小野みゆきさんと出会い、作品に一本の軸が通った…!『クシナ』速水萌巴監督に聞く!
女性だけが暮らしている村に生きる3世代の親子と、村にやってきた研究者の関係を描く『クシナ』が関西の劇場でも11月20日(金)より公開。今回、速水萌巴監督にインタビューを行った。
映画『クシナ』は、女だけが暮らす男子禁制の山奥の集落を舞台に、秘密の共同体の崩壊と母娘愛を描いたドラマ。山奥に人知れず存在する、女だけの男子禁制の村。村長である鬼熊(オニクマ)が、山を下りて、収穫した大麻を売った金で村の女たちが必要な品々を買って来る。この一連の行動が、28歳となった娘の鹿宮(カグウ)と14歳の娘・奇稲(クシナ)ら、村の女たちを守っていた。閉鎖的なコミュニティに暮らす人びとを調査する中で、村を探し当てた人類学者の風野蒼子と後輩の原田恵太。2人を期間限定で村への滞在を許可したオニクマのこの判断により、女たちそれぞれが決断を迫られていく。ヒロイン・クシナ役を本作が映画デビューとなる郁美カデールさんが演じるほか、廣田朋菜さん、小野みゆきさん、稲本弥生さんら女優陣が顔をそろえる。監督は自身の過去の体験をもとにした本作で長編デビューとなった速水萌巴さん。
誰しもが抱えている親との確執や仲違いに関することについて、本作では、速水監督が実際に抱いた母親に帯する感情をメタファーにして物語を制作している。自身も年齢を重ね「母親がなぜそういう行動をしてきたか」と理解出来るようになり「母親を見ながら、母親自身も成長している」と気づかされた。更に「女性が年齢を重ねていくと、考え方も変わっていく。愛情表現や愛情を注ぐ対象も変わっていく」ということについて考察していき、親子3世代に渡る物語を描くことにした。
初長編作品の制作となり、失敗しないように覚悟を以て挑んでおり「私の全身全霊をかけて映画を撮るとしたら、どういった題材になるかな」と様々な方に相談。「自分が人生で今まで一番向き合ったことを題材にしてはどうか」と云われ「自分と母親との関係だ」と確信。物語を作るにあたりシナリオハンティングを行い「母と娘によるワンシチュエーションで会話劇で成立するものを撮ろう」と考えながら温泉地を廻っていく中で、映画のラストショットになるようなイメージが思い浮かんだ。そこで「ある女性が廃村になったような温泉地に帰ってくる。それを魂の姿になってしまった村人達が覗いている風景が思い浮かんだ。彼女は何故村を去ることになったのか」と具体的なドラマを構想していく。
当時、脚本術の書籍を読みながら、速水監督はまずキャラクターを作り、彼等の衝動や目的、ゴールや役割を決めていき、幾等かの出来事を通して衝突し合うように考えていき「夫々のキャラクターと出来事について、大きな骨格を作ってしまえば、想像の中でキャラクターが生きているように物語が進んでいった」と脚本づくりを楽しんでいった。本作のポスターでは「クシナ」を全面に出しており「タイトルも『クシナ』なので、多くの方はクシナが主人公だと思って観始めますが、ミスリードしてしまう」と説く。「クシナが山を下りるという行動によって他の女性3人の決意や成長が見える行動にしたい」と考え「特定の1人の成長劇というわけではなく、クシナを象徴に、取り巻く女性達の物語」と作り込んでいく。影響を受けている作品として『マジカルガール』を挙げながら「『ミッドサマー』とは共同体映画としては共通項がありますね」とも話す。主なキャラクターのネーミングが独特であるが「鬼熊(オニクマ)は強いもの同士の組み合わせ。当時、(『バケモノの子』の)熊徹のような可愛らしい響きにしたかった。調べてみると、鬼熊事件がヒットして、その事件は鬼熊自身の境遇に似ていた」と明かす。さらに鹿宮(カグウ)について「母親に対する私のイメージから神聖な生き物である鹿と家を意味する宮から母親らしい名前」であったり、奇稲(クシナ)は、「奇稲田姫(くしなだひめ)から貰っています。きっかけは、手塚治虫の『奇子』が好きで、”奇”を貰って名付けたかった。そして奇稲田姫の物語に通ずるところもあり、奇稲にしました」と解説してもらった。「記号として、私が幼かった頃の要素はクシナには反映されています」と述べ「風野蒼子にも私自身や願望を反映している箇所がありますね。閉じ込められた世界から引き出してくれるものに私は巡り会えた」と本作を制作できたことに喜びを噛み締めている。
