大きな事件が起きない作品からも何かを感じてもらえたらいいな…『私はいったい、何と闘っているのか』岡田結実さんと李闘士男監督を迎え舞台挨拶開催!
スーパーの主任を務める、平凡で真面目な男性が、職場や家庭を地道に支えるため、理想と現実の狭間で奮闘する姿を描く『私はいったい、何と闘っているのか』が12月17日(金)より全国の劇場で公開。11月25日(木)には、テアトル梅田に岡田結実さんと李闘士男監督を迎え、SASAYAプレゼンツ舞台挨拶付き一般試写会が開催された。
映画『私はいったい、何と闘っているのか』は、『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』と同じ主演の安田顕さん、李闘士男監督、坪田文により脚本で、お笑い芸人のつぶやきシローさんの小説を実写映画化。地元密着型スーパーのウメヤで働く45歳の伊澤春男。勤続25年にして万年主任の彼だったが、信頼する上田店長の「春男はこの店の司令塔」という言葉にやる気をかき立てられている。たまの休みには、息子の少年野球のレギュラー争いのために「差し入れ作戦」を考えたり、長女の彼氏に父親の威厳を見せつけるべく、「名酒“ナポレオン”作戦」を決行したり、仕事では店長昇進への妄想と現実の狭間で一喜一憂を繰り返し、その脳内は今日も戦場と化している。愛する家族とのかけがえのない生活と、念願の店長昇格への長く険しい戦いの果てに、思わぬ結末が彼を待ち受けていた。
上映前に岡田結実さんと李闘士男監督が登壇。岡田さんは「凄くほっこりしている映画になっています。観て頂けたら分かると思います。今日は楽しんでいってください」と伝え、舞台挨拶が繰り広げれられた。最初に今回の一般試写会開催にあたり協力している株式会社SASAYAホールディングス取締役の岩田純一さんが登壇。劇中に登場する”春男のなめこスペシャル”という味噌汁を用いたコラボメニューが11月26日(金)から来年1月14日(金)まで提供されることが紹介された。
そして、大阪出身の岡田さんと李監督による本作にまつわるフリートークが展開されていく。完成した今作への感想が気になっている李監督が率直に岡田さんへ質問。岡田さんは「自分の家族の作品を観ている感覚でしか観られなかった。思い入れが強すぎて客観的な観ることが出来なかった。家族のシーンや描かれていないシーンも『パパ、こんなところで頑張っていたんだな』『スーパーでこんなに頑張って立ち向かってたんだなぁ』という思いがないと観られなかった」と素直に話し、李監督は「身内目線になっていたんだ」と驚いた。岡田さんは「そうなんですよ。本当は役者として客観的に自分の演技や回りの方の立ち振る舞いを観たほうが良かったんでしょうけど、出来なかったですね。自分が出ていないシーンが多いので、どうしても『パパはこんなに外で頑張っていたんだな』という思いが強かった」と明かすと、李監督は「役者さん達は、自分が出ていないシーンをどう観ているか、とか聞いたことがなかったから聞きたかった」と興味津々。岡田さんは「『パパとママが出会うシーンは、こんな感じだったんだぁ』と、私が想像していた出会い方と違っていた。『ココはあったかいシーンになっていたんだぁ』と楽しかった」と実の家族だったように話す。
台本をそのまま映画にはしないようにしている李監督は、その違いを伺うように尋ねてみると、岡田さんは「最後のシーンは『こんなガムシャラにぶつかっているパパとママがいるんだ』と予想外。スッキリ追われる感じがあった」と驚き。さらに「家へ帰る前にカツカレー食べて帰ってくるお父さんの小屋の雰囲気に流れている空気感が予想とは違っていた。描かれていない部分を完成後に観るのはおもしろいな」と楽しんだ。すかさず、李監督が「安田顕さんが勤め先のスーパーで上手くいかない時に家に帰る前に必ずカレーを食って帰る。その食堂が全然変わっていたんです」とフォローしていく。岡田さんは「イメージと違いましたね。占いの館みたいな感じになっていて」と伝えると、李監督は「お客さんが一人もいなかった。あれはまほろば。現実かどうか分からない世界で幻想的に描いたほうが、その世界の印象が強くなる」と解説。チェロの音楽を使って世界観を作っており「白川和子さんが演じた食堂のおばちゃんの衣装はエプロンをつけていない。ドレスを着ている不思議な感じにしたほうが。男性が帰宅前にスナックに寄る感じをアレンジしてファンタジーの世界に仕上げました。普通の食堂じゃない」と説く。
