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ストーリーにツイストのあるサスペンスが大好き、裏に何かあるほど楽しくなる!『偽神』小川深彩監督に聞く!

2021年9月26日

2020年開催の第14回田辺・弁慶映画祭で受賞を果たした若手新人監督にスポットをあてた特集上映「田辺・弁慶映画祭セレクション2021」が大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で現在開催中。9月27日(月)には、「【弁セレ2021】小川深彩監督DAY 」と題して、キネマイスター賞を受賞した『偽神』を中心に小川深彩監督の作品が上映される。今回、小川深彩監督にインタビューを行った。

 

映画 『偽神』は、2020年の第14回田辺・弁慶映画祭のコンペティション部門でキネマイスター賞を受賞した短編作品。正人は妻の幸や息子の海斗とともに、神だけを信じながら平穏な毎日を送っていた。しかし海斗の8歳の誕生日、家に突然不気味な彫刻が現れる。正人は愛する者の心臓を捧げるよう迫られ、追い込まれていく。幸には隠しているが、正人には恵子という前妻がいた。正人は教会から破門された恵子に救いの手を差し伸べず、彼女は自殺したのだった。崩れていく日常の中で、神の御心を必死に模索しながら、愛する家族を守ろうとする正人だったが…

 

アメリカ合衆国ジョージア州で生まれ育った小川監督。ジョージア州はキリスト教への信心が強く「キリスト教に信心していない家庭の子供とは親が遊ばせたがらない。人間として扱われず挨拶もしない」と説く。小川さんの家族は、キリスト教に信心していたフリをいたが「文化的な素養でバレてしまう。『何処の教会に行っているか』と聞かれ、どの宗派に信心しているかも確認されてしまう」と慄いた。小川さんの父親はアメリカ人で、祖母がバプティストな考え方が強かったが「父の世代から信心がユルくなった。『私の家族は違う』という意識が強かった。心理学者であり、宗教について話し始めると、その裏側について話してくれる。周りの子と私の家族での考え方は違うんだな」と幼い頃から意識していく。また、毎年海外旅行をしており、訪れた土地の宗教が全く異なっていることに気づいたり、日本の仏教に関することを教科書で読んだりしながら育ち「アメリカで信心している子でも出来ない経験をして育ちました。翻って、違った世界の見方を知ろうとしないことは私にとっては不思議なこと」だと受けとめるようになった。なお、無宗教はよくないものとして考えられ「どちらかと言えば、悪魔崇拝者として見られる。無宗教が有り得ない世の中だった。キリスト教に信心せずに育つには大変だった。教会に行っているところを見られるために教会に通っていた」と振り返る。教会では聖書について様々な話をしてもらったが「聖書には、神様に子供を捧げようとする描写がある。神様に子供を捧げることが正しい判断だとみなされ、神様より家族を選んではいけない」、と習い、衝撃を受けた。とはいえ「彼等は本当に信じているのかな」と疑問が大きく残り、考察して『偽神』を作るに至っている。

 

11歳の頃に日本に帰国し、東京で3年過ごした後に沖縄に引っ越した。高校生の頃からはインターンシップで映画制作会社に入り業界に携わっていく。そこで「君も映画を作ってみたら?」と誘われた。それまでに作品を1本作ったことがあったが「貴方の世界観が足りない」と指摘され「貴方の育ったところを通して伝えたいことがあるなら、映画で表現してみなさい」とアドバイスを受け、映画制作に向けて本気で取り組んでいく。「私は、ストーリーにツイストのあるサスペンスが好きだな。裏に何かあるほど楽しくなる」と気づき「私のトレードマークにしたい」と目標も定めた。ストーリーを作るうえでは「最初にツイストを考え、見せたい画を決め、伝えたいことを考え、物語を構成していきます」と自らの手法を定め、脚本を執筆。作品制作にあたり、様々な現場でお世話になったスタッフの方にお願いしており「沖縄の方は皆さん優しく、協力して下さいました。本当に撮りやすかったですね」と感謝している。

