っている部分もあり、芝居の間合いを切り刻んでいた」と納得がいかなかった。だが、劇場版では「丁寧に延ばし、テレビドラマ版ではないシーンを入れている。劇場版の編集では事細かに作っているんです」と明かし「やはり違うのは、音です。劇場版では、音楽を5~8曲程度減らしている。すると、SEが持ち上がってきた。音楽でかき消されていた風と嵐の音が全て表に出てきて野枝の心情を描く上でプラスになっている」と解説。また、テレビドラマ版ではエンディングテーマが無かったが、劇場版では、梶浦由記さんのソロプロジェクトであるFictionJunctionがfeat. KOKIAとしての楽曲「風よ、吹け」がエンディングテーマとなり「梶浦さんによる歌詞が野枝の心情に寄り添い、エンディングでほのかな希望をも感じさせられる内容になっている。逆に言えば、あのエンディングにするためには、音楽を減らした方が良く、細かく変えてやっています。全く別のものになっている」と実感。完成した劇場版の本作を観て「伊藤野枝の短い人生をより一層に感じられる。短いけど凄く太く、激動の時代を駆け抜けた人生だった」と不思議な事に、より感じられるようになった。他にも事細かく変えており「映像のルックとかも変えているんです。劇場版の方が伝わるものがあるんじゃないか。劇場版によって多くの方に観て頂けるのは嬉しい。日常生活ではない空間ではより多くの方に野枝の存在そのものが伝わる」と期待している。

 

様々な時代を映し出す作品を手掛けてきた柳川さんは「社会派と呼ばれる作品を色々とやってきているので、もう少し取り組んでいきたい」と意気込んでおり「欧米やハリウッドでは、エンターテイメントだけど、しっかりと様々な社会問題に踏み込んでいる作品が多い。日本では少なさ過ぎる気がする。もっとやるべきだと思うし、今後もやっていこう」と志は高い。

 

映画『風よ あらしよ 劇場版』は、2月9日(金)より全国の劇場で公開。関西では、2月9日(金)より大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や難波のなんばパークスシネマ、京都・三条のMOVIX京都、神戸・三宮のkino cinéma神戸国際、2月10日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、2月16日(金)より京都・烏丸の京都シネマ等で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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