母とその初恋の女性が閉じ込めた恋の記憶を呼び覚ます姿を描く『ユンヒへ』がいよいよ劇場公開!
(C)2019 FILM RUN and LITTLE BIG PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
長年連絡を絶っていた相手から手紙を受け取った女性が、20年前の自分と向き合い、過去の恋の記憶を呼び覚ます姿を描く『ユンヒへ』が1月7日(金)より全国の劇場で公開される。
映画『ユンヒへ』は、北海道・小樽の美しい冬景色を背景に、2人の女性が心の奥に封じてきた恋の記憶をミステリアスに紡いだラブストーリー。韓国の地方都市で高校生の娘と暮らすシングルマザーのユンヒの元に、小樽で暮らす友人ジュンから1通の手紙が届く。20年以上も連絡を絶っていたユンヒとジュンには、互いの家族にも明かしていない秘密があった。手紙を盗み見てしまったユンヒの娘セボムは、そこに自分の知らない母の姿を見つけ、ジュンに会うことを決意。ユンヒはセボムに強引に誘われ、小樽へと旅立つ。
本作では、主人公ユンヒを『優しい嘘』のキム・ヒエ、ジュンを『ストロベリーショートケイクス』の中村優子さん、ユンヒの娘セボムを元「I.O.I」のキム・ソヘが演じた。監督は本作が長編2作目となる新鋭イム・デヒョン。2020年の第41回青龍映画賞で最優秀監督賞・脚本賞、2019年の第24回釜山国際映画祭でクィアカメリア賞を受賞した。
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映画『ユンヒへ』は、1月7日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や心斎橋のシネマート心斎橋、京都・烏丸の京都シネマで公開。
息が白くなる寒さの中に静謐な静けさに満ちていて、穏やかな気持ちになる。英題は「Moonlit Winter(月の輝く冬)」、この名のごとく、雪と月が印象に残る。見上げた月にかの人のことを想い、静かに降る雪の下には、その人への想いが積もっていく。自分であることを隠し、ずっと罪悪感を感じて生きてきた。罪悪感をかかえ、残りの人生を罰とすら思っている。そんなユンヒの気持ちが響いてきた。
本作はクィア映画に分類される。現代を生きる中年女性の同性愛をテーマに描いた、実に意義のある作品。だが、最早カテゴライズは必要ない。人を好きになる、という当たり前の感情が三世代の視点と言葉で語られ、いたわりあう親子や夫婦、屈託のない若い恋人たちの姿、それぞれが本当に温かい。「雪は、いつ止むのかしら」というジュンの何気ないセリフは、雪だけではないものがずっと降り積もっていたことを感じさせ、それがいつかは止んで解けて流れ出すはず、というほのかな希望を共有する。
岩井俊二監督作品『Love Letter』に影響を受けた、監督と公言されている通り、小樽の風景がとても美しい。いつか訪れて「お元気ですかぁ~っ!」と叫びたいと思っていたが、この地に行ってみたい理由が増えた。そして、冬が来る度に思い出し、もう一度観たいと思える映画に、またひとつ出会えたことが嬉しい。
fromNZ2.0@エヌゼット
誰かと一緒にいるのに寂しい気持ちになる時がある。けれど、何がどう寂しいのかよくわからない。本作は、その感覚をゆっくり味わわせてくれる。
届くわけが無いはずの手紙が、ある日ユンヒの元へと届く。しかし最初に読んだのは彼女の娘セボムだった。セボムが知らぬ人であるジュンからの手紙に思いを馳せ、母ユンヒにバレないようにこっそりと、ある計画を立てはじめる。ジュンには仕事があり、叔母が家にいてくれるがどこか孤独そう。またユンヒは娘が傍にいるに空虚だ。共に物足りない二人は20年前の互いに想いを馳せていた。
撮影地が小樽ということもあり、白い銀世界と手紙を読む台詞が本作品のトーンによく合っており、観る人を苦しい気持ちにさせる。とても寒そうだが、交わされる会話は温かい。忘れたくなかったのに忘れてしまった”寂しい気持ち”や、過去に犯した出来事への後悔を思い出させてくれた。観た後の余韻を左右するエンディングは美しく、エンドロールの最後ロゴまで堪能したい。
キャストにユ・ジェミョンがいたことに驚いた。彼が扮するユンヒの元夫インホが娘のセボムに言った「ママは、人をちょっと寂しくさせるんだ」という言葉や、「今度結婚するんだ」とユンヒ伝えた後に泣く姿には、愛したかったのに愛せなかった苦しさと切なさが見事に表現されている。それだけ「ユンヒ」という人間は難しい人物だった。本作を観た後、昔好きだった人を思い出し、自分の横を通り過ぎて行った人々が幸せであることを静かに祈るばかりだ。
from君山
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!