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同じ年に作られた映画でも異なる手触りのある2本が良かった…『北風だったり、太陽だったり』『プレイヤーズ・トーク』森岡龍さんに聞く!

2023年8月4日

解散したお笑いコンビのマネージャーが結婚報告のためツッコミ担当と収監中の相方を訪ねる道程を描く『北風だったり、太陽だったり』と映画業界をざわつかせるテーマを皮切りに豪華俳優陣が織りなす密室会話劇『プレイヤーズ・トーク』が8月4日(金)より関西の劇場でも公開される。今回、森岡龍さんにインタビューを行った。

 

映画『北風だったり、太陽だったり』は、俳優の森岡龍さんが2012年の『ニュータウンの青春』以来、およそ10年ぶりに発表した監督作。服役中の元お笑い芸人の面会に向かう、かつてのマネージャーと相方の1日の旅を、ユーモラスに描いたロードムービー。人気絶頂のさなかに暴力事件を起こして解散したお笑いコンビ「北風と太陽」。そのマネージャーだった葉山は、自身の入籍を機に「北風と太陽」のボケ担当で服役中の金井に結婚報告をしようとする。事件以来、疎遠だったツッコミ担当の奥貫をなんとか連れ出し、刑務所に向かう葉山だったが…
葉山役は『それぞれの花』『信虎』の橋本一郎さん、奥貫役はドラマ「重版出来!」の足立理さん。そのほか、飯田芳さん、島村和秀さん、嶺豪一さんら『ニュータウンの青春」にも出演したキャストや監督である森岡さん自身も出演した。

 

自身の実体験から脚本に起こす時、何らかのヒントを得て書くことが多い森岡さん。今回は、自身の結婚を契機にして映画を制作できないか、と構想。だが、コロナ禍により思うように人に会えず結婚報告すら出来ずじまい。そこで「結婚報告をするため、久しぶりに知人に会いに行くことが、今の時代ともマッチしている。これは、おもしろくなるのでは」と閃いた。また、表舞台で活躍している人達が、事件等をきっかけにして世間に出られなくなる事態が起こっていることを鑑み「自分は役者として生きている以上、他人事じゃないよな」と顧みて「表舞台に出られなくなってしまった人と周囲にいる人々の物語を、映画で作りながら考えることが今のテーマになる」と確信。この2つテーマを主軸にして映画制作に挑んだ。

 

キャスティングにあたり、長年の付き合いがある気心知れた俳優にオファーした。橋本一郎さんは高校の先輩であり、足立理さんは中学・高校の同級生でもあり、本作では当て書きしている。「登場人物を漠然とした状態から書いていきますが、役者を決めたら、キャラクターが膨らんでいく」と述べ「その人が持っている表情や肉体によって、キャラクターが深まっていくことは、自分の映画作りの中ではよくあることですね」と説く。以前に監督を担った『ニュータウンの青春』でメインキャラクターの1人を演じた飯田芳さんは大学の同級生であり「彼も気心知れた仲間。いい役者だと知っている。飛び道具的な使われ方をするタイプ」だと知っているので「今回もユニークなキャラクターとしても起用しました。髪も剃ってくれるだろうと思っていた。その場でバリカンを渡したら、剃ってくれましたね」と飄々と話す。

 

クランクイン前は「どうやって映画を作るんだっけ」と不安があった。今回は、16mmフィルムでの撮影となり「余計なことができない。リテイクもそんなに重ねられない」と緊張感があり「余計な寄り道ができないので、ドシっと芝居を固めて、テイクを重ねないように段取りをしっかりして1シーン1シーンを丁寧に撮っていこう」と心に決めて臨んでいる。本作は、ロードムービーであるため、天候が崩れたことすら活かしながら臨機応変に撮影しており「ほぼ順撮り。途中で止める予算もなく、日数も限られており、とにかく進んでいくしかない。雪が降った時は中断するか、東京戻るか…もうやっちゃおう」と果敢に取り組んでいった。

 

編集作業に関しては「できれば自分で編集をしたい」と好んでおり、大変な作業を苦労だとは思っておらず「自分のリズムで作っていけるので、楽しかった」と嬉しそうに話す。映画業界の仲間からは「編集を人に委ねることも今後はいいかもね」といった反応もあり「新たな視点が入っていくことによって、作品が豊かになることもあるんだろうな」と前向きに捉えている。なお、作中には刑務所でのシーンがあり「しっかりと上手に編集すると、劇的なシーンになってしまう。だけど、僕はそうじゃない。上手くいかないところに、映画らしさがある。映画を見ていて、普通そうじゃないよね、という時間が流れている瞬間に感動するんです」と独自の視点を説明し「あのシーンが撮れたことで、自分の映画になったな」と手応えを感じられた。今作を観た方からは「古き良き映画を見たような感じがした」「懐かしい感じがした」「オールドスクールな映画を観た」という感想が多く、感慨深げだ。

