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限られた予算の中で30分短編作品を手応えを得ながら制作出来た…「ndjc2021」団塚唯我監督、道本咲希監督、藤田直哉監督、竹中貞人監督に聞く!

2022年3月2日

次代を担う長編映画監督の発掘と育成を目指す文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」の2021年度作品が完成し、3月4日(金)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で上映される。今回、各作品を手掛けた、団塚唯我監督、道本咲希監督、藤田直哉監督、竹中貞人監督にインタビューを行った。

 

文化庁委託事業「ndjc(new direction in Japanese cinema):若手映画作家育成プロジェクト」は、次代を担う優れた長編映画監督の発掘と育成を目指し、平成18年度より始まり、今年度で16年目になる人材育成事業。優れた若手映画監督を公募し、本格的な映像製作技術と作家性を磨くために必要な知識や技術を継承するためのワークショップや製作実地研修を実施すると同時に、作品発表の場を提供することで、次代を担う長編映画監督の発掘と育成を目指している。
8月に行われたワークショップから選出され、製作実地研修に進んだ4人の若手監督が、講師による脚本指導を経て、各制作プロダクションの協力のもと、プロのスタッフ・キャストと共に短編映画を制作。フレッシュな感性と第一級の確かな技術が作り上げた個性豊かな短編映画4作品が上映される。

 

映画『遠くへいきたいわ』…

21歳の紗良は、アルバイト先へ面接を受けに来た39歳の竹内を見て動揺する。紗良の同僚で恋人の悠人は、竹内が目をつぶったまま車道の真ん中に立つ姿を目撃したことを紗良に話す。なぜか怒りを露わにした紗良は、悠人を置いてその場を去ってしまう。竹内の勤務初日、開店作業を終えた竹内と紗良は、オープンを待つばかりのはずだったが……。監督は『愛をたむけるよ』で数々の映画賞を受賞した団塚唯我さん。モデルの野内まるさんが初主演を務め、『偶然と想像』の河井青葉さんが共演。

©2022 VIPO

 

30分の短編作品を撮るにあたり、頭を切り替えた団塚監督は「やりたいことをやりつつ限られた予算の中で、障害はなかった。意外と出来たな」と手応えがある。脚本は最初に関係性とロケーションを作り「ファミリーレストランの開店前にパートの2人がいる、という緊張感と時間の制限があるという設定からストーリーを作っていきました」と説く。当初のストーリー展開では、おもしろさを感じず「当初は自転車がなかった。改稿の中でアイデアが思い浮かび、映画が遠くまで行けるようになった」と振り返る。キャスティングにあたり、河井青葉さんは、脚本段階で充て書きしており、直々にオファーし、主演の野内まるさんはオーディションでお会いして、ピッタリだと直感した。撮影は予定通りに進行し、翌日に向けたモチベーションの向上にもつながっている。とはいえ、スタッフからイライラを感じた時もあり、泣きそうになる程に苦しいこともあった。ポストプロダクションが終わり、最後に音楽が出来上がった時には「作りたかったものが出来た」と実感している。なお、本作を長編にするなら「2人の逃避行を3人にする。例えば、ファミレスに野菜を運んできた人を連れていく。登場人物の関係性を組み換えると長編になるかもしれない」と検討。今後は「出来るだけ自分のペースで。自分のおもしろいと思ったことを。後ろ姿しか見えない誰かに向けて作っていきたい」と意気込んでいる。

 

映画『なっちゃんの家族』…

ある朝突然、登校中に家出を思い立った小学4年生のなつみ。ランドセルをコインロッカーに預け、遠くに住む祖母の家へ向かう。祖母は突然の訪問に驚くが、なつみの心境を察して温かく迎え入れる。なつみは両親の不仲がストレスとなり、疲れ切っていたのだ。自然体で接してくれる祖母との時間に癒やされるなつみだったが、翌日、両親が連れ戻しにやって来て……。監督は、学生時代に制作した短編『19歳』がPFFアワード2018にて審査員特別賞を受賞した道本咲希さん。出演は『凶悪』の白川和子さん、『EUREKA ユリイカ』の斉藤陽一郎さん。

©2022 VIPO

 

道本監督自身の経験がテーマになっている本作について「落ち着いた家族問題だと思っていた。人の動きをつけたくて、走り回らせたりバドミントンさせたりしながら物語と組み合わせるとどうなっていくかな」と検討しながら、脚本を執筆していく。キャスティングにあたり、主演の上坂美来さんは10歳の新人だが、オーディションでお会いして「この子だな」と直感した。年上の俳優の方々については、プロデューサーにピックアップしてもらいながら、オファーしている。撮影中は、違和感を抱きながらも正解が分からず「人を待たせることが苦手で、聞いてしまうことがあった」と大変だったが「キャストと共に考えることが楽しかった。何よりも撮影日が全て晴れた」と満足している。とはいえ、あと20分長い作品に出来るなら「最初の家族でのシーンをさらに描きたい。実は、お姉ちゃんがいて、その関係を丁寧に描いてくと、家出しないかもしれない」と創作意欲は止まらない。なお、道本さんが醸し出す雰囲気から「優しそうに見える。あったかさが作品に出ている」と云われることがあるが「そんな人間ではないんですけど」と淡々と話す。これまでは、自身の経験談に基づいた作品を多く制作してきたが「これからは、離れた人のことを知りたくて、異性や年上の人の気持ちを描きたい。問題提起をしながらクスッと笑える作品を仕事を作っていきたい」と目を輝かせている。

