創作意欲に沸いた緻密な短編映画4作品がいよいよ劇場公開!「ndjc2021」団塚唯我監督、道本咲希監督、藤田直哉監督、竹中貞人監督を迎え舞台挨拶開催!
次代を担う長編映画監督の発掘と育成を目指す文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」の2021年度作品が完成し、3月4日(金)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で上映されている。3月5日(土)には、各作品を手掛けた、団塚唯我監督、道本咲希監督、藤田直哉監督、竹中貞人監督を迎え、舞台挨拶が開催された。
文化庁委託事業「ndjc(new direction in Japanese cinema):若手映画作家育成プロジェクト」は、次代を担う優れた長編映画監督の発掘と育成を目指し、平成18年度より始まり、今年度で16年目になる人材育成事業。優れた若手映画監督を公募し、本格的な映像製作技術と作家性を磨くために必要な知識や技術を継承するためのワークショップや製作実地研修を実施すると同時に、作品発表の場を提供することで、次代を担う長編映画監督の発掘と育成を目指している。
8月に行われたワークショップから選出され、製作実地研修に進んだ4人の若手監督が、講師による脚本指導を経て、各制作プロダクションの協力のもと、プロのスタッフ・キャストと共に短編映画を制作。フレッシュな感性と第一級の確かな技術が作り上げた個性豊かな短編映画4作品が上映される。
上映後、竹中貞人監督、藤田直哉監督、道本咲希監督、団塚唯我監督が登壇。各作品に合わせた興味深い制作秘話を聞くことが出来た舞台挨拶となった。
映画『少年と戦車』…
田舎町で暮らす中学2年生の少年である田崎は、内弁慶な友人の江田との退屈な日常やクラスメイトから受けるいじめにより、息の詰まりそうな毎日を過ごしていた。そんな彼にとって、時折言葉を交わす少女の咲良に思いを馳せることだけが唯一の楽しみだった。ある日、湖に旧日本軍の戦車が沈んでいるという情報を得た田崎は、窮屈な日常から抜け出すべく捜索に向かう。そこで彼を待ち受けていたのは、自身の思春期と向き合う壮大な精神の旅だった。監督は『羊と蜜柑と日曜日』の竹中貞人さん。『コドモ警察』の鈴木福さんが主演を務めた。
懐かしい気持ちになりたくて、学生の頃の話を作ろうと考えていた竹中監督。偶然にも「静岡県の浜名湖に戦車が沈んでいる」と聞き、合致させられないか、とストーリーを着想していく。主役を演じた鈴木福さんとは、事務所と個人的なつながりがあった。また、東映のプロデューサー陣と「戦車の上でキスをしたら一番おもしろい10代は誰だろうか」と話し合い「やはり鈴木福君が良いんじゃないか」と決断する。本作は「空想が鍵となる物語」と認識しており、制作段階から「これは夢ではない」よスタッフと共有した。「夢は境界線がある。中学生が頭の中で繰り広げる空想は線がない。空想は濃淡で表現するべきだ」と、カメラや照明で少年の空想を意識的に作り上げていく。なお、登場した戦車は、御殿場の車屋さんが所有しているもので「一度アメリカのドラマに登場したことがある戦車をお借りしてきた。中身はフォード者のブロンコと呼ばれるエンジンを搭載しており、現場ではエンストを繰り返し、初日は戦車が動いている画を撮れなかった」と大変だったが「予備日も使わせてもらい、緩やかなスケジュールで撮影できた」と一安心。戦車の上でのキスシーンは気に入っており「福君は初めてだったので、緊張しないように僕のファーストキスの話をしていました」と明かした。撮影を終え、編集を続けていく中では「観過ぎた症候群にはなってしまう。自分では判断できない状態になった上で公開される。皆がどう思うんだろう」と不安が募っていく。劇場公開を迎え「30分の中で余白を楽しむお客さんが多い」と感じている。今後は「エンタメ作品を撮り続けていきたい」と創作意欲は漲っていた。
映画『LONG-TERM COFFEE BREAK』…
