じわじわと人々の心に浸透していくエンターテインメントが必要だ…『高津川』錦織良成監督に聞く!
一級河川としては珍しいダムがひとつもない清流・高津川を舞台にしたヒューマンドラマ『高津川』が2月11日(金)より全国の劇場で公開。今回、錦織良成監督にインタビューを行った。
映画『高津川』は、島根県を流れる一級河川・高津川を舞台に、歌舞伎の源流ともいわれる「石見神楽」の伝承を続けながら、人口流出に歯止めのかからない地方の現実を前に懸命に生きる人々を描いたドラマ。山の上の牧場を経営する斉藤学は、息子の竜也が地元の誇りである神楽の稽古をさぼりがちになっていることに心を痛め、また、多くの若者たちと同じように、いずれ息子がこの土地を離れてしまうのではないかと心配していた。そんな中、学の母校である小学校が閉校になることを知らされる。
本作では、『踊る大捜査線』シリーズなど数多くの作品でバイプレイヤーとして活躍してきた甲本雅裕さんが映画初主演を務めた。また、ヒロイン役の戸田菜穂さんのほか、大野いとさん、田口浩正さん、高橋長英さん、奈良岡朋子さんらが顔をそろえる。監督・脚本は『白い船』『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』の錦織良成さんが担う。
「WebやYouTubeで映画をご覧になっている若い人達にこそ劇場で観てもらえる作品を作りたい」と錦織監督は日々考えている。今作では「皆さんに映画の良さを味わってもらいたい」と願い「公開規模や予算、劇場のカテゴリーすらない。現代は、おもしろい作品はどこにである多様化した時代だ」と振り切れた。そこで、映画の醍醐味を凝縮し、奇をてらわない映画の良さを表現していく。
錦織監督の出身である島根県は、人口が少なく高齢化が進んでいるが「現地を訪れてみるとイメージと全く違う」と表す。また「バブル時代でも土地の値段が上がらなかった県ですから」と自虐的に話しながらも「だからこそ、映画を撮る意味がある」と説く。自身が育った田舎を今までにない肯定的な視点で捉え「実は認めざるを得ない良さがある。知っている人は知っているが、皆が知らないことこそが重要な真実である」と気づく。監督した「島根3部作」の第1作である『白い船』公開後は聖地巡礼が起きており「映画はじわじわと人々の心に浸透しながら何かを感じてもらえる。説教臭くならずエンターテインメントとして昇華していける作品が必要だ」と今作ではこれまでにないチャレンジに挑んだ。一昨年の8月中旬から10月末にかけて丁寧に時間を使いながら、フィルムを用いた撮影に取り組み「田舎でのアナログの良さがフィルムに表現されている。30年後まで残していくなら、フィルムで撮らないといけない。将来的に、デジタル技術が発展してもフィルムには敵わない」と力説していく。
初の主演を担った甲本雅裕さんは、錦織監督作品には7本目の出演。10数年前に「いつか主役で撮りたい」と伝えており、お互いに念願の作品になった。ほぼ台本を変えずに撮影しており「こんなに喋らない主人公は最近の作品で見当たらない。主人公以外がよく喋っている。この台本を見て主役をやりたい方はあまりいない」とまで話し、まさに甲本さんに当て書きされている。甲本さんにとっても相当な挑戦であり「ストレートな台詞で淡々と演じている。ほとんどの作品では失敗する」とまで云われながらも、完成した作品を観て「安心した」と言ってもらい、喜んだ。高橋長英さんとは3本目の作品であり「昔から好きだった。一度出演してもらって以降、レギュラーになっている。いい役者はそんなに多くない」と信頼を寄せている。奈良岡朋子さんからは『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』に出演した時に「あなたの全作品に出るから」とまで云われ、今作まで出来る限り出演して頂いた。錦織監督は「俳優の力を引き出す。演技について一緒に考えることが出来ても、相手の才能以上の能力を発揮できる現場を作りだす」と監督の仕事を認識しており「1時間かけて役者と語り合い、僕の思いを相手に伝えることは容易ではない。相手の力に対して、僕の思いにどれだけ近づいてもらえるか」と苦労を振り返る。
なお、本作は過疎をテーマにした作品ではあるが、錦織監督は「今や日本の何処でも過疎に関する問題がある」と訴えた。手掛ける映画では人々が陥ってしまいがちな先入観を壊そうとしており「人それぞれが持っている価値観に従ったものづくりをやってみたい」と意気込み、撮影現場ではベテランスタッフの思いを汲み取っていく。また「現在の日本が抱えている問題は20年後を見据えている。皆が他人事だと思っているが、結局は自分が経験する」と鑑みており「皆と一緒に共有して頑張って生きていこう」というメッセージを今作では慎ましく描いた。いよいよ全国公開を目前にした現在は「年齢に関係なく映画好きの方に観てもらいたい。むしろ若い方達を信じている」と思いを寄せ「Webがどれだけ便利になっていても最後は人間が判断する。いくらデジタルのツールを使っていても、アナログが大事だと分かっている。『この映画は良いね』と思って頂いた方の御力によって、お客さんが増えていき映画は長い道を歩んでいく」と期待を込めている。
映画『高津川』は、2月11日(金)より全国の劇場で公開。関西では、2月11日(金)より大阪・梅田の梅田ブルク7,2月25日(金)より京都・烏丸の京都シネマで公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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