家が生き長らえるためには人間が何代にも渡って入れ替わっていく…『stay』藤田直哉監督に聞く!
持ち主のいない山奥の古民家に不法滞在する5人の男女と、彼らに退去勧告をするつもりがひょんなことから1泊することになってしまった役所の男の、不思議な共同生活と人間模様を描く『stay』が大阪・京都の劇場でも公開。今回、藤田直哉監督にインタビューを行った。
映画『stay』は、山奥に佇む一軒の古民家を舞台に、共同生活を送っている男女5人と、村の役所から派遣された主人公の姿を描く短編作品。とある村の持ち主のいない古民家で、素性の知れない男女5人が共同生活を送っていた。そこは誰もが自由に出入りでき、今はちょうど吉田という男が立ち去ろうとしていた。そこへ村の役所から派遣された矢島が、不法に滞在する5人に退去勧告を言い渡しにやってくる。しかし、矢島はリーダー格の男である鈴山のペースに巻き込まれ、立ち退きを説得するどころか逆にその家で一夜を明かす羽目になり…
互いに干渉せず、深い事情に立ち入らない男女5人の、一見すると「自由」な姿を描きながら、徐々に生じるわずかなズレや気遣いなどがストレスとなり、「不自由」へとつながっていく様を描いた。監督はこれが初の劇場公開作品となる藤田直哉さん。脚本は劇団ユニット「コンプソンズ」を率いる金子鈴幸さん。出演は『あの日々の話』の山科圭太さん、『イソップの思うツボ』の石川瑠華さんら。第20回TAMA NEW WAVEで上映され、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020の国内コンペティション短編部門で優秀作品賞を受賞するなど高い評価を獲得した。
本作の舞台となる古民家は、藤田監督の友人が埼玉県秩父市にある廃墟寸前の古民家を改修しながら将来的には民宿にしたいと計画していた物件。「ギミックや思想がある家と出会い、映画を作れないかな」と考えていた中で出会った。シナリオハンティングを目的に、脚本家の金子鈴幸さんと共に現地を訪れる。トイレやお風呂だけが新しいものに改修されており、家の中で新旧混在している特殊な状態を見ながら数日間を過ごし、今作について着想していく。
脚本づくりにあたり「見せたいのは、家の生き死に。新しく生まれ変わっていく家に新しい人が入ることをストーリーの設定に転用できないか」と考え「家が生き長らえるために人間が何代にも渡って入れ替わって出入り自由な設定にすればおもしろいんじゃないか」と執筆していった。「当初、様々な人が出入りしているという設定だけで、何を観ていいのか分からない映画になりえる可能性がありました」と振り返りながらも「脚本を改稿していく毎に思いついた或るアイデアによって一つの映画になり得る」と確信。「あの家で感じたザワザワ感や音は人がいることで認識出来る」と手ごたえを感じていた。なお、最初は3日間の出来事による長編映画にしようと計画していたが「矢島が3日間も必要な出来事がない。1日が丁度良かった」と納得している。
キャスティングでは、まず3年前に一番最初に決めたのが石川瑠華さん。今年は『猿楽町で会いましょう』『うみべの女の子』と出演作が話題が、当時は現在のような活躍しておらず。マキ役を探していくなかで「ビジュアルから内なる強さが垣間見える。芯のある人間味がある」と石川さんの雰囲気から感じ、オファー。実際に会ってみて「自我がしっかりしている。自身の考えをはっきり話す。彼女なら大丈夫だ」と決断。山科圭太さんと菟田高城さんは、オーディションに来て頂いており「短い台本を渡して演じてもらった。一番に物事の理解が早いと感じた。僕の想像以上に役を体現してくれた」と感謝している。
秩父での撮影は2月に実施。「秩父は滅多に雪が降らず、数年に一度降るかどうか」と聞いていたが、偶然にも撮影初日に雪が降っていた。「基本的には家の中での撮影なので問題ない」と思いきや、屋根に雪が積もり溶けて水の流れる音で撮影がなかなか始められず。役作りを考慮し「実際に現地に泊まって撮影するのが良い」と考えていたが、実際は、体力を維持出来ないと気付き断念し、宿を確保した上での撮影となった。「1日の出来事の中で、矢島の心の移り変わりをどのようにグラデーションをつけるか」と懸念だったが「山科さんの自然な演技能で乗り越えられた」とホッとしている。
今後は「男女の関係を描いたことがなかったのでトライしてみたい」と展望しており「今年、30歳を迎えたので、周りが結婚や離婚、子供が出来たり。若くなくなってきた人間模様を描いてみたい」と未来を見据えていた。なお、本年度の文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」に製作実地研修に参加する監督の1人に選ばれている。脚本開発の後に25~30分以内の短編映画製作を行い、来年劇場公開予定。
映画『stay』は、9月4日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォ、9月17日(金)・19日(日)・21日(火)・23日(木)に京都・烏丸御池のアップリンク京都で公開。なお、シネ・ヌーヴォでは、9月4日(土)の上映後に藤田直哉監督と脚本・出演の金子鈴幸さん、9月5日(日)の上映後に藤田直哉監督による舞台挨拶を開催。
- キネ坊主
- 映画ライター
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