当初、温泉地での撮影をするためにロケハンを行っていたが、最適な場所が見つけられず。集落を探していたが、撮影には電気が必要であり「活きている集落は現代的な要素が入り過ぎていて説得力がなく、思い描いたイメージと一致しない」と断念。しかし、偶然にも山梨県に限界集落があると知り、山梨県の観光課の方に協力頂き、理想の集落が見つかった。現実的には、他のロケーションを混ぜながら、5,6箇所で撮っており「家の中は都会でも撮っている。様々なところで撮っています。つながるか不安でしたけど」と本音を漏らす。とはいえ、家の扉の外は現実の世界であり「映像が繋がるように、カメラマンとは撮影前からカット割りを決めてから挑んでいました。事前に撮る映像は決めていたいので、撮影自体は早かった」と冷静に撮影を進めていった。なお、周囲から入り込んでいる音に対しても敏感で「撮影の際には、車の音が入ってはいけないので、町中の古民家で撮っている時はシビアでした」と振り返るが「撮影後に確認すると全く音が撮れていなかった」と衝撃的な事態が発生。しかし「一から音楽や環境を作らないといけない。却って集落の統一感を表現できたかな」と前向きに取り組んでいった。衣装については、シーン毎のパワーバランスを考慮して夫々の色を決めており「最初から最後まで彼女達の成長に合わせて衣装の色合いや形を変えていくようにしていきました」と解説。最初に、ファストファッションと着物の伝統的要素を組み合わせを検討しており「当時、祖母の家から不要な着物が大量に見つかり、使ってみたくなった。この集落でも不要な着物があったとしたら活かしていくだろうな」と着物をアレンジして独自の衣装を作り込んだ。
改めて本作の撮影を振り返り、小野みゆきさんとの出会いが大きかったことを思い返す速水監督。「いくら机上で想像を膨らませて映画を撮りたいと思い、自分の中でイメージがあっても、それを形成するのは難しい」と痛感しており、現場では「特殊な舞台を設定しているので、一つずつ選択して世界を作っていかないといけない。世界観が成立するだろうか」と不安があった。脚本の段階で「これではアニメだ」と感じて不安を抱えていたが、小野さんと出会い「一本の軸が通った。拠り所だった」と打ち明ける。撮影2日目にラストシーンを撮る必要があり、撮っていく中でモニターを見ながら泣いてしまい「物語として成立する」と確信した。現場に入るまでは「自分がやらないといけない」と思い込んでいたが「役者達が全身全霊で演じている姿を見て、スタッフも緊張感を張り巡らしながら、その瞬間を逃さないように挑んでいる。皆を信じて楽しながら撮るべきだ」と気づき、映画作りを存分に楽しんでいく。
完成された本作は、大阪アジアン映画祭や北米最大の日本映画祭でJAPAN CUTSで上映された。お客さんの反応は日本とアメリカでは全く違っており「アメリカの人達は作中で何故か笑うので新鮮でしたね」と振り返る。「『彼女は人類学者なのに、どうしてこういう行動に出たのか』と一人の人間としてキャラクターを見ようとしている」と感想を挙げ、男女による違いも含め、興味深く感じた。本作で自身の母と向き合った映画を撮り、次は自由に撮りたいと考えている。「芸能や芸術を扱った作品。不思議なドラッグを作る女の子の成長を描いた物語」と独自の視点を以て検討しており「母親を多少なりとも描いているので逃れられないかもしれない。寓話的要素を常に取り入れて作っていきたい」と未来に目を輝かせていた。
映画『クシナ』は、関西では、11月20日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都、11月21日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開。また、2021年には神戸・元町の元町映画館でも公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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