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沖縄について自分でしか作られない作品を撮っていく…『オキナワサントス』松林要樹監督に聞く!

2021年8月5日

第2次世界大戦中に発生した、ブラジルのヴァルガス独裁政権による“日系移民強制退去事件”の実態と真実に迫るドキュメンタリー『オキナワサントス』が8月7日(土)より全国の劇場で公開。今回、松林要樹監督にインタビューを行った。

 

映画『オキナワサントス』は、『花と兵隊』でタイやビルマの未帰還兵たちの現在を追った松林要樹監督が、第2次世界大戦時のブラジルであった日系移民強制退去事件をひも解きながら、埋もれた史実を明らかにしていくドキュメンタリー。第2次世界大戦前夜から戦中にかけ、ブラジルのヴァルガス政権は枢軸国にルーツを持つ約20万人の日系移民に対し、日本語新聞の廃刊や日本語学校の閉鎖、公の場での日本語の使用禁止などを命じる。そして1943年7月8日、南東部の港町サントスに暮らす日系とドイツ系の移民が強制退去させられ、収容所に送られるなどしてコミュニティは離散した。しかし、この出来事はタブー視され、戦後長らく日系人社会で語られることがなかった。強制退去させられた日系人の多くが沖縄からの移民だった事実に着目した松林監督は、生存者に取材を重ね、知られざる歴史を明らかにしていく。

 

ブラジル唯一の邦字紙「ニッケイ新聞」の編集長である深沢正雪さんを訪ねた際、サントスでの日系移民強制退去事件について執筆した書籍を出版したことを聞いた。ほとんど誰も手掛けていなかった歴史であり、公の記録もなかったので「撮影するとなると、大変だろうなぁ」と直感。だが、撮影を進めていく中で次々と新たな事実を発見していき、本作に記録されていく。

 

取材先は、まず、ニッケイ新聞の深沢さんから数名紹介してもらった。当時の記憶がはっきりしており、話しやすかった方が多かったが、ドキュメンタリー作品にするには物足りず。映画監督でもあるシネマテーカ・ブラジル(映画館)の館長である普天間オルガさんは、1988年に移民80周年ビデオを撮影しており、深沢さんに見せてもらい、取材を実施。事件の概要は分かるが、具体的な人物がなかなか見つからなかった。サントスの日本人会館を訪ねてみると、サントス日本人会の大橋健三さんがサントスでの日本人の歴史を調べ、出展資料の在処を把握しており「彼なら信用できる」と確信。さらに話していくと、名簿の原本を見せてもらい、サントス日本語学校の校長だった柳澤さんが作ったものであることが判明。目的までは不明だったが、1946年に作っている資料だと確認でき「戦前から多かったと聞いていたが、6割の方が沖縄からの移民だった」と知り、沖縄県人会の方を訪ね、作品が動き始めた。なお、ブラジルには、190万人規模で日系人が暮らしており、半分以上はサンパウロ近郊に在住。「日系社会の中に日本社会の縮図がある。日系社会の中にも沖縄社会があり、突出したアイデンティティがある」と2013年からブラジルに行き始めながら、当時から感じていた。

 

沖縄県人会の方から当時に強制退去をさせられた方を紹介してもらい、撮影させてもらったが、最初は難儀が続いていく。何度も取材させてもらいながら、かつて辿った道に立ってもらっている。カメラを回した取材を1度行ったり回さない取材も行い3回程度実施したりする中で、撮影にも慣れてもらった。証言の中で特に興味深かった方として、幼い頃の記憶が鮮明だった比嘉さんと佐久間さんに協力してもらい、2人の歩みを作品に入れている。

 

なお、2016年6月から12月までブラジルに滞在し、最初はリサーチしながら8月31日に名簿を見つけており「夏休みの最後に宿題を渡されたような感覚」だと漏らす。撮影終了後に「2018年の日本移民110周年に向けたTV番組にならないか」と模索。「可能ならばNHKで放送できないか」と様々な友人などを辿っていき、最終的に2019年末にBS1スペシャルで放送してもらった。TV番組放送後、映画版の編集に直ぐに着手すると、印象が固まってしまうおそれがあり「TV番組を作る過程では、100時間ある素材を整理して把握していた。半年程度寝かせておくと編集しやすくなる。何を見せるのか、どういう順番が良いのか、構成を1ヶ月で考えていく」と説く。映画版として編集し昨年7月末に完成後、「東京フィルメックス」の市山尚三さんに送ると「今年上映できるのであれば、ぜひやりたい」とオファーを受諾した。映画祭での上映時には、様々な質問を受け、手応えを感じている。

 

改めて、本作を振り返り「前半20分あたりの出来事、資料を見つけた時、なにかしらの形になると思いました」と回想。「それまでは映画がどんな内容になるのか分からなかった。宮城あきらさんに出会い、なんらかの形で映画が動いていく。人を探せるようになったし、取材していく中で助けてもらった」と感謝しており「相手にとってもカメラで撮影して記録することに意義を感じてもらったので良かった」と安堵している。

 

現在、沖縄在住の松林監督。「一つの番組を企画の最初から最後まで任せてもらえるような番組プロジェクトを引き受けていますので、その中から自分でしか撮れないことを見つけていきます」と話し「今後も、沖縄県人会の方とのつながりは続きますから、沖縄の移民社会についても映像として表現できるようになっていきたい」と未来を見据えていた。

 

映画『オキナワサントス』は、8月7日(土)より全国の劇場で公開。関西では8月7日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、8月20日(金)より京都・烏丸の京都シネマで公開。また、神戸・元町の元町映画館で近日公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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