映像から言語へ翻訳しながら客観的に父親を見つめた…『血筋』角田龍一監督に聞く!
中国から日本に移住した青年と生き別れた父との再会、その親子関係の行方を見つめるドキュメンタリー『血筋』が関西の劇場でも10月3日(土)より公開。今回、角田龍一監督にインタビューを行った。
映画『血筋』は、韓国、北朝鮮の他に存在し、これまであまり注目されることのなかった中国朝鮮民族を題材に取り上げ、父と子の物語という切り口で描いたドキュメンタリー。中国朝鮮族自治州の延吉で生まれた少年は、10歳の時に日本へ移住した。20歳となった彼は自身の過去を振り返るため、画家であった父を捜すことを決意する。中国で暮らす親戚に父の行方を尋ねるが、父の消息を知る者はおらず、親戚たちは父の話題に触れようとはしなかった。そんな中、叔父の助けによりなんとか父との再会を果たすが、韓国で暮らす父は不法滞在者として借金取りに追われながら日雇い労働でなんとか日々を送っていた。息子への虚栄心、そして自己満足的な愛情をお金で表現しようとする父の姿を前に、息子は困惑を隠すことができず…
父との再会を当初の目的とした本作。作中では意外な展開を見せていく。この流れについて、角田監督は「ある程度波乱のある探し方になればいいなぁと思ってカメラを回していた。僕もびっくりするぐらい」と本音を明かす。「連絡が取れなくて、どこにいるか分からないのは事実」と述べるが「その先のほうがディープな世界」だと思って、父親との時間を過ごしていった。中国朝鮮族自治州で育った監督だが「歴史的分断があり、豊かな韓国に憧れがあると同時に北朝鮮に近い立ち位置。韓国映画だとヤクザの巣窟として描かれるが、中国から韓国に出稼ぎ労働に来てお金に困り犯罪に手を染めてしまうことが多かったのは事実」と認識しており、本作では「違った一面を普通に撮れれば」と心がけていった。
撮影当時は大学生だった監督は、長期休暇を利用して撮り続け、撮影素材は80時間にも及んでいる。「一発撮りなので、おもしろいシーンは一瞬しかない。どんなに下手な振る舞いでもカメラを通して拾えるか」と認識しており「作品の質を決めるので、かなりシミュレーションしましたね。僕がどう言えば効果的に観客の気持ちを代弁出来るか。あの現場で一発で云うのは難しい」と実感。「怒ると感情的になり余計なことを言っちゃう。怒っていないと、観客は本物じゃないと気づく。怒りながらも、効率よく父親が本音を繰り出せるか」と一瞬毎に様々な反省もありながら、画作りを考えながらの撮影となった。
編集作業は大変で、完成までに3年、公開までに3年を要した。「他人から見ればおもしろいおじさんですが、自分の父親ならば、なんとも言えない切なさがある。自分と同じ血筋だと思うと、その矛盾が良い」と受けとめており「これをおもしろくする為には客観的に見ないといけない。子どもである僕は父親を見ると精神的に辛い時はある。映像を見るだけでもムカついていた」とまで吐露する。門田監督は、膨大な映像量と向き合いながら、台詞全てを日本語に翻訳しており「小説として文字起こしして、その小説を映画化するならどんな感じでするだろうか」と作品化を検討。「映像から言語にして翻訳しながら、何度もクッションを挟むと被写体との距離をバランス良くなり、他人事として見れるようになった」と冷静に話し「なるべく中立的なポジションからズレないようにしました。映画では、観客が共感しやすい距離感からズレないように気をつけました」と編集の意図を説く。
完成後、角田監督は、朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国の間に存在する世界でも特異なエリアDMZ(非武装地帯)で開催されているDMZ国際ドキュメンタリー映画祭へ出品。撮影の2、3年前から現地に足を運んでおり「北朝鮮や韓国、中国がテーマの作品を取り上げていたが、中国朝鮮族を深く取り上げることはなかったので、絶対に受賞出来る」と撮影中から確信し全てを懸けていた。最終選考まで残ったようだが「どうやら映画祭の方から、公開することで、父親の居場所は大丈夫なのか、と心配された」と明かし、監督としては「大丈夫だ」としか言いようがない。最終的に受賞は逃してしまったが、そこからは見せられる場所を出来るだけ探して世界中14ヶ所の映画祭に出品した中で、カナザワ映画祭があった。審査員から「間違いない!編集が良かった。父親のキャラクターからあそこまで刳り出したのが良かった」と絶賛され、「期待の新人監督」グランプリを受賞。
なお、撮影後に、父親は再び行方不明となり「本気で探せば見つかるかもしれない。連絡を試みたが、繋がらなかった」と残念な気持ちが残るが「韓国メディアでも宣伝はされていた。映画を観るチャンスはあったかもしれない」と期待している。また、祖父母を撮ることも大切しており「死にゆく祖父母の姿を残すという意味もあり、完成後すぐに見せました。孫の成長ぶりを褒めてくれてた」と喜んだ。今後は、ドキュメンタリーだけでなく、フィクションを撮りたいとも考えており「日本映画界に対して片足を突っ込んでみて、砂漠地帯のように感じた。この中で俺は生きていけるのか」と模索中ながらも、未来に思いを馳せていた。
映画『血筋』は、10月3日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、10月10日(土)より神戸・元町の元町映画館、10月17日(土)より京都・烏丸の京都シネマで公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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