タレントから女優へと活動領域を広げている岡田結実さん。本格的な映画出演は本作で2度目となったが「この現場は難しかったですよ。初日から皆が家族という設定だからこそ、安田顕さんと小池栄子さんの娘役は難しいじゃないですか。役者としては演じやすい環境だったんですが、普通の人間が現場に入っていくプレッシャーはありました。役者経験が少ない中で安田顕と小池栄子の娘かと思うと、正直…」と困惑。李監督が「小池栄子さんと二十歳ぐらい違うんだね」と確認すると、岡田さんは「経験値が上がりますし、現場では小池さんがおもしろいですし、安田顕さんはミステリアスでおもしろかったので、楽しいです」と振り返り、現場を楽しんだことが伝わってくる。「安田顕さんは不器用なんだよね」と李監督が述べると、岡田さんは「そうですね。意外に寡黙な方」と明かし「現場で主演の方が喋って引っ張っていく現場が多いんですよ。安田さんは伊澤春男のようにあまり喋らず、大事なところだけアドバイスの言葉をくれた。春男にピッタリでしたよね」と実感している。安田顕さんについて、李監督は「彼は頭の中で妄想して頑張る。普通、役者さんが頑張ると格好良く見えるんですけど、頑張っても格好良く見えない人を選んだんですよね。頑張っても段々と情けなくなる、それが魅力的になる人として安田さん」と称賛した。
フリートークに慣れてきた岡田さんは、このタイミングで「ビビっていてずっと監督に出来なかった質問があるんですが、していいですか?」と伺うと、李監督は「俺、傷つきやすいよ」と反応。岡田さんは、本作へのオファーをInstagramのDMにて受けており「今って新しいな。でも、なんで私に来たんだろ。ずっとビビっていた。なぜ私にオファーが来たのか聞けなくて、現場にINしたら聞こうと思っていた。結局、怖くて聞けなくて。撮影終わって今舞台挨拶が始まり出して聞くんですけど。誰が私にオファーを出そうと思って動いたんですか?」と率直に質問。李監督は「それをこの場で聞きたいか!?」とツッコミを入れ、岡田さんは「聞きたいけど怖い!傷つきやすいですよ。私も」と怖気づいてしまう。李監督は「つぶやきシローさんの原作なんですけど、陰に籠っているんですよ。僕はそういう感じにしたくないと思っていて。安田顕さん演じるお父さんは辛い思いをしている。家庭は明るく活気あるところにしたかった。長女には華やかなイメージの子が欲しいな」とキャスティング当時を振り返り「どんな子がいいかなと思いながらTVをつけたら君が映っていた。インターネットんでニュースを見たら、『これから役者を頑張りたい』と書いてあった。この子だなと思った。それで、岡田さんにオファーしてよ、と依頼したら、事務所を移籍したばかりで連絡先が分からない、というから」と明かす。岡田さんは「偽の映画の出演依頼だと思った。信じようか2,3回スルーしたんですよ」と告白し「でも、これは気になるなと思って事務所の人に伝えた。依頼してきた会社について調べた上で」と打ち明けた。李監督は「オファーには企画書でOKしたの?シナリオを読んだの?」と気になり、岡田さんは「企画の段階で。場数がないですし、映画はこれが2回目なんですよ、私。映画に出演させてもらう。しかも素敵なご夫婦の中に、李監督の下で、と思って。やらない理由はないなと思って。シナリオ読む前に決めましたね」と当時を振り返る。岡田さんの心意気に、李監督は「凄いね。男気ではなく女気があるね」と感心していた。
