あの一瞬だけは2人に光が当たり救われてほしかった…『J005311』河野宏紀監督に聞く!
ひったくりを目撃した青年と、ひったくり犯の青年が、あることをきっかけにドライブをはじめ、奇妙な時間を共に過ごす様を描く『J005311』が5月13日(土)より関西の劇場でも公開。今回、河野宏紀監督にインタビューを行った。
映画『J005311』は、生きづらさを抱える男2人の旅路を通じて、世間に取り残された孤独感が描かれるロードムービー。思い詰めた表情で街へ向かう神崎は、タクシーを拾えず道端に座り込んでいたところで、ひったくり現場を目撃する。神崎はひったくり犯の山本に声をかけ、100万円の報酬を払う代わりにある場所へ連れて行って欲しいと依頼。山本は不信感を抱きながらもその依頼を受け、2人の奇妙なドライブがスタートする。新人俳優の野村一瑛(のむらかずあき)さんが神崎、『スペシャルアクターズ』等に出演の河野宏紀(こうのひろき)さんが山本を演じ、河野さんが監督・脚本を兼任。生きづらさを抱える自分たちを投影しつつ、世間に取り残された孤独感を描き出す。タイトルの『J005311』は、光ることなく浮遊していた2つの星が奇跡的に衝突したことで再び輝き出し、2019年に実際に観測された星の名前に由来する。
主演の野村さんとは8年ぐらいの付き合いである河野さん。出会った当初から「2人で映画を作ろう」とずっと言っていた。20代前半に計画を進めていたが、どうにも上手くいかず、流れていってしまう。だが、河野さんが俳優から身を引こうと考えた時、自身の中で「1作品は残したい」という思いが漠然と沸き起こっていた。最初に脚本を書いた段階では、登場人物が2人だけで「野村を出演させるために当て書きしようとすると書けなかった」と打ち明ける。元々の主人公は、野村さんより年を取ったおじさんをイメージしていたが「一旦、脚本が出来た時、野村も出演する必要があった。自分がひったくり犯であることは決まっていた。ならば、野村でも主人公が出来るかな」と気づき、主演を依頼した。なお、映画学校に通ったり映像制作の勉強をしたりした経験はなく、脚本執筆含め独学で取り組んでおり、とにかく筆を進めていく。出来上がったシナリオには説明や台詞がなく余白が多い内容であり「映画では描かれていないが、それぞれの人生や経歴は2人で考えて自分達の中に落とし込んだ」と話す。「ひったくり犯の山本について、山本という名前は本当なのか。彼のキャラクターからして、真面目に自分の名前を言うかな。ああいう性格なので、あの場で適当によくある名前をパッと出したのか。本当は山本なのか。神崎はおそらく本名なのでしょう」と説き、あくまで「観て頂いた方の想像が良いのかな」と提示する。なお、クライマックスの描き方について「その後の展開は描いていないが、もしかしたら、あの後も山本は同じようにひったくりをするかもしれない。神崎は数ヶ月後にまた同じようなことをしてしまうのかもしれない。でも、あの一瞬の時だけは、2人に光を当てたかった。その後はどうなるか分からない。あの一瞬だけは2人には救われてほしかった」と思いを込めていた。
撮影にあたり、映画業界の知り合いが多くいない中で、カメラマンを務めたさのひかるさんは河野監督が通っていた高校の同級生だ。普段から写真を撮ってもらっていたり、MVの撮影経験が多かったりしており、本作で初めての映画撮影に挑んでもらっている。「カメラマンと録音技師がいれば撮れるかな」と安易な考えもあったが「照明は使いたくなった。自然光を使いたかった」と拘った。「スタッフは最小限の2人で大丈夫かな」と考えつつ「撮影は様々な出来事がありましたが、少人数だったので、動きやすかった。基本的に9割はゲリラ撮影。4人だと動きやすかった」と振り返る。約 2 ヶ⽉間ほぼ毎⽇のように実際のロケ地をはじめ、地区センターや⾃宅、公園でのリハーサルを行っており「時間的にも物理的にも制限があったが、これだけやったからには本番に挑むしかないだろう」と腹を括って本番に挑んだ。とはいえ、ゲリラ撮影で怒られたこともあり「浅はかだったが、なんとかなると思えた。だが、初日から面倒くさいことになってしまい、反省しております」と真摯に受けとめている。
編集作業も未経験ではあったが、自身で調べ編集ソフトにふれることから始めており「録音技師の榊さんは普段は自主映画の監督をしているので、聞いたりしつつ、基本的に自分で」と話し「プロフェッショナルの方からすれば、編集や整音として評価されないだろうが、とにかく、完璧でなくとも自分でやりたかった」と拘りは揺るぎない。なお、元々、映画祭は興味なかったが、ぴあフィルムフェスティバルについてはなんとなく知っており、調べてみると、編集作業をしていた当月が締め切りだと分かり「時間がない中で、作ったからには応募してみたかった。どうにかギリギリに完成した」と打ち明け、本当に「出来上がった」という実感はなった。応募した第44回ぴあフィルムフェスティバルのコンペティション部門「PFFアワード2022」 ではグランプリに輝き「授賞式は緊張して覚えていないが、審査員の三島有紀子さんから『この作品にグランプリを獲ってもらうために審査員に呼んでいただいたんだ』と言ってくださり、凄く嬉しかった」と感慨深い。既に各地の劇場で本作は公開され、様々な世代の方に観てもらっており、役者や役者志望の方からは「刺激になりました」という感想を頂いている。今後、野村さんが監督する作品に出演する予定があり、現在準備中で、今夏に撮る予定。また、河野監督も「もう1作品撮りたいことがあるので、出来れば来年撮りたい」と意気込んでおり、将来についてじっくりと見据えている。
映画『J005311』は、関西では、5月13日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォ、5月26日(金)より京都・烏丸の京都シネマで公開。また、神戸・元町の元町映画館でも近日公開。なお、5月13日(土)には、シネ・ヌーヴォに野村一瑛さんと河野宏紀監督を迎え舞台挨拶を開催予定。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!