大手企業に勤める優子は、直樹という男にナンパされる。職業は俳優で、他人の家を転々と居候しながら暮らしているという。これまで出会ったことのないタイプの彼にひかれた優子は、1年後、彼と結婚する。その後、優子と直樹を取り巻くカップルたちに、次々とトラブルが発生。優子の会社の後輩である、みゆきは上司との不倫が会社に発覚し、直樹の親友である将太もまた、既婚者でありながら不倫している。そんな中、直樹に対する優子の感情も徐々に変化していく。監督は、短編『stay』がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020短編部門でグランプリを受賞した藤田直哉さん。『女子ーズ』の藤井美菜さんが主演を務めた。
「これまでに男女の関係に関する作品を作ってこなかったので、トライしていきたかった」と話す藤田監督。男女の普遍的なことを描いているが「時代が変わって、男性社会でありつつ男性社会ではなくなってきている。男性から見た女性や、男性が描く女性の姿を描くことを乗り越えていけるか」と挑戦していった。なお、出演した藤井美菜さん、佐野弘樹さん、福田麻由子さん、遊屋慎太郎さんは監督による直々のオファーである。全体の6割程度はマンションのシーンであり「重要なシーンをしっかり考えて、構図を作りました。車は実際には運転しないで、止めた状態で照明を作る。初めてだったので不安な中で挑んで合格点を得ました」と出来栄えに納得していた。なお、北海道の岩見沢市出身であり「豪雪地帯で雪にまつわる作品を撮れたら」と構想している。
映画『なっちゃんの家族』…
ある朝突然、登校中に家出を思い立った小学4年生のなつみ。ランドセルをコインロッカーに預け、遠くに住む祖母の家へ向かう。祖母は突然の訪問に驚くが、なつみの心境を察して温かく迎え入れる。なつみは両親の不仲がストレスとなり、疲れ切っていたのだ。自然体で接してくれる祖母との時間に癒やされるなつみだったが、翌日、両親が連れ戻しにやって来て……。監督は、学生時代に制作した短編『19歳』がPFFアワード2018にて審査員特別賞を受賞した道本咲希さん。出演は『凶悪』の白川和子さん、『EUREKA ユリイカ』の斉藤陽一郎さん。
「子供が子供らしくいるべき時期に、周囲の環境によって子供らしくいられないことはとても悲しい」と受けとめている道本監督。「家族間で会話がないことが当の本人には辛く、第三者に伝えにくい」と考え「中途半端な仲の悪い家族を描いてみたかった」と話す。主演の上坂美来さんについて「10歳で演技が初めて。オーディションでお会いして、大人びた表情をふとした瞬間にして、なつみっぽかった」と選んでいる。脚本の段階で「皆に身近な映画にするために、自然な台詞にしたかった。説明的な台詞や長い台詞は、何度も読み返して極力短くして、自然に見えるようにしよう」と工夫した。完成した作品について「家族の問題は簡単には解決しない。行動すれば少しでも物事が変わっていくことが伝わればいいな」とお客さんにメッセージしていく。今後も「問題提起をしながら、笑えるような映画を撮れたら」と考えている。
映画『遠くへいきたいわ』…
21歳の紗良は、アルバイト先へ面接を受けに来た39歳の竹内を見て動揺する。紗良の同僚で恋人の悠人は、竹内が目をつぶったまま車道の真ん中に立つ姿を目撃したことを紗良に話す。なぜか怒りを露わにした紗良は、悠人を置いてその場を去ってしまう。竹内の勤務初日、開店作業を終えた竹内と紗良は、オープンを待つばかりのはずだったが……。監督は『愛をたむけるよ』で数々の映画賞を受賞した団塚唯我さん。モデルの野内まるさんが初主演を務め、『偶然と想像』の河井青葉さんが共演。
「喪失感みたいものをテーマに作品を作ってきました」と話す団塚監督。主演の野内まるさんは初演技だったが「一緒に頑張ろう」と心を込めて制作していった。劇場公開前は特に緊張しておらず「どんな感想を云われてもしっかり吸収して次に活かそう」と真摯な姿勢だ。「映画を作り続けるのが大切だと思っています、応援してもらえたら」と思いを伝えた。
「若手映画作家育成プロジェクト ndjc2021」は、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で3月10日(木)まで公開中。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!