記憶喪失を引き起こす奇病が蔓延する世界で、突然記憶を失った男が回復プログラムに参加しミッションをこなしていく『林檎とポラロイド』がいよいよ劇場公開!
(C)2020 Boo Productions and Lava Films
記憶喪失を起こす病が蔓延する世界で、突然記憶を失い、回復プログラムに参加するひとりの男性の姿を描く『林檎とポラロイド』が3月11日(金)より全国の劇場で公開される。
映画『林檎とポラロイド』は、記憶喪失を引き起こす奇病が蔓延する世界を舞台に描いたドラマ。ある日突然記憶を失った男は、治療のための回復プログラム「新しい自分」に参加する。彼は毎日送られてくるカセットテープに吹き込まれた内容をもとに、自転車に乗る、仮装パーティで友だちをつくる、ホラー映画を観るなど様々なミッションをこなしていく。そんな中、男は同じく回復プログラムに参加する女と出会い、親しくなっていく。男が新しい日常に慣れてきた頃、彼はそれまで忘れていた、以前住んでいた番地をふと口にする。新しい思い出を作るためのミッションによって、男の過去が徐々にひも解かれていくが…
本作は、ギリシャの新鋭クリストス・ニクが長編初メガホンをとっており、ケイト・ブランシェットが絶賛し、製作総指揮に名を連ねた。キャストにアリス・セルヴェタリス、ソフィア・ゲオルゴヴァシリらが名を連ねた。なお、ニクは、キャリー・マリガンが主演し、ブランシェットがプロデュースする「Fingernails(原題)」で監督としてハリウッドデビューを果たす。
(C)2020 Boo Productions and Lava Films
映画『林檎とポラロイド』は、3月11日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のテアトル梅田、京都・烏丸の京都シネマ、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。
本作は、大きな喪失の物語。細部に配慮した演出から漂う空気感は、不思議なアート映画を思わせる。しかし進むにつれ、思わずアッと驚かされた。観た人の心を悲しいベールで包むような優しさを感じてしまう。
”突然、記憶喪失になる奇病”が蔓延している世界観は突拍子もないが、現実でもアルツハイマー病は突然患うことがある。だが、今作では、アルツハイマー病と違い、発病すれば過去のほとんどの記憶を無くす(忘れている)が、以降の記憶は蓄積されていく。主人公は、次の人生を歩み始めることで過去と決別し、別人として生きて行くことが出来る。しかし、それで良いのか?
ミッションをクリアするシークエンスでは、主人公が定期的に監視され、彼とそっくりの服装をした他人が、全く同じミッションをこなしていることにディストピアSFの要素を感じたが、現実も更生施設等で実施されているプログラムに参加すれば同様の体験するだろうか。ザワザワした気持ちになった。彼は、寡黙で何を考えているのかわかりにくいキャラクターだが、アップのショットが多いことで感情の機微を豊かに感じられる。最初と最後が同じ場所でありながら雰囲気が全く違うことが映画らしく、ポジティブだ。最初は不可解に感じていたシーンも後々になって活きていく。映画の醍醐味を存分に味わえる。
最近、ファスト映画(YouTubeなどに違法アップロードされる3~10分程度であらすじと映画の本編映像が観れる動画を指す)に関するニュース記事を読んで驚かされた。同時に、90分をかけて語られる主人公の物語は、彼と同じ時間軸で1秒1秒を一緒に味わうことでしか得られない感覚がある、と強く感じた。主人公の名前が観客に提示されないことは、”この物語は誰にでも当てはまる”ことの裏返しだ。いつか私達は大切な人にお別れを言う日が来る。本作は間違いなく、大切な人に「ぜひ観て」と勧めたくなる映画だ。
from君山
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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