セクシャルマイノリティに関する作品の中で、半歩先の未来を描いている…『世界は僕らに気づかない/Angry Son』堀家一希さんとガウさんと飯塚花笑監督を迎え舞台挨拶開催!
フィリピン人と日本人との間に生まれたゲイの高校生が、母や恋人との関係を通して、渇望していた愛に出会うまでを描く『世界は僕らに気づかない/Angry Son』が全国の劇場で公開中。1月21日(土)には、大阪・十三の第七藝術劇場に堀家一希さんとガウさんと飯塚花笑監督を迎え、舞台挨拶が開催された。
映画『世界は僕らに気づかない/Angry Son』は、生きづらさを抱える青年が母や恋人との関係を通して愛に出会うまでを描いた青春映画。『フタリノセカイ』の飯塚花笑が監督・脚本を手がけ、トランスジェンダーである自身の経験をもとに撮りあげた。群馬県太田市でフィリピン人の母と暮らす高校生の純悟。父については何も聞かされておらず、毎月振込まれる養育費だけが父とのつながりだった。純悟には同性の恋人である優助がいるが、彼からパートナーシップを結ぶことを望まれても、自身の生い立ちが引け目となり決断できずにいる。そんなある日、母が自宅に恋人を連れて帰り、再婚したいと話す。見知らぬ男と一緒に暮らすことを望まない純悟は、実の父を探すことにするが…
上映後、堀家一希さんとガウさんと飯塚花笑監督が登壇。実は関西に縁のあり感慨深い舞台挨拶が繰り広げられた。
学生時代に関西に住んでいた飯塚監督は第七藝術劇場に映画を観に来ていたことがあり「縁のある劇場で自分の作品が公開されていることが感動的なんですよね」と感慨深く「学生時代は映画監督になりたくて、悶々と映画館に通っていた。そこから、自分の映画がスクリーンに流れていることは非常に嬉しいです」と喜んでいる。全国公開から1週間が経ち、続々と感想を頂く機会が増え「作り手として、この作品が世に出た時、どう受け取られるだろう、この子がちゃんと歩いていけるのだろうか、といつも見守っている。ちゃんとよちよち歩き出して日本国内の皆さんにも届き始めていて凄くホッとした」と一安心だ。堀家さんは、高校生時代に所属事務所のレッスンを大阪で参加しており、光栄に感じている。各地の劇場で舞台挨拶をしてきたガウさんは「どのような気持ちでこの作品を受け入れて頂けたのかな」と気になっていた。
撮影1年前、役作りの段階から、堀家さんは飯塚監督と何度も話し合い、御自身の感じていたことを伝え脚本に反映してもらっており「撮影中、昔に親に対して思っていたことや気持ちを昇華していっている、という感覚がありました」と振り返る。飯塚監督と話していく中では「演じていく上でお互いに理解できる共通の言葉が多かったので、相性が合うなぁ」と印象に残っていく。これを受け、飯塚監督は「通常の撮影では、俳優さんとは、衣装合わせの段階で1,2回程度は顔合わせて、ちょっとした本読みを1度行い、直ぐにクランクインする。俳優さんと深くコミュニケーションする機会がない」と説き「今回は幸いにも1年近く脚本を書きながら、主演である堀家君と言葉を紡ぎながら、お互いにディスカッションする時間がかなり潤沢にあったので、彼のパーソナルな部分をこの作品に移植して、さらにディスカッションして役を深めていく時間は相当潤沢にあったので、その熱量はスクリーンの中にしっかり焼き付いているんじゃないかな」と自信がある。
