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現在の大阪を舞台に若者達が共感するリアルな作品を描いた…『ジョゼと虎と魚たち』タムラコータロー監督に聞く!

2020年12月21日

夢に向かって真っ直ぐな青年と、車椅子で生活する女性が、お互いを知ることで前に進んでいく様を描き出す『ジョゼと虎と魚たち』が12月25日(金)より全国の劇場で公開される。今回、タムラコータロー監督にインタビューを行った。

 

アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』は、2003年に犬童一心監督により実写映画化もされた田辺聖子さんの小説を新たに劇場アニメ化。大学で海洋生物学を専攻する恒夫は、メキシコに生息する幻の魚を見るという夢を追いながら、バイトに勤しむ日々を送っていた。そんなある日、坂道を転げ落ちそうになっていた車椅子の女性ジョゼを助ける。幼少時から車椅子で生活してきたジョゼは、ほとんどを家の中で過ごしており、外の世界に強い憧れを抱いていた。恒夫はジョゼと2人で暮らす祖母チヅから彼女の相手をするバイトを持ち掛けられ、引き受けることに。口が悪いジョゼは恒夫に辛辣に当たるが、そんなジョゼに恒夫は真っ直ぐにぶつかっていく。『坂道のアポロン』の中川大志さんが恒夫、『デイアンドナイト』の清原果耶さんがジョゼの声をそれぞれ演じる。『おおかみこどもの雨と雪』助監督やテレビアニメ『ノラガミ』の監督を手掛けたタムラコータローさんがアニメ映画初監督を務め、『ストロボ・エッジ』の桑村さや香さんが脚本を担当。『僕のヒーローアカデミア』のボンズがアニメーション制作を行った。

 

2017年、本作の企画が動き出した当時、制作陣は原作者である田辺聖子さんと人を通してコンタクトを取っており、アニメ映画化の許可を得た。タムラ監督は「直接お話しする機会が得られれば」と願っていたが、残念ながら最後まで実現に至らなかったという。田辺さんに関する記事や過去の作品にも触れ「芥川賞作家として、文学小説家のイメージが強い。また、エッセイストの印象が強くある方もいらっしゃる」と世間のイメージを踏まえた上で「お目にかかるには敷居が高い印象を抱いていた」と語る。しかし、ある記事の中で田辺さんが「浪速の(フランソワーズ・)サガンになりたい。夢見小説(恋愛小説)を関西弁で書きたい」と語っているのを見つける。「芥川賞作家らしい高尚な作品ではなく、ロマンス溢れる作品を描きたい、と考えていらっしゃったんだな」と気づき、今回のアニメーションのコンセプトに沿ったものになっているのではないかと受けとめていった。田辺さんにお会いすることが叶うとしたら、という質問に対しては「この作品を通して、田辺さんの考えていらっしゃる夢見小説がどんな形のものなのか聞いてみたかった」と答えた。

 

脚本作りにあたり、タムラ監督は2003年の実写化作品を鑑賞しておらず、まずは原作を読んだ際のイメージを脚本家の桑村さや香さんに伝えた。桑村さんは実写版の大ファンでもあるため「お互いに原作の感想を伝え合うことからスタートしたことが大きかったですね」と振り返る。今作では、2010年代以降の現代における”ジョゼ”を目指した。「主人公の2人は20代前半。まずは同世代のお客さんに観てもらわないと始まらない。同世代に共感してもらう為にどうしたらいいか」とひたすら話し合った。「物語の前半では、ジョゼが外に出ていくシチュエーションがあるんです。今の大阪を舞台に都会的な風景を演出したい」「大阪が映像で出てくるとどうしても道頓堀が定番になってしまうことが多い。実際の大阪は新しくなっている場所が沢山あり、梅田周辺は都会的であるにも関わらず既存の作品では描かれないことが多い」と舞台についても語ってくれた。20代前半の方達に観てもらうことを前提にするならば「今の新しい大阪に着目して描いていこう」と最適なロケーションを探していったという。

 

アニメーション制作の設計図である絵コンテは監督ひとりで担当した。脚本の意図を理解して昇華し、絵コンテに起こしたものをスタッフに見てもらい、調整に調整を重ねた上でボンズによるアニメーション制作が始められた。本作は日常を描いた芝居が大半を占める。「飛んだり跳ねたりといった人ならぬ動きで迫力を出していくのが得意なアニメーターは多い。しかし、身近な日常は、普段の我々がよく目にする光景でもあるのでなかなかウソがつけない。画にする以上は動かす必要があり、センスが要求される。下手すると堅い芝居になってしまったり地味になり過ぎたりするので調整が難しい。きちんと日常芝居を描けるアニメーターは非常に少ないんです」と解説。「普段のボンズはアクション作品を手掛けることが多い」とした上で「ボンズが日常の芝居をたくさん描くことは非常にチャレンジングな試みだった」と語った。

 

ジョゼと恒夫のキャストは、俳優の清原果耶さんと中川大志さんを起用した。最初にジョゼ役のオーディションを行い「清原さんは、物語後半におけるジョゼの演技が特にピッタリでした。彼女にお願いすれば、素晴らしいジョゼになるんじゃないか」と考えたという。また、恒夫役についても「清原さんとのバランスを考えた時に中川くんがピッタリだと思いました」と話す。2人とも声優経験はあったが、ナチュラルな演技を求められる長編作品は初めてだった。「どれくらいまでリアルな演技をすればいいのか。どれくらいまでアニメーションに寄せて、記号化した演技にした方がいいのか」を徹底的に話し、アフレコに挑んでもらったという。恒夫の友人達についてもオーディションを行った。「記号化し過ぎない芝居をどれだけ出来るか重視しました。アニメは画を記号的に描くことが多いので、キャラクターの声まで記号化し過ぎると、この世にいなさそうなキャラクターになってしまう。作品を観ている間だけでも、ジョゼや恒夫や周りの人達が実際に身近にいるんじゃないかな、と思ってもらえそうなバランスを模索したんでいます」と説く。専門の声優によるアフレコでは、事前に仮アフレコの演技を聞いてもらうことから始めた。「この演技をリアリティの基準にして、本作の世界観にバランスが取れるように声を当ててもらいました。基準を作ってもらったのが大きかった」と充実した収録を振り返った。

 

企画から4年、ようやく本公開を迎える本作について監督は「これだけ時間がかかってしまったので、完成してもすぐには信じられなかったですね。未だに『本当に完成したのだろうか』と思ってしまうぐらい実感が湧かないのが正直なところ」と告白しながらも「試写会やワールドプレミアで一般のお客さんにも目にして頂きだんだん感想が聞こえてくるようになりました。完成した作品がお客さんに届き始めたんだな」と少しずつ実感しているとのこと。とはいえ「本当に実感が得られるのは公開してからなんじゃないかな」と真摯な姿勢だ。劇場公開を迎え「まずは、本作が皆さんにどう受け取られるか。結果を受けとめた上で次の作品に向かいたい。何度も観たくなるエンターテイメント作品を今後もつくりたい」と恒夫とジョゼのように目を輝かせていた。

 

アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』は、12月25日(金)より全国の劇場で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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