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プライベートフィルムとしてプレゼントする予定が、ゆずなさんの思いを届ける作品に…『ケアを紡いで』大宮浩一監督に聞く!

2023年4月7日

ステージ4の舌がんと診断された看護師に密着したドキュメンタリー『ケアを紡いで』が4月8日(土)より関西の劇場でも公開。今回、大宮浩一監督にインタビューを行った。

 

映画『ケアを紡いで』は、27歳でがんを患った看護師の女性の日々の営みを記録したドキュメンタリー。ステージ4の舌がんの診断を受けた27歳の鈴木ゆずなさんは、看護師の仕事を休んで治療を続けている。やりたいことをリストに書き出して、家族や友人を招いて結婚披露パーティを開いたり、富士山に登ったりする中で、ゆずなさんは日々の気づきを言葉にしていく。医療制度と介護保険の狭間で経済的な助成制度がほとんどない15歳~30代の「AYA世代(Adolescent & Young Adult)」であるゆずなさんの生活は楽ではない。本作はゆずなさん自ら企画を手がけ、彼女が夫の翔太さんや友人たち、新たに出会ったNPO法人「地域で共に生きるナノ」の仲間たちとともに時を重ね、命と向きあい、日々の暮らしを紡いでいく姿を映し出す。監督は『ただいま それぞれの居場所』等のドキュメンタリー作品で現代社会のさまざまなケアの営みと制度の在り方について描いてきた大宮浩一さんが務めた。

 

NPO法人「地域で共に生きるナノ」の谷口眞知子さんから「(鈴木ゆずなさんに)会ってみない?」と誘われた大宮監督。すなわち「撮ってみない?」「興味があるんじゃないのかな?」というニュアンスを理解し、初対面の際には、患っている病気について、また、AYA世代ならではの悩みや葛藤や思いを丁寧に分かりやすく教えてもらった。とはいえ、当初は、本作のような作品にしようとは考えておらず。断るつもりで伺っていたが、鈴木さん夫婦2人の真摯な態度と爽やかさに段々と感化されていく。最終的には「出口はどのような形になるか分かりませんが、撮り始めてみましょうか」と自然な流れに。、ゆずなさんからは「多くの人に知ってほしくて発信したい」という思いを受けとめ、カメラマンとは「公開作品ではなく、2人に観てもらって喜んでもらえれば良いな。プライベートフィルムになるかもしれないな」と納得の上、撮影を続けてもらった。

 

また、NPO法人「地域で共に生きるナノ」でも丁寧に撮影していく。代表の谷口さんとしては「ゆずなさんを紹介したので、ゆずなさんだけを撮るのだ」と想定していた。だが、大宮監督は「ゆずなさんがどのような場で過ごし、どのような人がいるのか。撮影して分かって頂く必要がある」と考察。とはいえ、プライベートな部分をインタビューしないといけないので、協力して頂きながら、時間をかけて撮影していった。

 

なお、15歳~30代の「AYA世代(Adolescent & Young Adult)」への支援制度は、がん患者向けに限定されており「抱えている障害や生きづらさは、それぞれに向けて様々な制度や支援がある。実際、当事者は、どのような支援や制度があるのか分からない」と説く。ゆずなさんにとっては、支援制度やナノといった場所に結び付けた先輩看護師さんの存在も大きい。一方で、行政や制度を十分に知っている谷口さんが中心となり、上手くコーディネートして頂いた。そういった状況下において「ゆずなさんがどのような状況になろうとも、映画の中では明確に表現したくない」と心がけ、ゆずなさんの入院後、29歳の誕生日を迎えることを節目にして撮影を終了した。

 

編集にあたり「ゆずなさんのメッセージを中心にして、ナノの人達も含め、様々な障碍や病気を抱えながらも、生きづらさをそれぞれが支え合って、少しでも生きやすく過ごしやすくしているんだ、という彼等の姿や言葉も含めたメッセージを伝えよう」という軸を決め「作り手の思いや感情は極力排除しよう」という編集方針を一貫していく。「20代の若い女性が死を身近に感じながら生きている、ということを撮るのは出来ない」と思いながらも撮り始めた企画であり「彼女のメッセージを直に届けられた」と納得している。なお、エンディングには、古見健二さんの楽曲「HOME」が用いられており「整音の石垣哲さんが選んだ中の1曲。ピタッとハマる楽曲はなかなかない。メロディアスでセンチメンタルな楽曲で終わりたくなかった。夫の翔太さんの声でもあり、ゆずなさんの思いにも感じられる曲だったので、最終的に選びました」と明かす。

 

本作が、昨年5月にある程度まとまり、その段階にゆずなさんの夫である翔太さんと谷口さんに観てもらうことに。翔太さんは凄く喜んでくれたが、試写後に話していく中で「もう少しブラッシュアップして多くの人にゆずなさんの思いを届ける努力をすべきでしょうか」と相談。配給会社や劇場も未定だった中で応じて頂き、翔太さんに納得して頂いたバージョンを以って公開を目指すことに。当初は、翔太さんに観てもらいプライベートフィルムとしてプレゼントするつもりだったが、結果的に、多くの人に伝えるために時間をかけた後に現在に至っている。翔太さんには「制作者側の思いがあまり入っていない。ナレーションで解説せず、ゆずなさんの思いがコンパクトにまとまっている」と受け取ってもらい「いつでもゆずなさんに逢うことが出来ます」と仰って頂き、大宮監督は感慨深い。

 

映画『ケアを紡いで』は、関西では、4月8日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、4月14日(金)より京都・烏丸の京都シネマで公開。また、神戸・元町の元町映画館でも順次公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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