キャスティングにあたり、李監督は「原作と違って家庭が明るくなっているのは小池栄子さんと岡田さん、新人の菊池日菜子ちゃんの3人が支えている。そしての男の子が…」と述べると、岡田さんは「愛らしくなると思います。皆さん、まだ小山春朋君の存在の偉大さを観る前だから分からないと思いますけど。観た後は『めっちゃ可愛いわ、あの男の子』となりますよね。監督も現場でデレデレで、春朋君がいれば大丈夫だ、という雰囲気がありましたよね」と絶賛。李監督は「礼儀正しい子だったんだけどね。『もっと礼儀正しくならないようにしなさい』とずっと言っていた」と明かすと、岡田さんは「礼儀正しくて、現場に入る時は誰よりも深々と『何卒宜しくお願いします』と小学5年生が云っているんですよ」と添えていく。李監督は「中身はおっさんじゃないの。何か被っているんじゃない!?」と疑うと、岡田さんも「酸いも甘いも経験した68歳ぐらいの方の貫録があるんですけど」と同感。そして、スーパーで働く方々について「愛らしい方が揃っていましたよね。ファーストサマーウイカさんもですし」と挙げると、李監督は「サマーウイカは最初に誰か分からないんじゃないかな。どこに最初に出ているか」と推察。岡田さんが「ピンとは来ないですよね。監督的にも考えがあったんですよね」とフォローすると、李監督は「サマーウイカさんはバラエティーに出ているから、そのまま出ちゃうとバラエティーに思われて損してしまうと思い、ほぼノーメイクで演じてもらった」と説明。現場での雰囲気について、岡田さんは「私は、1日だけスーパーのシーンで支度場所が被ったんですよ。ファーストサマーウイカさんは何度かバラエティで一緒になっているから、すぐ気づくだろうなと思ったんですが、全然知らない人がいる、と思って、喋って気がついた。役者の雰囲気とは全然違う。映像で観ても1発で分かる方はいないんじゃないかな。でも、スーパーの店員さんの一人として愛らしいキャラクターですよね」と振り返り、ファーストサマーウイカさんの演技力に納得していた。
改めて、李監督は岡田さんについて「勘が良いなぁ」と評し「(役者の)皆さんは自分の台詞を言いますが、人の芝居にリアクションしないことを注意して伝えている。岡田さんは天才的だったね。体の中に反応マシーンが入っているんじゃないの!?ウイカさんもそうだった。バラエティをやっている人は受けの強さが凄いな」と称えていく。岡田さんは「体が反応しちゃうんでしょうね。この3秒ある間を埋めなきゃバラエティに生き残れないぞ、という変な危機管理能力があるんだろうな。間があったらバラエティに呼ばれなくなるんじゃないか、という疾走感にいつも駆られているから、役者の時も」冷静に自信を顧みながら「逆に役者さんは『間を大事にしろ』とも云うじゃないですか。そこを必死に埋めようとするのはあまりにも変なんじゃないか」と提言。彼女の発言を受け、李監督は「でも、菊池日菜子ちゃんや小山君がかぶせていくことで、あの家が明るい感じになったんだろう」と分析する。
最後に、岡田さんは「この作品は登場人物の皆さんが愛らしい人達。その愛らしい人達の真ん中に立って一番応援したくなるのは伊澤春男、パパなんですよ。家族の前も愛らしいし、スーパーでも愛らしいし。自分の家族が一番素敵だなって思うんですよ。けど、伊澤家に入った瞬間に、この家族も素敵だなと心の底から思えました。この家族に混じれて娘役として生きられて良かったな」と感謝の気持ちを伝え「私自身が胸を張って、この作品はあたたかい物語になったなと思います。家族を切り取った物語で、泣いたり笑ったりできる作品に巡り合ったことがなかったので、そんな感情を届けられたらな」と願っている。李監督は「本作は、ほとんど大きな事件は起こらないんですね。昨今の映画はロールプレイングゲームのように様々なことが起こって激しさの中で映画が作られている」と指摘し「皆さんは刺激を求めている。自分は違うところに向きたいな。監督は事件が起こると事件を追っていけばよい。事件がないと人に寄り添って撮るしかないことにトライしてみたかった。観てもらえて何かを感じてもらえたらいいな、というアプローチでやってみましたので、皆さんが感じて下さったら有難いな」とメッセージを込め、舞台挨拶は締め括られた。
映画『私はいったい、何と闘っているのか』は、12月17日(金)より全国の劇場で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
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- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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