群衆にトラックで突っ込んだ実在の死刑囚描く『私、オルガ・ヘプナロヴァー』がいよいよ関西の劇場でも公開!
実在したチェコスロバキア最後の死刑囚を描く『私、オルガ・ヘプナロヴァー』が5月12日(金)より関西の劇場でも公開される。
映画『私、オルガ・ヘプナロヴァー』は、チェコスロバキア最後の女性死刑囚として、23歳で絞首刑に処された実在の人物を描いたドラマ。経済的に恵まれた家庭に育った22歳のオルガ・ヘプナロヴァーは、1973年7月10日、チェコの首都・プラハの中心地で路面電車を待つ群衆にトラックで突っ込み、8人が死亡、12人が負傷する「事故」を起こす。犯行前、オルガは自身の行為は多くの人々から受けた虐待に対する復讐であり、社会に罰を与えたとの犯行声明文を新聞社に送っていた。両親の無関心と虐待、社会からの疎外やいじめによって心に傷を負った彼女は、自らを「性的障害者」と呼んだ。大量殺人という形で社会への復讐を果たしたオルガは、逮捕後もまったく反省の色を見せることはなかった。
本作が長編デビューとなる、トマーシュ・バインレプとペトル・カズダ監督が、ドキュメンタリー的なリアルな描写でオルガというひとりの女性を描いていく。主演を『マチルダ 禁断の恋』のミハリナ・オルシャンスカが務めた。
映画『私、オルガ・ヘプナロヴァー』は、関西では、5月12日(金)より大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や京都・烏丸御池のアップリンク京都で公開。また神戸・元町の元町映画館で近日公開。
本作は、実在した死刑囚を描いた作品。殺人者の物語である、と意識しながら観ていないとドラマが非現実的に思えてしまうくらい、主演のミハリナ・オルシャンニスカは美しい。彼女の美貌とアンニュイな表情が生む儚さとが、観る者に強烈な印象として残る。殺人犯(役の女優)に見惚れてしまうという、不思議な映画だった。
オルガは不幸な女性である。描かれるのは、ひたすらに孤立するオルガの姿だ。父からの暴力、家族の中での孤立、学校での疎外感。広い空間の真ん中で独りで居るような孤独を抱えていて、そこでの自分の叫びが反響するだけで誰にも聞こえていないような心細さと苛立ちとがだんだんと積み重なっていくのが伝わってくる。だからといって、「こんなに不遇な人生だったのなら、破壊的な衝動を抑えられなくても仕方ないよね」と感情移入することは到底できない。「ムシャクシャするから、誰でもいいので殺したかった」という事件に既視感を覚える方は多いだろう。そこに犯人への同情の余地はなく、まして共感することは(少なくとも私は)一切できなかった。が、そもそも本作は観客にシンパシーを求めるものではない事も理解している。各種記事等を読んでみると、劇中で描かれるオルガの最期は現実のようだ。そのため「実録犯罪特集」のような再現ドラマ感が漂う。少し距離を置いた描写がフィルターの役目を果たしているからこそ、陰惨な事件の様子を鑑賞できるのかもしれない。
今作が製作されたのは2016年。約7年前の作品だが、観る時期を問わないテーマなので今観賞することに問題はない。主演のミハリーナ・オルシャンスカはこの前年に『ゆれる人魚』、翌年には『マチルダ 禁断の恋』に出演しており、日本でも認知度が上がりつつある注目の女優。この重い題材を受け止めることと、女優の圧倒的な美しさを目の当たりにすることと、どちらかにでも興味が湧いた方にはお薦めしたい。
fromNZ2.0@エヌゼット
- キネ坊主
- 映画ライター
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- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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