スピード感が最高に気持ちの良い、ハイテンポなクライム・サスペンスを存分に楽しめた。人生どんづまりの大人達。借金を重ね、嘘をつき、その場しのぎを繰り返し、次々と深みに嵌ってゆく。前半は収拾のつかない事態が取っ散らかりきり、後半には伏線が次々と回収される。物語がパタパタと音が鳴るように畳まれていき、全ての人物が行きつく先にきっちりと落とし前をつけ、文句なしの着地を決める手際は爽快だ。

人間関係が複雑に入り乱れる様は滑稽で容赦ない。行き止まりの人間たちがテンパった末に選択する、ワーストアンサーの連鎖。悪手が悪手を呼び「あの人の判断ミスが、その人の不幸につながっていくのか…！」と、悪運の尽きた者達の人生をドミノのようになぎ倒していく。血も涙もない、いや、むしろ血と涙しかない。主要メンバーから周辺のバイプレイヤー達まで、韓国映画ファンなら嬉しくなる有名どころの顔が並ぶ。彼らの扱いは無情なまでに公平で、誰がどうなるのか最後まで油断できない。いったい誰が勝ち残るのか、「いやー！そうまとめるか！」とラストまでずっと楽しすぎなのである。観終わった後に、もう一度最初から観たくなる。観た人は思わず語りたくなってしまうはずので、詳しい内容が聞こえてこないうちに、早めに劇場に足を運ぶことをお薦めしたい。

fromNZ2.0@エヌゼット

本作は、２０１１年に書籍として日本で発表された同名の小説を原作とする映画。粛々とサウナ屋でアルバイトをしていたジュンマンが大きなバッグを見つけたことから物語は始まる。大金を見つけた人間の起こす行動が無様にリアルで、客観的に見るとこんなにも滑稽なのか、と感心。基礎として原作があるおかげか、物語の伏線が巧みに張られ、久しぶりにハラハラする作品に出会った。登場人物一人一人にスポットを当てつつも、誰と誰がすれ違い繋がっていくのか、今観たシーンは以前のシーンとどう関係しているのか考えさせられる。パズルのピースが綺麗にはまっていくかのような展開は観ていて気持ちが良い。

また、どうしようもないくらいの──どのキャラクターも現実で絶対に会いたくないと思えるほど潔い──悪どさが渦巻いていく。”映画”というエンターテイメントに絡め、観客に咀嚼しやすいような出来上がりだ。韓国映画が得意とする残虐なシーンも劇中に含まれているが、テーマは”降って湧いた大金”であり、それを巡り人々が狂い出す様を描いている。もとより登場するキャラクターたちが難癖のある輩ばかりなので無理はない。お金に目が眩んだ者の末路がどのようなものなのかは是非劇場で確認を。

公式サイトに寄せられた原作者である曽根圭介氏のコメントも素晴らしく、原作を読んでみたい気持ちになる。『神の一手』『ザ・キング』で共演し、現在同じ芸能事務所に所属しているペ・ソンウ（ジュンマン役）とチョン・ウソン（テヨン役）も今後の共演が期待できる俳優だ。筆者は本作品でヨンヒ役を演じたチョン・ドヨンを初めて知ったが、とにかく恐ろしくも愛嬌のある魅力的な演技を見せてくれたので彼女にも大注目していきたい。

from君山