 

映画『プレイヤーズ・トーク』は、俳優の森岡龍さんが演じる映画監督を主人公に、俳優やプロデューサー、脚本家など業界人たちと繰り広げる会話劇を4編のエピソードで描いたオムニバス。クリスマス。業界人が集う、とある会員制バー。常連客の映画監督である並木道夫が待ち合わせるのは、脚本家、プロデューサー、助監督、ベテラン女優に新人俳優などの業界人たち。一癖も二癖もある彼らとの会話をつまみに酒が進んだ並木だったが…
「BULLSHIT JOB」「Compliance」「Private Lesson」「ART FOR THE FUTURE」という4編のエピソードで構成され、セクハラ、パワハラ、ワークショップ、コンプライアンス、コロナなど、近年の映画業界で問題になっているテーマを取り上げた、業界風刺のオムニバス。『なつやすみの巨匠』の半田健さんと、主人公の並木を演じた森岡さんが共同でメガホンをとった。『ハケンアニメ』の前野朋哉さん、『ソワレ』の芋生悠さん、『ヤクザと家族 The Family』の豊原功補さんらが出演している。

 

本作に関しては、もう1人の監督である半田健さんが、プロデューサーも兼ねており「『コーヒー&シガレッツ』みたいな密室の会話劇でオムニバスを作れないか」とオファーをいただいた森岡さん。「映画業界の話を作るなら、今起きているコンプライアンスの問題等を風刺劇みたいな会話劇として書いたら、おもしろいんじゃないか」と着想し、4編のエピソードのうちの2編、2話目と4話目の脚本を書くと共に、1話目と3話目の手直しもしている。特に最後である4話目に関しては、自身が持つ思いの丈をぶつけており「並木という男が抱えていた悩みが露出した。自分が普段考えていることも含まれていますね」と話す。

 

密室での会話劇であるため「様々な役者の中でもバリエーション豊かな人が出た方が、観ていて楽しいだろうな」と感じ「普段からお世話になっており、よく知っている豊原さんや前野君。関係性の近い芋生さんも、舞台で共演したことがあり、お声がけして皆さんに出て頂けた」と話す。「豊原さんに関しては、普段からの呑み仲間なんです。業界についての悩みとか話している中で借りてきた言葉はいくつかありますね」と明かし「皆さん、現場は楽しんで、リラックスしながらやられていた印象がありますね。長回しがありワンカットなので、緊張感があり大変でしたね。他のシーンは結構みんなゲラゲラ笑いながら和気藹々で撮っていました」と作品の内容と違った和やかな空気感がある現場だった。

 

4編のエピソードでは、ワークショップ、コンプライアンス、キャスティングに関する問題を取り上げ、最後に全体を統括する構成になっており「バランスが良い編成になっている」と捉えており「しかも、クリスマスの1日という設定で、次第に酔いが回ってくるという流れのよい1本になった」と気に入っている。「半田さんが、クリスマスの1日であることが分かるように時間軸を表現している。細かいディテールを施し1本の作品として繋がりが良くなった」と感じており、編集後の作品に驚かれた。なお、全体統括である4話目は重要視しており「4話目がなかったら、軽やかで口当たりのいいものになってしまう。ここまで描いて一石を投じる。ゴリっとした1本がないと、映画として成立しない。あの長回しは一番重要だった」と物語る。

 

既に東京の劇場では公開されており、森岡さんが想定していた以上に反応が得られた。撮影中は「これがどういう風に受け入れられるのか。ネタとして閉じられたものになっちゃうかな」とお客さんの反応に対しては未知数だったが「一昨年の年末に撮影しており、当時ホットだったキーワードや話題で書いていた。以降も業界の問題や政治的な不安定さは更に加速していっている。今見ても、おもしろく、考えさせられる作品になっているのかな」と受けとめている。「意外と考えさせられたよ」といった声や、同じ業界の仲間たちからも「今、見るべき映画だね」「よくぞ言ってくれた」といった激励の感想メールまで頂いた。『北風だったり、太陽だったり』との2本立てで公開されたが「同じ年に作られた映画だけど、違う手触りの2本なのが良かった。翻って、おもしろい2本立てになった」と自負している。今後も監督作品を手掛けようとしており「予算の問題等、諸々の課題がありますが、大きい嘘がある映画にトライしてみたい」と創作意欲は止まらない。

 

映画『北風だったり、太陽だったり』と『プレイヤーズ・トーク』は、関西では、8月4日(金)1日限定で神戸・元町の元町映画館、8月4日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都、8月5日(土)より大阪・十三のシアターセブンで公開。なお、8月4日(金)には元町映画館で森岡龍監督、8月5日(土)にはシアターセブンで森岡龍監督と東田頼雄さん、アップリンク京都で森岡龍監督と宮部純子さんを迎え舞台挨拶を予定している。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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