幻想的な世界観ある画の世界が訴えかけてきた経験は高橋葉介先生の漫画が初めてだった…『夢幻紳士 人形地獄』海上ミサコ監督に聞く!
昭和初期の日本を舞台に、他人の心を見ることができる探偵の夢幻魔実也が、連続少女失踪事件の解決のため奔走する様を幻想的な世界観と共に描く『夢幻紳士 人形地獄』が7月16日(金)より関西の劇場でも公開。今回、海上ミサコ監督にインタビューを行った。
映画『夢幻紳士 人形地獄』は、高橋葉介の怪奇ミステリー漫画「夢幻紳士」を実写映画化。昭和初期の日本。他人の心を見ることができ、他人に自由に夢を見せることができる探偵の夢幻魔実也は、不思議な声に誘われて木箱から発見された少女である三島那由子に会いに行く。山奥の診療所で会った那由子はまるで人形のようにまったく反応がなかった。彼女の母親であるミツによると、那由子は奉公に出たまま数カ月間行方不明だったという。魔実也が那由子の心の中を見ると、彼女は奉公先の女主人である雛子に自らを人形と思い込む暗示をかけられていた。魔実也は那由子を助けるため、雛子たちを追い詰め、雛子を暗示で人形にするが…
13歳の頃に海上ミサコ監督が衝撃を受けたのが高橋葉介さんによる漫画「夢幻紳士」。中学2年生までは週刊少年ジャンプといった少年誌を読んでおり、所謂アンダーグラウンド界隈の漫画は全く触れていなかった。だが、アニメ情報誌「アニメージュ」の増刊である「リュウ」で「夢幻紳士」を読み、今までと全く違う漫画に「女の子がひどい目に合っている内容。ああいう画の世界で自分に訴えかけてくるのは、高橋葉介先生の漫画が初めて」と衝撃を受ける。「まっすぐ成長していけばいいのに、間違えちゃった」と思い返しながらも「それが今の私があるので、ありがたいです」と話す。さらに、18歳の頃に林海象監督の『夢みるように眠りたい』が注目を浴びている映画業界の動向を見ながら「インディペンデントで自分で好きな映画を撮っている。大正ロマンのレトロな雰囲気が溢れる作品だったことも影響が大きい。私も映画を撮ってみようかな。作れたらいいな」と思うようになった。
以降、映画の美術装飾やアシスタントプロデューサーを担ってきており、俳優事務所の知り合いが増えていく。今作の制作にあたり、クラウドファンディングも実施し、長い時間をかけて撮ることが可能に。つまり、長期間の撮影に対応可能な俳優が必要になり、事務所に所属しているが自分の意見を通せる方やフリーの方にお願いしていく。オファーに対し、拒否されることはなかったが、当時は原作漫画に似ていない映画が叩かれている妙な風潮があり「自分で良いのか」と心配されることもあち「見た目ではなく魂が似ているから良い」と力説した。脚本は、27歳の頃から執筆し続けており、第1期、第2期、第3期と分けられ「ほぼ私が書いています。木家下一裕さんがメインを書き、菅沼隆さんが現場で直したりポイントとなる雛子の台詞を提案してもらい書いている箇所があります。佐東歩美さんは全体の世界観に広がりを持たせる際に関わってもらった。皆さんの長所を活かしています」と様々な方に携わってもらっている。
撮影にあたり、舗装道路や電信柱を映さないようにしており「千葉の海辺で撮るか、NHKの大河ドラマで撮るような山奥などが良いか、各市町村のHPを観てコンタクトをとった。フィルムコミッションがなくとも農林水産課等にお願いして快く撮影場所を貸してもらいました」と明かす。映画祭ではメイクや衣装について賞を頂いており「ヘアメイクのたなかあきらさんが協力的でした。漫画原作ですが、漫画チックにはせず、ナチュラルメイクにしています。衣装はスタイリストの立山功さんにお願いし、夢幻魔実也というキャラクターを現実に生み出すため男のスタイリングをお願いしました。女子の着物は、友人や知り合いから大正や昭和初期にあった実際の着物を着てもらっています」と工夫を凝らしている。また、演出にあたり「雛子役の岡優美子さんが役にバシッとのることが難しく、雛子が足を引き摺ったり杖を突いたりする演技の稽古をしていました。主役の皆木正純さんは身体的表現に長けており、皆木さんがお手本になっていた」と注力し、最終的に、ナチュラルメイクにウイッグを用いて妖しく影を背負っているキャラクターを構築していった。
とはいえ、長期間の撮影となり、完成の目処が立たず不安になった時もあったが「編集に時間をかけており、高橋葉介先生からは合格点を頂いた。作品として皆さんに提示できると確信したのは、映画祭で受賞するようになり、原作を知らない一般の方から感想を頂けるようになった。徐々に自分の手を離れ、作品として独り歩きしている」と実感。原作者の高橋葉介先生は、鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』や『陽炎座』が好きで映画の教養が深く「鈴木清順の世界を描いてくれて嬉しい。夢幻魔実也の描き方が嬉しい」と感想を聞き、ホッとしている。また、続編への期待の声を聞いており「「夢幻紳士」はチャンスがあればパート2を撮りたい。オリジナルもちゃんとやりたい。“ダメな中年女同士が惚れた男の仇討ちの為に旅をする”といった話も撮ってみたくて、いろいろ画策している」と野心は止まらない。
映画『夢幻紳士 人形地獄』は、関西では、7月16日(金)から京都・出町柳の出町座、7月17日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォ、7月31日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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