ロメロは如何に社会を切り取り、ゾンビを以て批判するか…『ゾンビ-日本初公開復元版-』ミルクマン斉藤さんと福田安佐子さんを迎えトークイベント開催!
ジョージ・A・ロメロ監督の名作『ゾンビ』の日本初公開版が『ゾンビ-日本初公開復元版-』として、関西の劇場でも12月13日(金)より復活上映。初日には、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田にミルクマン斉藤さんと福田安佐子さんを迎え、スペシャルトークイベントが開催された。
映画『ゾンビ-日本初公開復元版-』は、「ゾンビ映画」というジャンルを確立した、ジョージ・A・ロメロ監督による傑作ホラー。惑星から降り注いだ光線により、地球上の死者がゾンビとして復活した。その群れは生者に襲いかかり、噛みつかれた者もゾンビへと変貌、生ける屍たちは瞬く間に世界中を覆い尽くしてしまう。テレビ局員のフランと恋人スティーブン、SWAT隊員のロジャーとピーターはヘリコプターで脱出し、郊外の巨大ショッピングモールにたどり着く。モール内のゾンビを一掃し食料と安全を確保したものの、物資を狙う暴走族の集団に扉をこじ開けられ、ゾンビの大群までなだれ込んできてしまう。ゾンビ、暴走族との三つどもえの殺戮戦の中、生き残りをかけて奔走するフランたちだったが…
本作には、アメリカ公開版(127分)、ダリオ・アルジェント監修版(119分)、アルジェント版をもとに日本の配給会社が独自の編集を施した1979年の日本初公開版(115分)、ディレクターズカット版(137分)といった複数のバージョンが存在。そのうち配信もソフト化もされておらず幻のバージョンとなっているのが115分の「日本初公開版」であり、今回、日本初公開から40周年を記念し「日本初公開復元版」としてリバイバル上映されるに至った。
上映後、映画評論家のミルクマン斉藤さんと国際ファッション専門職大学にてホラー映画史を研究されている福田安佐子先生がゾンビメイクで登場。不穏な空気を漂わせて歩きながらトークに突入していった。福田先生は、ゾンビ研究をしながら、ビジネスもできるクリエイター、クリエイターとしても活躍できるビジネスパーソン、ゾンビにもなれる人間を育てている。大学では、ゾンビメイクゼミを開講しており「ゾンビメイクにもそれぞれコンセプトがあります。どういう社会問題を詰めんだゾンビメイクを考えるか真剣に話しました」と意識が飛んでしまったゾンビの捉え方を説いていく。
「ゾンビ学で博士論文書きます」と宣言している福田先生は「実現したら日本初、いや世界初のゾンビ学の博士」となることを認識している。2002年以降、ゾンビ映画が増え、ゾンビに纏わる論文も増加しており「どんなゾンビ映画がどの時代に流行ったか、映画史を書いたものがほとんど。一作のゾンビ映画に絞って論じていたり、現代思想を用いて掘り下げた論文が登場したりしている」と述べていく。同時に、自身の論文を早く書かないと読まなないといけない論文が増えることも伝わってくる。
1988年生まれの福田先生は、後発のゾンビファンであるが、俯瞰的に作品を観ており「ゾンビになる要件は、甘いところもある。映画によって許されてしまう。そのユルさが好き」と話す。「1931年辺りの初期ゾンビ映画、ブードゥー教に纏わるゾンビは、ゾンビを作り出した呪術者が死ぬとゾンビが動けなくなる」と踏まえ、ミルクマンさんから「今云われているゾンビは、ロメロが作った。1968年の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』まではなかった」と添えられていく。福田先生は「ハイチのゾンビも引き継ぎつつ、近代アメリカに則してゾンビが進化していった」と分析しており、ミルクマンさんは「黒人がヒーローとして主人公であり、ゴア描写があり、ベトナム戦争の影響を受けた社会性がある」と今観ても深い作品であることを示す。
