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1つの命が産まれ、社会で共に生きていく…『1%の風景』吉田夕日監督に聞く!

2023年11月25日

©2023 SUNSET FILMS

 

新たな命を産もうとする女性と、これから生まれてくる命に寄り添い、命に向き合う助産師の姿を4年にわたり収めた『1%の風景』が11月25日(土)より関西の劇場で公開される。今回、吉田夕日監督にインタビューを行った。

 

映画『1%の風景』は、助産所や自宅での出産を決めた4人の女性と、彼女たちをサポートする助産師の姿をとらえたドキュメンタリー。日本では現在、99%のお産が病院やクリニックなどの医療施設で行われている。そんな中、助産所では1人の助産師が医療機関と連携しながら、妊娠・出産・産後と子育ての始まりまで、一貫して母子をサポートする。自身も第2子を助産所で出産し、助産ケアのきめ細やかさと奥深さに感動したという吉田夕日監督が、都内にある2つの助産所を4年間にわたって取材。命を産み、育てようとする女性たちと助産師が過ごすささやかな日々にカメラを向け、多様化する社会で失われつつある“命の風景”を映し出す。

 

映画にする予定ではじめたのではなかったという吉田監督。「何を撮ることが出来るのか分からないけれど、まずは、記録することからスタートしたい」と助産師さん達に説明し、取材を開始した。助産師さん達も、「ありのままを撮ってみたいんだったら、撮影してみては?」と快く承諾。今回、取材を受けて頂いた4人の妊婦さんも助産師さんから撮影協力をお願いすると「記録を残したかったんです。プロの方に撮ってもらえるなら嬉しい」と皆さんが前向きに引き受けてくださった。

 

「家族や親戚でもない自分が出産の場にいることで何かあったら嫌だな」と考え、「妊婦健診の時から出産する女性たちと関係性を作るため、助産師さんとずっと一緒にいるようにしました。妊娠3~5ヶ月の頃からなるべく顔を会わせ、お産の本番を迎えるようにしました」と心がけを話し「存在を上手に消せたかな」と安堵している。撮影にあたり「私がいることで現場の空気が動いたり崩れたりすることがないように、そこにいるかいないか分からない程度に息を潜めていよう」と心がけており「カメラポジションを決めたら、なるべくそこから動かないようにして撮っていました」と説く。神谷整子さんが営むみづき助産院さんには助産師さんが数名おり「助産師さんの動きにあわせ、その範囲で私も動くようにして撮っていたんです。カメラもマイクも自分1人で担当していたので、お母さんたちに与える影響も少なくできたかな」と捉えている。

 

初めてつむぎ助産所で菊田冨美子さんのお産を撮影した時に「これは映画にできるかもしれない」と直感。「命が向こうからやってくる時間をどういったスタンスで過ごしているのか」と考えながら、寄り添う助産師さんの姿を撮りながら「私が撮影を始める前に思い描いていた、妊娠・出産というテーマよりも、もっと深いものを見つけられるかもしれない」と感じていく。改めて「助産師さんが妊婦さんの傍でずっと待っている姿が、映画化を考えるきっかけになったシーンでもあります」と語った。

 

お産は、”絶対この日に産まれます”と計画的に行われるものではない。吉田監督は「いつ助産師さんから連絡が入るか分からない状態。いつ呼ばれても良いように、出産予定日の前後2~3週間程度のスケジュールを確保しておくことがとても難しかった」と振り返り「予定日が近くなると、夜中に呼ばれてもすぐ出かけられるように、実家から母に来てもらうなど調整をし、枕元では携帯電話を離さず持って寝ていた」と明かす。「呼ばれて直ぐに向かったとしてもお産の進みが早く、間に合わなかったこともあった。お産は人それぞれであり、難しい撮影だった」と痛感しているが「私も妊娠・出産を経験して、子どもも小さかったこともあり、お母さんたちに共感できることがとても多かった」と語り、「被写体に共感しながら撮っていたので、傍に寄り添わせてもらえたのかな」と受けとめている。最終的には→「妊娠や出産は個人的な体験であったとしても、その特別な時間は社会で共感すべきこと。命が産まれることは、私たちの生活の延長線にある」と撮影しながら感じていた。

 

四人の出産に立ち会った後、一つの作品にまとめるにあたって、各々の素材を御家族毎に纏めてピックアップしていった。吉田監督は、テレビの仕事もしていることから、仕事の合間をぬって取り組んだ。最初に纏めた際は5時間程度になったが、シーンを取捨選択して少しずつ縮めていき、現在の作品が出来上がっている。なお、コロナ禍を迎えるまでは、「助産所とは何か」というテーマで、現在の助産所が抱えている問題等を掘り下げようと考えたこともあった。だが、コロナ禍以降、命の営みをじっくりとみつめる方向にシフトしていく。同じ頃に、ベテラン助産師の神谷整子さんがお産の取扱いをやめることが分かり、神谷さんの最後のお産を記録することにした。普段手掛けているテレビドキュメンタリーでは、最初に企画書を書いて内容がある程度決まってから取材に出かけており、企画書の内容に沿って撮撮していくことが多いという。吉田監督は「今回、企画を細かく立てず撮り始めたからこそ、私が思っていない方向に向かっていったことに意味があった」という。最後に、平塚克子さんのお産への日々を撮りながら「撮影を始めた当初に感じていたことよりも、1つの命が産まれ、その命と共に生きていくことが重要なテーマだ」と感じ、彼女のお産を撮れた時に「1つの作品にしよう」と確信できた。

 

出来上がった作品を観たお母さん達は「一生の記念になりました」と喜んでくれたという。「助産所で産む選択をする方たちは、自らの出産に主体的に取り組んできた方でもあります。助産所での出産に納得し、凄く良いお産だった、という記憶として残っているので、とても喜んでくださいました」と印象深い。助産師さん達も「こんな風になったのね」と驚き「自分達がしていることを言葉で伝えていくのは難しいので、映像に残してくれてありがとう」と感謝の言葉を頂いた。既に、東京の劇場では公開されており、出産を経験している女性のお客さんから「もっと早く知っていたら、助産師さんと産んでみたかった」という声があれば、とある男性からは「見たことの無い世界。貴重な映像をありがとう」という感想を頂いている。「性教育として」親子連れで観に来た方もおり「様々な層の方が観てくれて、それぞれ感じ方も少しずつ違うけれど、皆さん肯定的に受け取ってくれていて『あったかい気持ちになった』と言ってくださる」と喜んだ。今回、助産所を舞台に助産師さんと産む女性たちの関わりを記録した本作を「私のすぐ近くにあったものなのに、目を向けたことがなかった世界」と語り、「半径5mの世界からもテーマを見つけられることがわかったので、今後もそういうところから記録を始めて、映画を作りたいな」と今後を楽しみにしている。

 

映画『1%の風景』は、関西では、11月25日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、12月1日(金)より京都・出町柳の出町座、12月2日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。また、兵庫・豊岡の豊岡劇場でも近日公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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