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名もなき人を中心にした若者3人の青春時代劇を観てほしい…『せかいのおきく』阪本順治監督を迎え舞台挨拶付き特別先行上映会開催!

2023年4月17日

貧しい時代にたくましく生きる庶民の姿を通じて、人と人のぬくもりをモノクロ映像でつづった青春時代劇『せかいのおきく』が4月28日(金)より全国の劇場で公開。4月17日(月)には、大阪・門真のTOHOシネマズららぽーと門真に阪本順治監督を迎え、舞台挨拶付き特別先行上映会が開催された。

 

映画『せかいのおきく』は、江戸時代末期、厳しい現実にくじけそうになりながらも心を通わせることを諦めない若者たちの姿を、墨絵のように美しいモノクロ映像で描き出す。武家育ちである22歳のおきくは、現在は寺子屋で子どもたちに読み書きを教えながら、父と2人で貧乏長屋に暮らしていた。ある雨の日、彼女は厠のひさしの下で雨宿りをしていた紙屑拾いの中次と下肥買いの矢亮と出会う。つらい人生を懸命に生きる3人は次第に心を通わせていくが、おきくはある悲惨な事件に巻き込まれ、喉を切られて声を失ってしまう。黒木華さんを主演に迎え、中次を寛一郎さん、矢亮を池松壮亮さんが演じ、佐藤浩市さん、眞木蔵人さん、石橋蓮司さんが共演した。

 

今回、上映前に阪本順治監督が登壇。門真市に20数年ぶりに訪れており「20年前は、(近隣)に住んでいる辰吉丈一郎の家族とカラオケに来ました」と懐かしみながらの舞台挨拶となった。

 

インパクトの大きい本作。「描写のある部分はかなりのバイオレンス」と挙げながらも「江戸時代には循環型経済がありました。西洋では、排泄物(糞尿)を川に垂れ流し、コレラが発生していた。江戸時代には、先進国に先駆けて糞尿を畑に撒いて肥しにして野菜が出来て口にして排泄物が出る、という経済が成り立っていた」と本作のベースとなった史実を紹介。

 

珍しい題材であり、3年がかりの作品である。阪本監督の美術を担当してきた原田満生さんから、3年前に「循環型経済・SDGsに関わるような劇映画を作りたい。やってくれないか」とオファーを受けた。とはいえ、資金がなく、3年前に黒木華さんと寛一郎さんが出演した15分の作品を原田さんのポケットマネーでパイロット版を制作。様々な方にお見せして「こういうタイプの作品に資金提供してくれませんか」と声をかけていったが、コロナ禍により叶わず。しびれを切らした原田さんは、2年前に声をかけ、池松壮亮さんが出演した15分の作品を制作。そして、昨年、映画業界とは繋がりのない財団から、制作意図を理解して頂き、ある程度の出資を頂き、残りの60分を京都の太秦で撮り、すべてのつなげ、90分の作品として完成させている。取り掛かりは、完全自主制作であるが、ある程度の編集が終わった時点で、様々な配給会社に観て頂き「糞尿が出てきますが、基本的には、若者3人の青春ドラマであることを理解してもらって、公開できることになった」と話す。挑戦的な題材のようにも伺えるが「映画界に喧嘩を売っているようなもの。若い監督の中にも『今の映画界で良いのか』と挑戦しているような、横紙破り的な作品を作っている人は沢山いる」と認識しており「久しぶりに、苦労というより『これを俺達は今やるべきだ』という思いで、スタッフも、仕事として成立しないかもしれないが、船に乗っかってくれて、やっと出来た。同じ業界の人にも是非観てもらいたいな」と望んでいる。

 

江戸時代末期を舞台にしたオリジナル脚本である本作。「幕末にしたのは、黒船が来て、日米で不平等な修好通商条約を結んで、鎖国を抉じ開けられて開国を迫られている頃に、一般の庶民の暮らしや営みの中の小さなお話を敢えてやりたかった」と説き「庶民は毎日食って寝て排泄して、というリズムは全く変わっていない」と鑑みている。阪本監督自身は、幕末や新選組に関する作品を見るのは好んでいるが「武家モノは作りたいとは思わない。名もなき人を中心にやりたい」と手掛ける作品には筋が通っていた。

 

