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自分の生き方を模索している若者達の群像劇を撮りたかった…『川のながれに』杉山嘉一監督と川岡大次郎プロデューサーに聞く!

2022年12月3日

孤独なアウトドアガイドの青年が、世界を旅した女性と出会い自分の人生を見つめ直す『川のながれに』が全国の劇場で順次公開中。今回、杉山嘉一監督と川岡大次郎プロデューサーにインタビューを行った。

 

映画『川のながれに』は、栃木県那須塩原市を舞台に、孤独な青年が周囲の人々や美しい自然に包まれて自身の生き方を見つめ直す姿をつづった人間ドラマ。那須塩原を流れる箒川でSUP(スタンドアップパドルボード)のアウトドアガイドをしている君島賢司は、幼い頃に父を亡くし母と2人で生きてきた。その母も病気で他界し1人きりになった彼は、那須塩原に移住してきたイラストレーターの森音葉と出会う。7年間心の赴くままに世界を旅してきた彼女の存在をきっかけに、賢司はただ流されるように生きてきた自分の人生に疑問を抱き始める。特撮ドラマ「仮面ライダーエグゼイド」の松本享恭さんが主演を務め、音葉を前田亜季さん、音葉が海外で出会った友人を青木崇高さんが演じる。『サマータイムマシン・ブルース』等の俳優である川岡大次郎さんがプロデュースを手がけ、『Diner ダイナー』の共同脚本を務めた杉山嘉一さんが監督・脚本を担当している。

 

2016年、民放テレビの番組を通じて栃木県那須塩原市で夏の終わりから真冬まで4ヶ月の移住体験をしていた川岡さん。18歳まで大阪で過ごした後に上京しており「都会しか住んでいなかった。以前から、田舎に住みたい願望が強かった。番組を通じて、田舎が良いなぁ、と感じた」と告白。東京から新幹線で70分乗れば辿り着く位置にあり「これだけ近いのに日本の田舎にある四季の自然や食を感じられた。もっと関わることが出来ないか」と模索し、那須塩原市を舞台にしたショートムービーを毎年制作。そして、いよいよ長編映画を手掛けることになった。「毎年撮っていたが、ほとんど冬だった。今回は秋に撮影できる」と好機だと受けとめ、杉山監督と検討。移住体験中にアウトドアガイドのアルバイトをしており「アウトドアガイドをする男性を主人公にしたら、自然が撮れるんじゃないか」と提案し、杉山監督も共感。那須塩原市でシネハンを行い、移住していた時に出会った方に会ってもらい、ロケハンを行った上で、杉山監督にストーリーを作り出してもらった。

 

「ストーリーに縛りがない中で、どのような物語にするのか」と杉山監督は構想していく中で「那須塩原の温泉郷の真ん中に流れている箒川が人々の生活の中に存在している」と発見。「川を人生に例え、穏やかに過ごしていたり激しく生きていたりする人がいれば、流されて生きている人もいる。様々な人を描けるんじゃないか」と気づき、川岡さんに那須塩原市の方々を紹介してもらい、脚本に盛り込んでいった。那須塩原市に限らず、地方都市が抱えている問題や課題を聞き組み込んでいるが「それだけでは説教臭くなる。さらに調べていくと、那須塩原の温泉郷では、かつての文豪、夏目漱石や尾崎紅葉といった有名な文化人が訪ねていた。その中に浮世絵師・版画家の川瀬巴水がいた。那須塩原の風景を画にしていた。その風景は今でも変わっていなかったり変化していたりする。ビジュアルとして映画に組み込める」と多様な視点を以て十分に考えた上で物語を作り上げていく。

 

