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小説の精神を活かしながら、映画的な表現に置き換え、日本人にも中国人にも伝わる作品が出来上がった…『安魂』日向寺太郎監督に聞く!

2022年2月4日

息子を亡くした老人が、息子そっくりの青年と過ごすことで、失われた時間を取り戻していく様を描く『安魂』が関西の劇場でも2月4日(金)から公開。今回、日向寺太郎監督にインタビューを行った。

 

映画『安魂』は、『火垂るの墓』『こどもしょくどう』の日向寺太郎監督が、第43回ベルリン国際映画祭金熊賞受賞作『香魂女 湖に生きる』の原作者として知られるチョウ・ターシンの小説を映画化した日中合作の人間ドラマ。大切な人に先立たれた人々の心の再生を描いた原作を、『うなぎ』『赤い橋の下のぬるい水』のベテラン脚本家である冨川元文さんが大胆にアレンジし、死んだ息子と瓜二つの青年と出会った主人公とその家族が、生きていく力を取り戻していく姿を描いた。地位も名誉も手に入れた作家の唐大道は、自らの選ぶ道こそが正しいと信じて疑わない独善的な人間だった。その考えは愛する息子の英健に対しても同じで、息子の幸せのためだと農村出身の恋人と別れさせた。しかし、その英健が29歳の若さでこの世を去ったことで、大道の絶対的な信念も崩れ去る。息子が本当はどんな生き方を望んでいたのか、息子の魂を探し求める大道は、ある時、英健と瓜二つの青年と出会う。劉力宏という名のその青年に息子の姿を重ねる大道は、妻の制止も聞かず、たびたび彼のもとを訪ねる。そして、息子にもう一度会いたいと願う大道の気持ちが、やがてひとつの奇跡を起こす。主な登場人物はすべて中国人キャストで、『サニー 32』『映画 としまえん」の北原里英さんが、日本人留学生の星崎沙紀役で唯一の日本人キャストとして出演している。

 

周大新(チョウ・ターシン)さん自身の実体験に端を発して書かれた原作小説をベースにした本作。2016年、日向寺監督は、友人である詩人の田原(ティアン・ユアン)さんから「日本で翻訳されていないが、中国で評価の高い周大新さんの小説を映画化するとおもしろいんじゃないか」と提案を受けた。さらに「中国でも出資者を探すから」と云われ、1,2週間後には「中国の出資者も決まった」と連絡を受ける。とんとん拍子に企画が進んだが「まずは、原作を読まないと…」となり、田原さんの友人である谷川毅さんに訳して頂く。実際に読んでみると「独特なストーリーで、語り口が独特で変わっている」と驚いた。「父親から息子へ語りかけるような口調で始まります。次は息子から父親への語りかけ。手紙ではないが、往復書簡のような対話でストーリーが進んでいき、息子の人生が分かっていく。息子が死んだ後も、魂の交流が続き、天国から父親との往復書簡が続く」と説くが「この構成や語り口の作品をどういう風に映画にするか。そのままを映画に出来るものではない。どういう風に映画的な表現に置き換えるか」と映画監督として困惑してしまう。そこで、脚本家の冨川元文さんと組み「魂をめぐる話ではあるので、瓜二つの青年を登場させて、その青年が死者と交流できる設定にすると、息子の思いを語らせれば、おもしろいんじゃないか」と提案してもらい「抜群のアイデアだ、と思った。小説の精神を活かしながら、映画的に表現が置き換わった」と喜んだ。とはいえ、冨川さんが最初に書いた脚本は、中国人の視点では、日本人の家族に見える内容で「中国人は自己主張が強い。お互いの主張を言い合うい、ぶつかることが普通。日本人は物分りが良く、大人しく見える」と気づき、何度も粘り強く書き直しをしてもらい、中国人の家族に見えるように仕上がっている。

 

キャスティングにあたり、まずは、中国側のプロデューサーと話し「唐大道は、厳格な父親に見えると同時に小説家に見える人。また演技ではなく本人自身だと思えるような役者」と最高の演技が出来る方をリクエスト。すると、プロデューサーからぴったりな役者としてウェイ・ツーを紹介してもらう。そして、若手俳優についてはオーディションを行い「プロデューサーが役者の事務所の中から、年齢と役に合う人を集めて選考している。各々の演技力のレベルが高い中で、この二人がピッタリだ」と感じて、チアン・ユーとルアン・レイインを選んだ。特にチアン・ユーは一人二役であり「紙の上では、息子と瓜二つだと想像がふくらむ。演技が下手だと滑稽になる。大事な役だが、役者のレベルが高いことに助けられた。見かけは同じでも、同じに見えるだけだとおもしろくない。使い分けを上手くやってくれた」と感謝している。なお、原作小説には、日本人が登場しないが「昔の日本にも強権的な父親はいたかもしれない。だが、今の日本人がこの映画を観ると、困惑してしまう。ならば、日本人を代弁するような人を出演させても良いんじゃないか」と受けとめ「存在感があり、話題性が伴い華やかじゃないと意味がない。また、日本人留学生のイメージは、好奇心が強く、世話好きである。キャラクターは、合っていないと鬱陶しく見える場合もある」と検討していく中で、AKBグループ出身であり女優を志す北原里英さんが最適だと判断した。なお、本作のオファーを受け、北原さんは中国語を猛勉強しており、頑張り屋さんだと好印象を持っている。

 

中国での撮影は、2019年9月から10月にかけて行われた。苦労を重ねたように伺えるが、日向寺監督は「ほぼトラブルがなく、スムーズに進んだ」と話す。撮影現場にいた日本人スタッフは、監督も含めて6人で構成されており「カメラマンと照明技師、それぞれのチーフ助手。映像を管理する人。監督はカメラマンとコミュニケーションをとる。カメラマンが日本人なので通訳は不要」と要所は堅い。通訳の方も効率的に配置されているが「役者のレベルが高く、演技の違和感が非常に少なく、NGが少ない。通訳を通して、撮影方針を説明すると、しっかり理解できる。私と役者がやりたいことが一致する。違和感がないので、揉めない」と進行が上手くいく態勢だった。撮影終了後、コロナ禍の影響で十分なリソースを確保できず、予定通りに仕上げていくことは困難を極めたが、ようやく完成に至っている。出来上がった作品について、中国人スタッフからの評判も良く「皆喜んでくれた。早く中国でも公開されてほしい」と楽しみにしていた。

 

映画『安魂』は、関西では、2月4日(金)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田と京都・烏丸の京都シネマで公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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