偽神』について「主人公がやらないといけないのは、家族を信じて、自分の秘密を教える、或いは、何もしなくて待てば良かった。だが、彼がしたことは救いがなかった」と解説し「アイロニーを盛り込み、おもしろいストーリーが出来上がりました。観る人によって登場人物の捉え方が違うので、個々人で自分の考え方を持ってほしいですね」と期待も大きい。キャスティングにあたり「一緒にお仕事させて頂いたり現場でお会いしたりした役者さんにお声掛けしていきました。沖縄は繋がりで映画を作ることが出来ます」と助けられた。とはいえ、キリスト教に関する知識に長けているわけではないので「説明が難しい部分を補足したりリハーサルに時間をかけたりしながら協力して頂きました」と振り返り、最終的にチームとして一丸となって制作出来たことに満足している。撮影現場では、山羊の扱いが大変で「恐ろしく凶暴な山羊で、カメラや人間を平気で襲う。私も服を噛まれたり台本を破られたりして『終わった…』」と愕然。「監督としての私の未熟さが露呈してしまいました」嘆きながらも「皆様のお陰様で撮ることが出来ました」とホッとしている。編集には1年程度かけており「整音は初めてで、データがバラバラで管理が出来ていなかった。何日もピンマイクで録っており、準備不足により時間がかかりました」と打ち明けた。「当時の自分として100%出し切ったので、文句は言えない」と認識しており「2作目として、まだ監督になりきれていなかった。現場で私が考えていた画が目の前にあることが泣けてくる。現場を見ての映画になったんだなぁ、と興奮していましたね。大勢の方に手伝って頂いた。高校生の私が映画を作れるなんて、本当にありがたかった」と頭が上がらない。

 

今回の上映では、さらに、小川監督による撮り下ろしの新作として『はじめの夏』『二階のあの子』を併せて上映。(※『はじめの夏』⇒『二階のあの子』⇒『偽神』の順で上映される)

はじめの夏

ある母の日、香奈子は夫の帰りを待ちながら、息子と対話している。一見幸せそうに見える香奈子だが…

通っていたシナリオ講座の課題として、母の日に関するシナリオとして書いた本作。「母親に台本を見せると、ヒかれました」と告白。真意を聞いてみると「アメリカでは堕胎の話が話題になっている。現在、女性の判断や身体に関することが蔑ろにされている。白人男性が女性の身体について勝手に決めている。男性としてのブライドを大きく感じる」と述べ「この映画を見てどのように感じて頂いても構わない。彼女の判断を理解してほしい。彼女を人間として見てほしい」と願っている。「彼女の逃げ道は多く残されていなかった。周りが責めることで女性の判断は人生で一番辛い決断なのに誰も助けてくれない悲しい状態になる」と社会問題として提起したかった。息子の声について「彼だけの声ではなく、彼女の周りの声を象徴しています」と表し「優しいフリをしながら、母親の辛さを考えておらず、自分のことしか考えていない。周りの人達に似ている。何があっても母親の心情がどうであれ絶対に産みなさい、という考えが強い」と言及。「子供を産むことが良きこととされる映画が多いが、ホラーとして捉えたらどうなるんだろう」と考え「自分の中にもう一人の人間がいることは、考えてみると恐ろしいことですからね」と冷静に話す。

 

二階のあの子

母親が仕事を探す間、おばあちゃん家に引っ越してきた詩織。誰も住んでいないはずの二階から足音が聞こえ、ある日詩織は階段を上っていく。

本作を通して「周囲に馴染めず繋がりを上手く作ることが出来なかったことがある2人の友情を大事にしたい」と思い描き、ツイストがあるシーンから描ている。「私の母親はビヘイビア・スペシャリストであり、障碍がある子供を助ける仕事をしていたので、彼等に身近でふれてきた」と明かし「この作品に悪役はいない。それぞれに孤独をかかえ、自身の考えていることと戦いながら、ラストに向かっていきます」と解説した。

 

上映される3作品は全て不穏な雰囲気は大事にし劇伴音楽にも拘っており「何かがワッと出てくるだけの作品は好きじゃない。中島哲也監督の『来る』や『告白』、アリ・アスター監督の『へレディタリー/継承』や『ミッドサマー』が大好きです」と嬉しそうに話し「ずっと何が起こるか分からない雰囲気が大好き、それこそが本当のホラーなんじゃないか。スリラーな作品をずっと作りたい」と探求している。次回制作作品では長編作品を模索しており「『偽神』で撮りたかったけど撮れない画、見せたかったけど見せられていないものが沢山ありました」と思い返しながら、高校時代に出会った友達が歩んだ過酷な体験を基にして脚本を現在執筆中だ。

 

【弁セレ2021】小川深彩監督DAYは、9月27日(月)に開催。なお、上映後には、小川深彩監督と『二階のあの子』主演の山庄乃の葉さんを迎え、舞台挨拶が開催される予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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