キャスティングにあたり、川岡さんは「予算が潤沢ではない中で、若手俳優はスケジュールが合う方、期待の俳優も監督と相談しながら決めていった」と振り返り「ベテランの方々は、私の俳優仲間を通じてダメもとで声をかけてみた。意外とスケジュールが合う方に出演して頂いた」と説明。杉山監督は、前田亜季さんと縁があり「監督作品に出演して頂いたこともある。『相棒』シリーズseason19で脚本を書いており、ゲスト出演して頂いている。脚本執筆中に、合うんじゃないか」と思い川岡さんに相談してオファーしている。

 

ショートムービーの撮影に関しては、杉山監督も那須塩原での経験があり、スムーズに進行できる体制ではあった。とはいえ、初長編作品となり、川岡さんは「予算に余裕はない。オールロケであり、スタッフが都内から伺うので、時間的拘束はいつもと違う」と認識。那須塩原の方々は協力して頂いており「秋で旅館を予約しづらい時期だから知り合いを通じて確保してくれた。温泉での撮影における課題についても、温泉協会の方が協力して頂き、撮影が可能になった」と助けてもらい、街ぐるみの協力体制によってスムーズに撮影出来ました。杉山監督は「おかげさまで有名な観光地でも撮影させて頂いた」と感謝しており「普通はダメ。地元の人しか知らない、観光ガイドには掲載されない場所を教えて下さり、画になる。また、地元の人すら知らない山奥や、巴水が書いた画の場所にも行っている。那須塩原に行きたくなったり、那須塩原の方が再発見したりする」と恩返しにもなっている。川岡さんとしては「聖地巡礼はウェルカムです」と好機と受けとめており、杉山監督も「実在の場所であり、住民の方がモデルになっている。本人も嬉しそう」と喜んでいた。

 

「印象的な風景を撮る時、画が強くなることが幾度もあった」と杉山監督は振り返りながら「画の力を感じられる撮影を重ねていく中で、作品に確信が持てた。キーとなる役を音尾琢真さんにしっかりと演じて頂いた。主人公らと音尾さんによるシーンを撮った時、大丈夫だ」と確信。現場で泣きそうになりながらも「映画の芯が出来上がった」と達成感があった。川岡さんも「市役所の方は、観光PR動画を作っている。映画で同じことをしていると、心に残らない」と心得ており「音尾さんが物語の息吹を残してくれた。映画は長く観られるメディア。お客さんに繰り返し観られることで、この街に映画が残っていく」と期待している。なお、最初から「説教臭い人間ドラマにはしたくない。地方創生が掲げられている中で、地方都市が抱えている問題を映像化する意義がある」と杉山監督は考えており「地に足がつきつつ、映画としてのおもしろみが必要。脚本が大事。あらゆる年代の方に観て頂き、共感してもらえる。群像劇として書いて撮ったので、理想の人物が出てくるように書いて、キャストの皆さんに演じて頂けた」と満足している。

 

完成した作品について、川岡さんは、地元の方々に「こんなに綺麗だったんだ」と気づいてもらえていることを喜んだ。「住民の方も、近すぎて意外と行かない。中心部の温泉街の方は、映画として残してくれてありがとう、という声も。モデルになった方は、涙を浮かべて鑑賞して下さった」と思い返し「地元の方々は、さらに様々な方に観てもらって、街として観光客や移住者を歓迎して、さらに実感する。地元を賑やかにしていくために頑張って頂きました。映画を自分のものとして考えて下さっている人達が周囲にいる」という心境で、頭が上がらない。杉山監督は「街を作り上げてきた方々にまず観て頂いた」と感謝すると共に「若者にも観てほしい。20~30代、大人の方々に見守られながら自分の生き方を模索している若者達の群像劇を撮りたかった。若者の選択肢が増えており、様々な価値観がある。翻って自己主張が必ずしも必要だとは思わない。流されてもいい」と柔軟な思考を以て本作を推薦する。

 

映画『川のながれに』は、全国の劇場で順次公開中。関西では、2023年1月7日(土)より神戸・新開地のCinema KOBEで公開。2023年1月13日(金)より京都・九条の京都みなみ会館でも近日公開予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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