本格的な演技が初挑戦だったガウさんは、レイナ役を演じてみて「改めてお母さんの偉大さを感じました。お母さんは大変ですよね」と実感すると共に「レイナは異国から来て1人で頑張っているシングルマザーだけど、母国の家族に頼られ、息子には煙たがられている。家族の中での愛の表現方法は違うんだな」と身にしみた。なお、本作は順撮りで撮影しており「ずっとテンションはギクシャクしたまま」とレイナという役になりきっており、堀家さんは「ガウさんの声量には負けました。完成した作品を観ても、ガウさん、声でけぇな」と驚いている。ガウさんは、現場での堀家さんについて「昭和の俳優なんですよ。最初から役作りしている。没頭しており、将来の日本の映画界を担う人なんだな」と絶賛。飯塚監督としては「皆が穏やかに仲良くした上で、現場が進んでいってほしい」という思いがあるが、初日の顔合わせを見て「正直、これからどうしよう」と困惑していた。すかさず、堀家さんは「あえて距離をとっていたんですよ」とフォローしていく。
キャスティングにあたり、飯塚監督は「演技経験の有る無しに関わらず、僕が作品を作る時はリアリズムを大事にしている。半分ぐらいの方とは群馬でワークショップ・オーディションを行っており、演技初体験の方が多かったですが、ご本人達には、そのままカメラの前にいてもらう練習をひたすらしてもらっていた。ご本人達が日常の延長線上で如何に緊張せずにそのままいて頂くか、ということをずっとレッスンしていた」と明かす。また、堀家さんとガウさんの関係に関するケミストリーにリアリズムを感じており「堀家さんの役作りと、カメラの前に日常の延長線上でいて頂ている方々が馴染んでいったかな」と不安は懸念は払拭されていった。
お気に入りのシーンについて、ガウさんは、朝まで呑んだ後のカミングアウトするシーンを挙げる。飯塚監督は、脚本執筆にあたり、フィリピンパブで働くお母さん達やその子供達にかなり取材しており「全員が、食文化の違いが挙がっている。予期しないところで食文化で傷ついたエピソードを持っている。お弁当に関するシーンは描きたかった」と思い返す。堀家さんは、エンドロールの最後にある絵について挙げ「好きなシーンは沢山あるんですが、あの頃の純悟と、色々分かった上での純悟。その2人の母に対する目線が良いな」と印象深い。なお、このシーンについて、飯塚監督はどこに挿入するか悩んでいたことがあり「最初の段階ではオープニングだった。授業参観で、文化の違いがある親子の物語として打ち出そうとしていた。意外とハマりが悪くてエンドロールの最後にした」と経緯を話す。
最後に、堀家さんは公開1週間を経た現在について「まだ1週間です。これからもっと延ばしていきたい。この映画を観て気づいたことやコメントをSNSで拡げていって頂ければ幸いです」とお願い。ガウさんも「様々なメッセージや愛の形や表現方法が盛り込まれている大切な映画です。この作品をきっかけにして、気になることに気づいて頂いて、自分にゆとりを持って頂ければ。辛いことがあっても分かり合いたいからこそ衝突するけれども、きっと時間が経てば少しずつ理解し合える、と解釈しています。皆さんの近くで思い当たることがあれば、この映画を思い出して頂ければ」と願っている。飯塚監督は「気づいてもらわないといけない題材を沢山含んでいます。今、セクシャルマイノリティを描く作品は世の中に沢山出てきてはいるんですけども、どうしても苦しかったりしんどかったりする話が多い中で、半歩先の未来を描いている映画だと思っております。僕自身も反省の意味を込めてこの映画を作っています」と打ち明け「身近に様々な国のルーツを持った方が当たり前にいて、今まで無いことにしてきた自分がずっといたんです。でも、この映画を観終えた後に感じたり考えたりして頂く時間が大切かな、と思っております。劇場を出てからも、この映画を噛み締めて帰って頂けたら凄く嬉しいな」と思いを込め、舞台挨拶は締め括られた。
映画『世界は僕らに気づかない/Angry Son』は、全国の劇場で公開中。関西では、大阪・十三の第七藝術劇場や京都・烏丸の京都シネマで公開中。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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