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TV版と違い、表情や声のトーンをしっかりと観てもらえる作品…『おかえり ただいま』齊藤潤一監督に聞く!

2020年10月1日

2007年に名古屋で起きた“闇サイト殺人事件“の真実に迫るセミドキュメンタリー『おかえり ただいま』が関西の劇場でも10月2日(金)より公開。今回、齊藤潤一監督にインタビューを行った。

 

映画『おかえり ただいま』は、『死刑弁護人』『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』等で、日本の司法のあり方を問い続けた齊藤潤一監督が、ドキュメンタリーとドラマで名古屋闇サイト殺人事件の深層に迫る。さまざまな社会問題を取り上げたドキュメンタリー作品を世に送り出している東海テレビによる劇場公開ドキュメンタリーの第13弾。2007年8月24日深夜、帰宅途中の女性が拉致、殺害され、山中に遺棄された名古屋闇サイト殺人事件。携帯電話の闇サイトで知り合った3人の男が犯人として逮捕され、母は加害者全員の死刑を望んだが、そこに大きく立ちはだかったのは「1人の殺害は無期懲役が妥当」という判例だった。事件発生直後から取材を開始した被害者の母のドキュメンタリーパートに加え、斉藤由貴、佐津川愛美らによるドラマパートにより、事件前の母と娘のかけがえのない時間、短絡的で凄惨な事件を起こした男たちの生い立ちを浮かび上がらせていく。

 

光市母子殺害事件の弁護団を追った『光と影 光市母子殺害事件 弁護団の300日』のディレクターである齊藤潤一監督。当時、事件の被害者への取材による記事やTV報道が多く「なぜ弁護団は罪人を弁護するんだ」という風潮があったなかで、あえて弁護団の視点で撮影していった。放送後に「東海テレビは犯罪被害者の気持ちが分かるんですか」というお叱りの電話やメールをたくさん受け「それなら、次は被害者遺族視点による番組を作ろう」と『罪と罰 娘を奪われた母 弟を失った兄』を制作。この頃、名古屋闇サイト殺人事件が起き、磯谷さんが犯人死刑の署名を集め、間もなく裁判が開かれるという時期であり「磯谷さんを中心に取材しよう」と決意する。また、『罪と罰 娘を奪われた母 弟を失った兄』では描けなかった生前の母と娘を撮りたく「これをドキュメンタリーで撮る手法はありますが、写真やイメージ映像、インタビューを集めた内容になってしまう。沢山の素敵な物語を作るにはドラマしかない」と確信し、ドラマとドキュメンタリーをバランス良く合わせた本作が作られた。

 

また、本作では、加害者の父親へ取材した様子もしっかりと収められている。齊藤監督もTV局の記者として様々な事件を取材してきており、加害者側の生い立ちを取材していくと「辛い生い立ちの方が多い。いわゆる社会的弱者の方、経済的に貧しかったり家庭的に恵まれなかったりイジメを受けていたり差別を社会から受けていたりする方が物凄く多いんですよ。そういう人達を我々の社会が手を差し伸べて救う等しない限り、こういう事件や犯罪は繰り返されるんだろうなぁ」と長年感じてきた。本作を作るにあたり「メインは被害者の物語ですが、加害者の生い立ちは入れるべきだ」と確信。「裁判記録だったり弁護士から話を聞いたりしてドラマは描けるんですね。ドキュメンタリーに関する取材はかなり大変な作業」と説き「事件直後も犯人側の取材はニュースの取材の中でやっていたんですが、深く取材出来なかった。事件から10年が経ち、家族や友達関係の取材を改めて試みるんですが、彼らは関わりたくない。死刑が執行されている段階で家族への取材は大変でしたよね」と吐露する。とはいえ「これはきっちりと伝えるべきだ」と決意し、粘り強く取材して作品にすることが出来た。

 

完成後、まず2018年12月25日夜7時、ゴールデンタイムに本作はTV放送されている。クリスマス当日であり、東海エリアの他局ではバラエティー番組が多かったが、東海テレビは敢えて挑戦的に放送。視聴率は6%という結果だったが「クリスマスの日に凄惨な事件に関する番組ですけれども、テーマは家族なので、”改めて家族の大切さを実感しました”というような制作者としては嬉しい反応をいくつか貰いました」と手応えを感じる。また、磯谷さんからは「彼を許すことは出来ないが、生まれ育った環境は感じるところがあった」と言ってもらい「磯谷さん自身も事件を風化させたくはない思いが強いので、こういう作品を放送で観てもらって、凄く嬉しかったです。改めて、多くの人々にこの事件を思い出してもらえることが出来て嬉しいです」と実感した。

 

TV放送版は東海エリア3県でのオンエアであるが、放送後に「この作品は是非全国の人に観てもらいたいなぁ」という作品は年に一本ずつ程度を映画をすることが東海テレビに認められており、劇場公開が決定。映画化にあたり「TV版は90分強。時間の関係で、どうしても入れられなかったインタビューやシーンがいくつかあり、最終的に削ったところがあるんですね。その部分を、今回は十分に入れ込んだ」と納得の仕上がりに。TV版について「見やすいようにスーパーを沢山入れたんですね。インタビューのコメントや、入れ込むことでチャンネルを変えさせない部分もあったんですが…」と説き「全部を省いたんですね。インタビューは非常に大切な表現方法なんですけれども、やはり顔を観てほしい。スーパーだと文字を読んでしまって、表情を見れないので、それを省いたことによって映画版はしっかりと表情や声のトーンを観てもらえる構成になっている」と映画版に対する自信を語っていく。TV放送時は「Home~闇サイト事件・娘の贈りもの~」というストレートなタイトルだったが「もう少し深いタイトルにしたい」と切望。「この作品はどんな作品なんだろう、と観る前に思い、観た後にタイトルの意味をもう一度考える。タイトルは非常に大切なんです」と考えており「Home、家庭へ、以外の部分でイメージを膨らませるようなタイトルは何がいいかな」と検討していく中で「主題歌をミナコ“ムーキー”オバタさん(東海テレビの作品を何作か関わってもらっている)に書いて頂いた詞の中に“おかえりただいま”という詞があった。凄くいい詞だなぁ、とプロデューサーも私も思っていたので、この詞から頂いた」と明かした。

 

なお、現在の齊藤さんはディレクター職から離れており「長い間、番組を作ってきたので、離れると恋しくなります」と告白。これまでに、名張毒ぶどう酒事件をずっと追ってきて番組を作ってきており「まだ決着していない。奥西死刑囚は亡くなったんですが、妹さんが再審を求め続けているんです。92歳になっているんで、亡くなったら誰もこの事件を引き継ぐ人がいなくなり終わってしまう。出来れば最後まで追い続けたいなぁ」と切に願っている。また、他の事件でも作りたいが「僕ばっかりが作っていると後輩が作るチャンスを無くしてしまうので、後輩に作らせてあげたいなぁ」と思っており「プロデューサーの立場がありますが、ディレクターとしての立場はもうそろそろ後輩に譲った方がいいなぁ」と後進の育成にも余念がない姿を垣間見れた。

 

映画『おかえり ただいま』は、10月2日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、10月3日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場で公開。また、神戸・元町の元町映画館でも順次公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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