終わりが見えている人達はどのように生きていくか、人間ドラマを大事に描きたい…『とおいらいめい』大橋隆行監督に聞く!
彗星の衝突で人類滅亡が迫る中、ばらばらだった三姉妹がお互いに向き合っていく姿を、1999年と2020年の物語を並行して描く『とおいらいめい』が10月29日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォXでも公開。今回、大橋隆行監督にインタビューを行った。
映画『とおいらいめい』は、『ベイビーわるきゅーれ』の髙石あかりさんらが主演を務め、地球滅亡を前に初めて共に暮らすことになった腹違いの姉妹が、次第に本当の家族になっていく姿を描く。2004年に上演された舞台を、『カメラを止めるな!』のしゅはまはるみさんらが結成した自主映画制作ユニット「ルネシネマ」の企画で映画化した。彗星の衝突による人類の滅亡が数カ月後に迫った2020年。小学生だった1999年にノストラダムスの予言を信じて家出をした長女の絢音と次女の花音と、その後に生まれた腹違いの妹である音が、初めて一緒に生活することになる。絢音は彗星の衝突を前にシェルターの設計をし、花音は妻とうまくいっていない家庭持ちの小学校の同級生である良平と再会する。音は、未成年ながらひょんなことから飲み会サークルに参加し、飲んだ帰りに花音が良平にキスしているところを目撃してしまう。三姉妹は互いに踏み込むことができず、すれ違いを続けるが…
三女の音を演じた髙石さんと、長女である絢音役の吹越ともみさん、次女である花音役の田中美晴さんが主演。絢音と花音の母親役でしゅはまさんも出演している。
2004年に上演された舞台について、原作者であり、本作の撮影監督である長谷川朋史(とおいらいめい)さんが営む映像制作会社にお世話になっている大橋監督。長谷川さんと知り合い「舞台を映画化して残したい」と聞いていた。2017年に劇場公開していた「さくらになる」などの作品を観てもらった上で声をかけて頂き、本作の制作が開始。舞台の設定をベースにして「姉妹に関する人間ドラマを中心に描こう」と企画し「大きな状況の中で、彼女達の小さなドラマを描くバランスが興味深かった。映画でもドラマを描くことを大事にしたい」と原作の意向を大事にして制作に取り掛かっている。
舞台版では、双子の姉妹が主人公であり、翌日に世界が終わることを知らないまま過ごしている設定だ。彼女達に関わる登場人物達が彼女達がいないところで交わす会話によって、観客は明日には世界が終わることを知っていく。「双子の姉妹は表面上では穏やかに過ごしているが、実はお互いに思うところがあり、ストーリーが進んでいく中で、お互いを思い家族になっていく」と説き、映画化するにあたり「双子の姉妹は、三姉妹となり、世界が終わることを知っている。世界全体の設定を大幅に変えました」と脚色の意図を話す。
キャスティングにあたり、髙石さんにはオファー、長女と次女の二人はオーディションで選んでいる。髙石さんは、ルネシネマの『かぞくあわせ』公開前試写で出会った。当時の担当マネージャーは、しゅはまさんと兼任しており、偶々試写に来られており知り合ったのがきっかけだ。当時、本作の準備をしていた中でオファーしている。以降、脚本を執筆していく中で上手く捗らなかった中で、オーディションを実施しており「ストーリーの大枠がぼんやりと決まっている中で、長女と次女が決まった。三姉妹のキャスティングが決まった段階で具体的な脚本が出来上がっていった。三人とお会いした第一印象が、キャラクターに反映されている」と明かした。
長谷川さんは、出身地である岡山に対し「瀬戸内海の風景を撮ってほしい」という意向があり「大橋作品には瀬戸内海の風景が合うんじゃないか」と提案。大橋監督自身も「今まで撮ってきたロケーションとは違うところで撮ってみたい」という思いがあり、シナハンを実施して街のイメージを作って脚本を見立てていった。岡山県フィルムコミッション協議会にお世話になり、各地のロケーションを紹介してもらい、商店や小学校、更に瀬戸内各地のフィルムコミッションを紹介してもらい、時間をかけてロケハンしている。そこで、ようやく三姉妹のキャラクターと住んでいる街の雰囲気が決まり、脚本執筆が具体的に始められた。
2020年3月初旬、撮影がスタートし、まずは岡山ロケを1週間程度実施。一度関東に戻り、シェルターパート等の撮影準備をしている段階で、緊急事態宣言が発令され、完全に撮影がストップした。当初、5月頃にシェルターパート、夏に1999年パートを撮り、終了予定だったが、シェルターパートでの撮影が不可となってしまう。撮影を勧められない状況下、撮った映像を編集したり、シェルターのロケーションを探したりしていた。年末に持ち越して撮るしかなく、半年で終わる予定だったが、1年がかりの撮影となっている。
なお、三姉妹が揃い対面したのがクランクイン直前で、一度集まって本読みをした程度だった。1週間の岡山での撮影は長谷川さんの実家に合宿する形式となっており、撮影以外の時間も三人で一緒に生活している。「寝食を共にしながら関係性を作ってもらうことで、本当の家族のように感じられたことが一番大きかった」と実感しており、現場では、まずは演じてもらい、欲しい部分を足していき、まずは三人の演技ありきで撮影していった。最初に、三人が揃うシーンを撮った時に「この三人が揃って正解。彼女達が演じてくれている限りは大丈夫だろうな」と手応えを掴んでいく。
本作は長回しのシーンを適宜用いており「撮影に入る段階で、カットを割らずに撮ることをぼんやりと決めていた。撮っていく中で多少はカットを割らないといけない部分があり、変化していった部分がある」と述べ「三姉妹が持つ雰囲気を作品に取り込んでいきたかった。三人のやり取りをしっかりと見せたかったので、長回しに拘って撮っていった」と解説。ラストシーンも長回しを用いており「これまでのディザスタームービーとは違うものを作りたかった。観客が三姉妹と一緒に、世界の終わりの太陽の姿を観る経験が出来たら良いなぁ、というぼんやりした発想から、ああいうシーンを思いついた」と説く。
145分に及ぶ作品となったが「たっぷりと三人が過ごす日常を、活きているテンポ感で味わってほしかった。間を詰めたりしたくなかった」と意向があり「たっぷりある時間が流れていく中で、ゆったりした空間を過ごす三人それぞれをじっくり掘り下げたかった。また、三人のバランスが一度崩れてぐちゃぐちゃになり、改めて家族として積み上げていく過程をしっかりと描きたかった」と丁寧に作り上げている。
既に東京の劇場では公開しており「小さな画面では伝わらないことが、大きなスクリーンで観ることで、我々が届けたかったものが届いているんだな」と実感が得られた。自身が鑑賞した際には「ロケーションやキャストの皆さんに細かいところまで拘り演じてくれている。最後まで大きな画面で観ることで伝わってくる」と体感。長尺作品に対して身構えてしまうかもしれないが、実際に観て頂くと「意外とあっという間だった」という声が多く、ラストシーンに関しては「その場にいるような感覚で観てもらえた」と嬉しかった。今まで、SF的な舞台で日常を描くことに取り組んできたが「終わりが見えている人達はどのように生きていくか、といった死生観に興味がある。次もそういうことをやりたい」と制作意欲は止まらない。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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