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祖母の家の風景を残しておく映画を撮ることが出来ないか…『ナナメのろうか』深田隆之監督に聞く!

2023年3月30日

空き家になった祖母の家を片づけに来た姉妹が、子供の頃の思い出の品や妊娠をめぐり、関係を変化させていく様を描く『ナナメのろうか』が4月1日(土)より関西の劇場でも公開。今回、深田隆之監督にインタビューを行った。

 

映画『ナナメのろうか』は、初の劇場公開作品となった『ある惑星の散文』が注目された深田隆之監督が、モノクロ&スタンダードで描くある姉妹の物語。空き家になった祖母の家を片付けにきた姉妹の関係が次第に変化していく様子をとらえた、44分間の中編作品。聡美と郁美の姉妹が、改装される予定の祖母の家にやってくる。妹の郁美は妊娠し、シングルマザーになる決意をしている。2人は家に残された物を片付け始めるが、幼い頃に遊んだおもちゃ箱を見つけ、当時のように遊び始める。しかし、郁美のお腹の子どもをめぐって2人の間に横たわる溝が露わになっていき、2人は家の中ですれ違い、会えなくなってしまう。嵐の夜の中、姉妹は暗闇の中でお互いを呼び合うが…

 

深田監督の祖母の家で撮影している本作。「祖母は自宅を出て施設に入っている状況は映画と同じ。空き家状態。この家で何らかの映画を撮れないか。祖母の家の風景を残しておけないか」と考え、本作の制作を始めた。脚本を考えていく中で、本作冒頭にある廊下でビー玉を転がす他愛ないシーンのイメージが思い浮かび「これは、おもしろい。そこから人物像を深めていこう」とストーリーを模索。「映画の根幹にあるのは姉妹の諍い。成長するにつれて変化していく姉妹の姿や価値観の変化を中心に、他愛ない2人のやり取りから、家を舞台にしてどのような映画が作られるか」と作り上げていく。なお、作品の後半ではトリッキーな展開があり「迷子になるだけで映画はおもしろくなることに気づいた」と明かす。本作を鑑賞していると、2人の関係性の象徴としての”ナナメ”を想起してしまうが、監督自身は撮影中には想定しておらず「無意識に考えていたかもしれないが、自覚的には考えていなかった。劇場公開をしていく中で改めて発見してきた」と打ち明けた。

 

キャスティングにあたり、郁美役の吉見茉莉奈さんについて「様々な作品に出演しており、舞台の経験もある。舞台作品を拝見しており、存在感があり、興味深かった。映画では、アクティブな役柄が多く、異なる質の演技をしたらどうなるんだろう」と興味津々。現場では、芝居の中で現れる力強い視線を感じ、編集作業でも軸となっている。聡美役の笠島智さんについては「映画の大きなスクリーンで映える俳優」と感じており「無機質な印象がある役柄が多いが、実際に話してみると、あっけらかんと笑う表情が豊かな方だった。笠島さん自身が持っている表情も見せられないかと思った」と説く。

 

撮影は7日間で実施しているが、その前に7日間の稽古期間を設けている。最初の4日間は稽古場で試行錯誤して、残りの3日間は祖母の家で試行錯誤しており「稽古場では本読みや立稽古をしながら、各シーンを作っていった。その中で俳優達からフィードバックをもらいながら、提案をして進めていった。この時間が大切。稽古以外の雑談も含めて俳優達との時間を撮影前に積み重ねられるのが重要」と受けとめ、映画作りのプロセスの中で大事な時間になった。一般的な撮影では、衣装合わせの時間に少しだけ脚本を読んで現場に向かい演技を確かめることが多く「演技を深め俳優達と過ごす時間を長く作ることが大切」だと実感する。

 

本作はモノクロ映像で、映像のアスペクト比はスタンダードサイズだ。深田監督が大学生の頃で祖母が住んでいた時期に撮影したことがあり「当時、カラーで撮ってみると、壁の木の色がけばけばしく、グレーディングをしても宜しくなかった。故にモノクロにした」と述べ、アスペクト比に関して「日本家屋は狭いので、廊下を映すとほとんどが壁になってしまうので、スタンダードサイズにした」と説明。「スタンダードサイズでモノクロになると、クラシカルな映画のオマージュに思われてしまうが、具体的な理由がある。デジタルでどのようにすればモノクロを活かせるか」と現場で試していった。

 

なお、編集作業になってから、作品の後半を嵐の夜の中にいることを選択している。最初は、嵐が家の外で起こっている状況を想定してなかったが「編集に迷っている時に、試しに加えてみたら、より一層に閉じ込められている状態が演出されてきた。2人が逸れていることに合っていた」と気づく。また、最初の編集段階では60分を超えた作品になっていたが「信頼出来る方に見せていた時、長さを指摘され、作品に適した尺に絞っていった。結果的には、作品に適した長さを大前提に44分の作品にして良かった」と安堵している。「編集で映画が輪郭を持つ」と改めて確認できており「映画の形を確信できたのは整音作業後。音は黄永昌さんにお願いし、この映画は音の映画でもあると分かり、やっと血が通った映画になった」と達成感が得られた。

 

既に各地の劇場で本作は公開されており「皆さんが、自分の家族、親・兄弟等に関することを引き合いに出してくれて、感想を言ってくれる」と興味深く感じており「家は普遍的なものであり、家族について考えざるを得ないんだな」と感慨深い。今後の制作については「構想はあり、準備に時間をかけながら創作していきたい」と未来を楽しみにしている。

 

映画『ナナメのろうか』は、関西では、4月1日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開。また、京都・出町柳の出町座や神戸・元町の元町映画館でも公開予定。なお、シネ・ヌーヴォでは、4月1日(土)17:40の回上映後に深田隆之監督を迎え舞台挨拶開催予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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