主要キャストである、池松壮亮さん、寛一郎さん、黒木華さんについて「彼等以外には考えられなかった」と述べ「先に声掛けしてテーマや役柄を伝え、彼等に当て書きしている。『そんな役はちょっと…』と言われるような役柄であり、この映画の企画意図や中身に彼等も乗って『参加します』と言ってもらえた」と明かす。池松さんをキャスティングするのは初めてであったが「度々会うことがある。何も隠さず普通に映画館にいる。子供時代からこの業界にいるので、まだ若いけど、良いところも悪いところも全部知った上で沢山の経験ありますが『このタイプの映画は今逃せば二度と呼ばれないだろう』という思いもあったでしょう」と察していった。黒木さんについては「同じ大阪人なので、現場でも漫才みたいになる」と紹介しながらも「彼女の可能性は凄いなぁ。若い女優さんは時代劇で着物を着せられて下駄を履かされたらぎごちない。彼女は俳優を続けていく中で時代劇は経験済みだけども、こういう時代を演じる役が来ることを前提で着物での佇まいや所作を自分で学習していたと思う。そうでないと、この時代の人にしか見えない」と捉えている。「この3人と現代劇を作るなら相当ビビる。今の若い子達のモノの考えや喋り方が分からない」と謙遜しながらも「江戸時代の話をこの3人に演じてもらうなら、お互いにこの時代を知らないから、フェアにやれる。僕が持ち得た資料を彼等に渡して、望んでいる役柄の説明を事前にして、若くとも言葉を持っている彼等に現場で細かく言ったことはない」と説明。とはいえ「自分で脚本を書いて自分で監督することは途中で飽きてくる」と本音を言いながらも「偶に台詞の付け足しを渡して彼等も新鮮な気持ちで臨んでくれた」と受けとめている。彼等に対し「普段の生活で、仕事がない時もある時も、自分がこの職を選んだからには吸収しなければいけないものを吸収し続けないといけない。日常的に鍛錬してきた結果を見せてもらっている」と考えており「俳優は素晴らしい職業。自分じゃない誰かのことをずっと考えないといけない。自分そっくりな役を演じることがあるかもしれないけども。自分と何一つ交わらない役も演じないといけない。その他者を理解する努力をし続けなければいけない。彼らの日常を忘れずにいる。3人には可能性しか感じられない」と讃えた。ベテラン俳優の佐藤浩市さんや石橋蓮司さんに関しても「原田が立ちあげて阪本が乗って企てているぞ。一般の映画界では作られないものを自腹でやろうとしている。乗っかろうじゃないか」と応じてもらい「佐藤さんは仕事っぽくない。石橋蓮司さんに遊んでもらっている。メインスタッフの平均年齢は63歳。ベテランのスタッフもおもしろがってくれた」と助けてもらっている。循環型社会をテーマにした本作について「年齢関係なく見てもらいたい。主演が3人の若者達なので、屈強に追いやられるけど、めげないで生きている」と捉えており「この日本でさえ若者達が貧困に悩んでいる時、この映画を観てもらって、諦めないでほしい」と願っていた。

 

なお、ロッテルダム国際映画祭に出品されている本作。「3年かかって『出来た』という喜びだけで十分なんです」と謙遜しながらも「(現地に)赴いて、観客と一緒に観ました。笑うシーンでは声を出して笑う。声やためいきが聞こえている。上映後、一般のお客さんに聞くと『LOVE&HOPE!』と言ってくれた。描きたかったことが伝わったな」と嬉しく感じている。当初は、外国の映画祭に招待されることは考えておらず「日本で成功させないといけない。江戸の話だけど、今の話でもある、と日本の皆さんに伝わればいいな」と願っており「そこから映画は転がり、外国に呼ばれて、江戸のシステムを知ってもらったり、俳優を知って頂いたり」と実りもあった。映画祭にはキャストから寛一郎さんだけを現地に連れて行ったが「映画祭のスタッフ内でファンクラブが出来ました。スタイリッシュで格好良い。そして、言葉を持っている」と報告。なお、ロッテルダム国際映画祭の代表と話す機会があり、招待理由について伺い「日本映画の多様性を強く感じ、上映を決めました」と言われ「様々な国の映画が多々ある中で、日本の映画人ならではの発想が垣間見れた」と受けとめている。

 

また、撮影中の裏話として「待ち時間に、寛一郎と池松君が話しているのが見えた。加わってみると、若者2人が、ずっとドストエフスキーの話をしていた」と明かし「他者のことを考え続けていく中では、自分の肥やしにするために、本を読み、映画を見に行き、音楽も表現の肥やしになっている。あらゆるところに彼等は日常を費やしている。だから、残っていくだろう。どんな役でも、自分のものにしていく」と注目していた。

 

最後に「ここで喋ったことを全部忘れて観て下さい」と言いながらも「まっさらで観て頂いて、他の日本映画を応援して頂きつつ、この映画が長く上映できますように、気に入って下されば、周りの人に紹介して下さい」と伝え、舞台挨拶は締め括られた。

 

映画『せかいのおきく』は、4月28日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や難波のTOHOシネマズなんば、京都・烏丸御池のアップリンク京都、兵庫・西宮のTOHOシネマズ西宮OSや神戸・三宮のシネ・リーブル神戸等で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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