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体験や感情を詰め込めるだけ詰め込み、削ぎ落せるだけ削ぎ落して作った…『ABYSS アビス』須藤漣さんと渡辺あやさんを迎え舞台挨拶開催!

2023年10月21日

ある青年が、兄の葬式をきっかけに兄の元交際相手に出会い惹かれていく様を描く『ABYSS アビス』が10月20日(金)より関西の劇場でも公開。10月21日(土)には、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田に須藤漣さんと渡辺あやさんを迎え舞台挨拶が開催された。

 

映画『ABYSS アビス』は、『逆光』で監督デビューを果たした若手俳優の須藤蓮さんが、同作に続いて『ジョゼと虎と魚たち』等の脚本家である渡辺あやさんとタッグを組み、ある青年が死んだ兄の元恋人への恋心に沈んでいく姿を鮮やかな映像美で描いたラブストーリー。渋谷のバーやモデルのアルバイトをしながら暮らしている23歳の青年ケイのもとに、行方不明になっていた兄ユウタが故郷の海で自殺したとの知らせが届く。ユウタの葬儀でただひとり泣き続ける女ルミと出会ったケイは、ユウタに乱暴され激しい憎悪を抱きながらも交際していた彼女に強くひかれる。やがて渋谷でルミと再会したケイは彼女への思いをさらに強めていくが、ある時、ルミの全てを知る。須藤さんがケイ役で自ら主演を務め、『私の知らないあなたについて』の佐々木ありささんがヒロインのルミを演じた。

 

上映後、須藤漣さんと渡辺あやさんが登壇。西宮出身の渡辺さんにとっては思い出深い劇場で須藤さんを激励する良き舞台挨拶が繰り広げられた。

 

関西の劇場での公開を迎え、須藤さんは「本当に作るのが大変な映画でもありました。去年の今頃、関西で前作『逆光』の上映活動をしている時、作品が佳境かつ”この作品は完成できるのだろうか”という窮地に立っていました。今日、堂々とスクリーンの前に立っていることが有難いことだなぁ」と感慨深げだ。なお、現在から4,5年前頃、須藤さんは脚本のごくごく一部を渡辺さんに送ったことがあったが、渡辺さんは多忙のため厳しく突き返したことがあった。普段、同様の出来事があると関係は途切れてしまうことが殆どだが、須藤さんの場合、ブラッシュアップした脚本が再度送られてくることに。すると、再び厳しくあしらうことになってしまう。何度もやり取りを繰り返していく中で、須藤さんの根性を試しながら「書かれているものは、収まりの良い優等生なものを書こうとしているのではなく、彼自身の生々しい体験や知っている人達のことを書こうとしていることが伝わってきた。これはおもしろくなる可能性があるな」と見出し、やり取り一本の脚本に仕上げていった。とはいえ「一体、誰が撮るんだ!?」と尋ねると「あやさん、撮りませんか?」と言われる始末。「『あなたが撮ったら良いじゃないですか』と提案すると『じゃあ僕が…』と言い出した。彼にどの程度の才能があるか全然知らない。でも、撮る、と言っているんだから、撮らせてみた。案の定、大変でした。だけど、彼は過酷な課題を自分で設定してボロボロになりながら登っていく。私の予想を遙かに超えた作品にはなったな」と当時を振り返る。これを受け、須藤さんは「自分でも何故撮れると思ったのか謎なんです」と思い返しながら「制作過程は途轍もなく大変でした。でも、僕は1日経てば辛かったことを忘れちゃう体質なので、なんとか生きている。普通だったら心が折れるタイミングは10回,20回あったんですが、走り切れちゃいましたね」と飄々と話す。そこで心が折れたタイミングとして「試写会須藤漣逃亡事件」なるものを挙げ「素材を並べただけの状態で試写していたんですけど、途中から冷や汗が止まらなくなり逃げましたね」と苦笑い。また、この状態の作品を隠していたが渡辺さんに観られてしまい「koé donuts 京都で処刑事件」なるものまで。とはいえ「ココで折れたいタイミングが何度もありましたが、今日、此処に立てているのが運が良いなぁ」と冷静だ。

 

 

本作では、須藤さんが監督・脚本・主演を務めており「時間が巻き戻るのであれば、4年前に戻って腹割って話す」と言いながらも、脚本に関しては「渡辺あやさんがいたので、僕が全部書いた、とは言えない。渡辺さんありきなんです」と正直に話す。監督・主演について「頭で考えたら、やれるかな、と思っていた。やってみると、けっこう難しい。バランスがとれてなく、現場でパニックが起きている。『カット!』と言っていたら、役者が混乱する。途中から『カット!』は、あやさんにお願いしていた」と明かす。渡辺さんは「監督と主演をやってはいけない。日本だと北野武さんといった巨匠や特別な方だけに許されたことだと思うんです。やるっ、と言い出して…」と呆れていたが、須藤さんは「演技がしたくて書いた台本なので、自分が出演しない、という選択肢がない。『逆光』という映画を作ったからには、監督もやりたくなっていた。そうせざるを得なかった」と真摯に話す。役割の切り替えに関しては「芝居して、iPadで見て、OKかNGを出している。時間がない中でシンプルに。当時の自分にとっては難しかったですが、心地良いことだなぁ」と淡々と述べた。

 

夜の公園での出来事について印象深く描かれており、須藤さんは「アスカというキャラクターは、渡辺あやさんに厳しく言われた後になんとかひねり出したキャラクターだった。現場に入るまでは、このキャラクターが上手くいくかどうか定かではなかった。近藤(笑菜)さんに託した瞬間、それが上手くいった」と満足している。渡辺さんも「あのシーンは凄く良いな」と思っていた。須藤さん自身の体験が盛り込まれている本作だが、須藤さんは「アスカのシーンだけは、想像にお任せ」と口を濁す。渡辺さんは「活き活きとしていて、私には書けないシーン。私はあのシーンを大事にしたい。監督は、途中から『これ要る?』と言い出しちゃう。私は絶対に残したい。案の定、観て下さった方からは、アスカへの反応が一番良かった」と自負がある。

 

 

最後に、須藤さんは「まだ自分の中でも消化しきれてないぐらい、自分の体験や感じていることを詰め込めるだけ詰め込み、削ぎ落せるだけ削ぎ落して作った作品なので、感想を頂きながら自分の中で、こういう作品だったのかな、と理解していっているところです」と現在の心境を語りながら、感謝の気持ちを伝えていく。渡辺さんからは「脚本家を初めて20年ぐらいになりますが、(須藤さんは)そのキャリアの中でも珍しい才能を持った人だと思っています。成功する時は華々しく成功するんですが、失敗する時は物凄く派手に失敗しますので、見かけられたら笑ってやって暖かく見守ってやって頂ければ」とエールを送り、舞台挨拶は締め括られた。

 

映画『ABYSS アビス』は、関西では大阪・梅田のシネ・リーブル梅田と京都・出町柳の出町座と神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開中。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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