 

映画『LONG-TERM COFFEE BREAK』…

大手企業に勤める優子は、直樹という男にナンパされる。職業は俳優で、他人の家を転々と居候しながら暮らしているという。これまで出会ったことのないタイプの彼にひかれた優子は、1年後、彼と結婚する。その後、優子と直樹を取り巻くカップルたちに、次々とトラブルが発生。優子の会社の後輩である、みゆきは上司との不倫が会社に発覚し、直樹の親友である将太もまた、既婚者でありながら不倫している。そんな中、直樹に対する優子の感情も徐々に変化していく。監督は、短編『stay』がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020短編部門でグランプリを受賞した藤田直哉さん。『女子ーズ』の藤井美菜さんが主演を務めた。

 

©2022 VIPO

 

「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」は、今までは35フィルムを用いていたが、本年はデジタルで撮影している。藤田監督は残念に感じていたが「実際に始まってみると、凄く良い面があった。フィルムはテイクを回せないので緊張感があるんですが、デジタルでは安心して撮れる。デジタルだからこそのスタッフのアサインがあった」と実感。とはいえ、30分の作品では語りきれない部分があると感じており「時間の制約の中で何を選択していくか、もっと切り詰めて考えていかないといけない」と考えさせられた。脚本執筆にあたり「30分間で語らないことで活きてくることがある」と気づき「結婚や事故に関する時間を飛ばしている。そこから細かく構成していた」と明かす。キャスティングにあたり、主演の藤井美菜さんは、佇まいが輝いている30代女子のイメージに合っており、オファー。佐野弘樹さんは知り合いだったが「人懐っこいポテンシャルが役にハマり過ぎている」とお気に入り。福田麻由子さんは以前から一緒に仕事がしたく、今作で演じた役が合っていると感じた。遊屋慎太郎さんにもオファーしており「真面目な人だが、遊んでいそうな雰囲気があった」とハマり役だと感じている。撮影初日には、将太の家でのシーンを撮っており「撮影の板倉さんのフレーム作りが想定以上で、おもしろい作品が出来る」と手応えがあった。編集では、組み換えたりカットしたりしたシーンが多くあり「脚本上では理解できたけど、並べてみると、情報量が多く、処理しきれない。あまりにも複雑にシーンを組み過ぎた。脚本段階で抱えていた問題が最後まで解決しきれず。根本的な問題だけど、変えてしまうと映画自体が変わってしまう」と改善の余地があり「今後の課題として、根幹に関わる問題をどのタイミングで決断できるか重要」だと認識している。本作を長編にするなら「ホモソーシャルな男達の下品な会話を描いてみるかな。優子の関係性は直樹を通してのみ描いているので、優子の周囲の人物との交流を膨らませられるかな」と構想。監督自身は、北海道の岩見沢市にある豪雪地帯の出身で「雪景色をフレームに収めたい。雪国出身だからこそ撮れる雪の危うさを描きたい」と考えていたり「祖父が育ったのは炭鉱で栄えた街なので、日本の重たい部分をPOPに作りたい」と創作意欲は止まらない。

 

映画『少年と戦車』…

田舎町で暮らす中学2年生の少年である田崎は、内弁慶な友人の江田との退屈な日常やクラスメイトから受けるいじめにより、息の詰まりそうな毎日を過ごしていた。そんな彼にとって、時折言葉を交わす少女の咲良に思いを馳せることだけが唯一の楽しみだった。ある日、湖に旧日本軍の戦車が沈んでいるという情報を得た田崎は、窮屈な日常から抜け出すべく捜索に向かう。そこで彼を待ち受けていたのは、自身の思春期と向き合う壮大な精神の旅だった。監督は『羊と蜜柑と日曜日』の竹中貞人さん。『コドモ警察』の鈴木福さんが主演を務めた。

©2022 VIPO

 

東映東京撮影所で撮影した竹中監督。撮影所での撮影方法について「フィルム時代から続く慣例があり、不用意な長回しは害悪だという価値観があり、デジタルで撮ったとはいえフィルムのような緊張感の中で撮影できました」と満足している。脚本作りにあたり、脚本指導の深川栄洋さんと話し合っており「自分の中に深く入っていく作業が長くありました。実際に書いている時間より、本当にやりたいことを探していく時間が長かった」と貴重な経験をした。キャスティングでは、鈴木福さんの事務所と所縁があり「戦車の上でキスしているおもしろい10代として鈴木福君は良いよな」と感じ、オファー。ヒロイン役の黒崎レイナさんはオーディションにて、目が大きくて魅力的に感じ選んでいる。ベテランのスタッフが多い撮影現場だったが、キャストが若く「年齢の乖離がある現場だ」と不安もあった。しかし「その中で鈴木福君が同世代の役者を集めてコミュニケーションを重ね、キャストの士気を高め続けてくれて、頼れるリーダーだ」と助けられ、信頼を寄せた。本作では、重厚感ある戦車が登場するが「戦車を出したら楽しい、と思った。派手な画を撮りたいのは性格でしょうか」と自身を捉えながら、今後も「ド派手なエンタメを作りたい」と期待に胸を膨らませている。

 

若手映画作家育成プロジェクト ndjc2021」は、3月4日(金)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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