『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』の最後には白人の自警団が登場しゾンビよりも野蛮な行為をしていることを、福田先生は指摘し、白人なりの階層差別や窮状等を先読みしているロメロ監督を絶賛。ミルクマンさんも「黒人の公民権運動がデモにまで発展し、ベトナム戦争に対するアンチテーゼがある。最後のロメロ演出は天才的」と称えていく。福田先生は「世界の救いの無さと作中での救いの無さが入れ子構造になっている世界観は深い」と受け止めており、ミルクマンさんは「世界映画賞があるとしたら、確実に10本の中に入る」と確信している。なお、『ゾンビ』にも自警団が登場し、陽気な音楽にのせて白人達が徒党を組んで嬉しそうに銃を持って集う。当時のアメリカ国民について、ミルクマンさんは「1968年の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』を観ているので、続きだと分かる」と述べ、日本では『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』が末公開だったので「配給会社は分からないだろうと捉え、惑星爆発を挿入した。今回、元のフィルムが見つからず、結局は何が使われているのか江戸木純さんも分からない」と説明した。公開当時ならでは独自の手法ではあるが、福田先生は「ゾンビ映画の魅力を象徴している。ありふれた素材を上手く寄せ集めて提供できる。ノスタルジーがありつつ再現可能性の魅力がある」と好意的に捉えている。だからこそ『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』を最初に観た時には「感動しました。皆さんが思っているゾンビの滑稽なイメージが覆されて、怖さがある」と受けとめていた。
青色を用いたゾンビのメイクが印象に残るが、福田先生はその理由について「死んだ者を生き返らせたからできる死人の描写」或いは「重い病気で肌が青くなってしまった」と考えてみたが、結局は「ロメロのフェチなんじゃないか。特殊メイクを担当したトム・サビーニと悪ノリして青くしたんじゃないか」とオチをつけていく。これを受け、ミルクマンさんは「トム・サビーニはベトナム戦争から帰ってきた退役軍人。目の前で死人を見て焼き付いたトラウマで作っている」と添えた。また、ゾンビがショッピングモールに集まっていくことも興味深い。ミルクマンさんは「人間として生きていた時に一番集まりやすいところ」だと述べ、福田先生は「欲しいものが手に入る。暇な時に買い物に行きたい欲望を皮肉っている。どのように社会を切り取って批判するか」と解説。さらに、ミルクマンさんは「作られた年代の社会をどのように俯瞰するか。当時、巨大なショッピングモールが完成し小売店が潰れていく。用事がなくとも行ってしまうほどに習慣になっている社会だった」と説く。
なお、ジョージ・A・ロメロ監督は90年代にゾンビものは撮っておらず、2005年以降、『ランド・オブ・ザ・デッド』、『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』、『サバイバル・オブ・ザ・デッド』と定期的に撮っていく。一作毎にゾンビの像も変化していき、知能があるゾンビが登場した。福田先生は「『サバイバル・オブ・ザ・デッド』ではゾンビが馬を食べ始める。ゾンビの大前提を覆した」と驚愕。ミルクマンさんも「自分で作っておいた定説を潰している。それで亡くなったのでビックリした」と言わざるを得ない。だが、2017年に亡くなり、福田先生は「もう1本撮ってから…」と思いを募らせていた。
最後に、ミルクマンさんは「『ゾンビ』好きな仲間がいらっしゃったら、ぜひ。DVD化の予定もないようなので、今回観ておかないと一生観れない」と今回の貴重な機会での鑑賞を薦めていく。福田先生は、今作に対し「グロテスクなシーンがカットされて観やすくなった。皆と観に行ける丁度良い怖さのゾンビ映画になっています」と幅広いお客さんとの鑑賞をお薦めし、スペシャルトークイベントは締め括られた。
映画『ゾンビ-日本初公開復元版-』は、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で公開中。また、12月21日(土)より京都・烏丸の京都シネマ、2020年1月1日(水)より神戸・元町の元町映画館でも公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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