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私達が思っている常識や社会のルールは本当に正しいのか…『夜を走る』佐向大監督に聞く!

2022年6月20日

鉄屑工場を舞台に、そこで働く真逆な性格のふたりの男の退屈な日々と、無情な運命に巻き込まれていく姿を描く『夜を走る』が関西の劇場でも公開中。今回、佐向大監督にインタビューを行った。

 

映画『夜を走る』は、『教誨師』の佐向大監督がオリジナル脚本で撮りあげた社会派ドラマ。郊外の鉄屑工場で働く2人の男。不器用な秋本は上司からも取引先からもバカにされながら、実家で暮らしている。一方の谷口は家族を持ち、世の中をうまく渡ってきた。それぞれ退屈で平穏な日常を送る秋本と谷口だったが、ある夜の出来事をきっかけに、2人の運命は大きく揺らぎはじめる。無情な社会の中で生きる人々の絶望と再生を、驚きの展開で描き出す。『きみの鳥はうたえる』の足立智充さんが秋本、舞台やドラマを中心に活動し『教誨師』で映画初出演にして注目を集めた玉置玲央さんが谷口を演じる。共演には『夕方のおともだち』の菜葉菜さん、『罪の声』の宇野祥平さん、ドラマ「孤独のグルメ」の松重豊さんら個性豊かな俳優陣が集結。

 

大杉漣さんの事務所であるZACCOに所属していた佐向監督。2010年に初商業映画である『ランニング・オン・エンプティ』の公開を経て次回作を考えていく中で、友人が鉄屑工場で働いており、見学させてもらい興味深く感じ、この工場を舞台にした作品を作ろうと大杉さんに提案したのが今から10年前。本作の前半部分にあたる内容であり、自主映画として撮った『まだ楽園』と似ていることもあり、プロットを気に入ってもらう。だが制作に動いていたもののうまくいかず中断、監督自身の中では未完成に終わった企画ととらえていた。しかし「どうしても手掛けたい」という思いが残っていく。「映画の中の工場で働いている人達は、現在の感覚では、古い価値観を持っているかもしれないが、その価値観を反転させることができれば、“今”の映画になるのではないか」と考え、2019年に脚本づくりを再開した。「脚本を書いているときにちょうどコロナ禍になった。閉塞感に満ちたこの場所から、どうしたら飛び立っていけるか」とひたすら考え、後半はストーリーを大幅に変えた。監督としては奇をてらったつもりはなく「負のエネルギーが蔓延している中で、主人公の秋本がその負のエネルギーをそのまま全て溜め、社会から爪弾きにされるように飛び立っていくと考えた時、自然とあぁなった」と説く。

 

キャスティングにあたり、元々は同じ事務所に所属していた足立智充さんは、いつかメインキャストとして出演してもらいたいと思っていた。「最初からこういう役柄だと決めつけないでニュートラルに演じることができる人。秋本は最初殻に閉じこもっているが、そこから殻を破って変容していく。足立さんは柔軟性のある人なのでピッタリだ」と直感し、オファーした。玉置玲央さんは『教誨師』で映画デビューを飾り、本作が2本目の映画出演にあたる。「『教誨師』では、大杉漣さん演じる教誨師に対して疑問を投げかける、キーパーソンとなる人物を演じてもらった。エキセントリックな言動を繰り返しているが、見方を変えれば正論を言っているような難しい役柄を絶妙に表現されていたように、玉置さんは多面的で、社会や日常に対して斜に構えた感じが見事」と気に入っている。今回、谷口は良い人間ではないが「自分達と変わらない。自分達と共通点を見つけられるような雰囲気を演じてもらえる」と信頼し、オファーした。秋本と谷口のバランスを考え「足立さんと玉置さんが並んでいる画を観てみたかった」と望み、イメージを具現化している。本作後半では、不穏な雰囲気を醸し出す役を演じた宇野祥平さんのインパクトが大きく「とても胡散臭いものの、物凄く良い人に見えたり、怖い人に見えたりする。本気なのか冗談なのか全然分からない、捉えどころがなく型にはまらないのが素晴らしい」と絶賛。足立さんや玉置さんとは撮影前から何度もコミュニケーションをとり、「キャラクターの変化、物語の展開も意見を聞きながら固めていった。普段なかなかできないことをやれたのはよかった」と振り返る。

 

撮影にあたり、10年前に撮影しようとしていた工場は会社の体制が変わり難しくなってしまっていた。新たに鉄屑工場を探し始め、埼玉県にある工場を紹介してもらい撮影許可が下りた。「社長がとても理解のある方で、感謝しかありません」。非稼働日である日曜日に撮影させてもらい「重機は我々では動かせないので、休日に社員の方に出勤してもらって出演も兼ねてご協力頂いた。平日の稼働日は、音が物凄いので台詞が全然聞こえない。稼働しているので危険であり撮影は無理」と慎重に臨んでいる。登場人物が多く、監督にとっても大変な撮影だったが「自分がおもしろくて観たいものを第一に考えて撮っている。後半では様々な意味で変化していくので、どこまで描いたら観客がおもしろいと思ってくれるのか」と熟考し、「スタッフやキャストと相談しながら、やり過ぎていないか限界点を確認しながら手探り状態で進めていった」と明かす。「これで良かったのか未だに悩んでいます」と漏らしながらも「あるシーンで足立さん演じる秋本の、タガが外れたような笑顔を見たとき、進むべき方向は間違っていない」と確信したそうだ。

 

出来上がった本作は既に関東の劇場で公開されており「予想出来ない展開がおもしろいと思う方がいれば、訳が分からずに展開についていけない方もいる。いろんな意見があるのは当然」と冷静に受けとめながら「僕自身は、まあまあよくできた映画だと云われるより、失敗作だと思われる方が良いと思ってやっている」と話す。今後も「自分が一観客としておもしろいと思える作品を作りたい」と考えており「それはラブストーリーであれ社会派作品であれ同じ。『教誨師』と『夜を走る』は全く違う作品ですが、自分達が思っている常識や社会のルールが本当に正しいのか、を起点にして始まっている。次も全く違うジャンルやテイストの作品だったとしても、そこは変わらないと思います」と虎視眈々と見据えている。

 

映画『夜を走る』は、関西では、大阪・梅田のテアトル梅田や京都・烏丸御池のアップリンク京都、神戸・新開地のcinemaKOBEで公開中。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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