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近大マグロの完全養殖は日本が誇る技術…!『TUNAガール』安田真奈監督に聞く!

2019年11月25日

クロマグロの完全養殖を成し遂げた和歌山県串本の近畿大学水産研究所を舞台にした実習生達の青春群像劇『TUNAガール』がひかりTV・大阪チャンネルで配信中、Netflixで世界配信中。今回、安田真奈監督にインタビューを行った。

 

TUNAガール』は、32年もの年月をかけてクロマグロの完全養殖に世界で初めて成功した近畿大学水産研究所が舞台、完全オリジナルのウェルメイドなマグロ×学問×ちょこっとラブ!?なストーリー。明るいがおっちょこちょいな美波は、近畿大学農学部水産学科の3回生。春から夏までの約半年間、研究合宿のため、和歌山県にある近畿大学水産研究所に向かっていた。メインテーマは、世界が注目しているマグロの完全養殖。研究熱心な同級生とは違って、美波はマグロにイマイチ関心が持てず、環境に馴染めない。しかも実習は想像以上にキツすぎて、やることなすこと失敗ばかり!「もう嫌だ~」と彼氏に電話で愚痴りまくる美波だったが、クールなのにマグロ愛は熱い須藤先輩や、ひたむきな同級生たちの悩みに触れるうち、研究への姿勢も変わっていく。やがて美波のポジティブパワーが全開、彼女の姿に周りも少しずつ影響を受けていく。そんなとき、ネット番組の取材が入るが、美波はロケ中に大失敗をしてしまい…

 

近畿大学と吉本興業は2016年12月15日に大阪らしい”おもろい”研究や教育、情報発信を展開し、日本だけでなく世界に向けて様々な価値の創出を目指した包括提携協定を締結し、多様な取り組みを実施している。今回、ドラマを作ることになり、吉本興業と映像企画制作会社ザフールによる話し合いの中で「取材してオリジナル脚本が書ける、さらに監督もできて、関西ノリもわかる」ということで安田監督が指名された。2006年の安田監督作品『幸福(しあわせ)のスイッチ』の制作スタッフがザフールのプロデューサーになっており、名が挙がるのは自然な流れ。オファーを受け、監督は、養殖や鮪について様々な書籍や映像を調べていく。「鮪の養殖を面白おかしくドラマに取り入れた作品は他にない。王道の青春ドラマとは一味違う、楽しくかつアカデミックなドラマが作れるはず」と考え、養殖や鮪の研究についてかなり勉強した。「上映後に、撮影裏話とマグロトークができますよ」とのことだ。

 

近畿大学では、農学部水産学科の3回生前期と4回生後期に一部の学生が白浜や串本などの水産研究所に合宿して、魚を育てながら研究している。2回生を終えてある程度の単位を取得出来ている優秀な学生でなければ、アルバイトやサークル活動から離れて半期も和歌山に滞在して魚と過ごすことは到底出来ない。3回生の前期は、まず、様々な魚の飼育と研究をする。串本の研究所の場合、初夏になるとクロマグロが産卵するので、その後1カ月半ほどかけて、1㎜の卵から6~7cmの稚魚になるまで育て、生け簀に放って研究合宿を終える。4回生の後期には、考えた研究テーマを検証しながら、論文を執筆していく。卵から育て、育った成魚からまた卵を採る。天然資源を乱獲せずにすむクロマグロの完全養殖に、32年かけて世界で初めて成功し、「近大マグロ」が一躍有名になったのは10数年前だ。だが、ドラマ制作にあたり、エピソードをそのまま再現しても面白みはない。製作陣と「今の若者の物語にしよう」ということになり脚本作りに着手していく。第一次産業や学校を素材にしたドラマは多数ある。「海辺でマグロを育てて恋をするフワッとしたドラマでは、想像の範囲内。あまり知られていない養殖の裏側をトコトン織り込んで、『ドラマも面白かったけど、養殖トリビアも面白かった』と言われる、『マルサの女』みたいな濃い作品を」と目指した。実際、視聴者からは「養殖の話でこれほど感動するとは」「研究ネタもすごく面白かった」との声も届いている。

 

今や『トクサツガガガ』への出演で注目を浴びている小芝風花さんが、ヒロインの美波を熱演。鮪(TUNA)の語源である突進を表すキャラクターとして見事に皆を掻き回していった。小柄ながらパワフルな演技を披露しており「90分のドラマの中に喜怒哀楽の全てが詰まっている上に、彼女の魅力が炸裂している」と安田監督は彼女の頑張りに太鼓判を押す。撮影現場でも一生懸命で「オフの時間でもスタッフや周りの人に対して朗らかで素敵な人柄だった。皆が小芝さんのファンになる。太陽みたいな人ですね」と称えていく。なお、学生が中心となる作品では、様々なキャラクターを描く必要がある。美波は能天気なタイプだが「周囲には、研究まっしぐらな堅い子がいたり、頑張り屋さんなのに事情があって報われない子もいたりする」とリアリティを以て描いており、最近の若者・学生事情をヒアリングしながら、各登場人物の個性を設定していった。また、星田英利さんが魚好きの教授が好演。自然体で優しさあふれる演技には監督も絶妙な包容力を感じた。

 

撮影は、和歌山県串本町にある近畿大学の水産研究所で実施。撮影は10日間だったが、鮪の成長はとても速いので、ロケ期間内に必要なサイズの稚魚がいるとは限らない。「生後10日目の死骸を取り置いていただいたり、卵は前撮りに行ったりと、研究所に大変な協力をいただきました。演出スタッフと研究所の皆さんで、脚本に沿ったマグロの撮影ができるよう、パズルのように調整していただきました」と振り返る。なお、期間中は、台風に遭遇し大変な日々だったが、荒波に揺れる生け簀まで撮れ、運を味方につけていた。水産研究所の方々も「研究内容をドラマにうまく取り入れてくれた」と喜んでおり、キャストの方々も気に入って宣伝して下さっている。なお、撮影終了の頃にドキュメンタリー制作も依頼され、ポスプロ期間中に関係者インタビューを実施した。脚本を書くために養殖を学び、教授や学生の話をすでに聞いている安田監督なら、ドキュメンタリーで誰に何を聞けばよいかわかるはず…という人選らしい。こうして、インタビュードキュメンタリー「海を耕す者たち~近大マグロの歴史と未来」が同時配信となったが、ドラマの元ネタがわかるメイキング的な素材としても楽しめる。

 

Netflixによって世界配信された今、安田監督は「こんなに大変な思いをして作っていると知ったら、鮪が美味しくなりませんか?」と語る。「日本人の様々な努力にスポットが当たるドラマはありますが、養殖はマイナスなイメージがあった。天然も良いが、環境が良くなければ意味がない。養殖は水質管理がなされており、安心安全の品質が保たれている」と踏まえた上で「環境問題が世界で注目されている中で、完全養殖は天然の資源を傷つけない日本が誇る技術」と伝えたい。世界配信によって字幕も付き、ドキュメンタリーも配信され、業界的にも価値があり「環境問題や水産業や水産資源は、普段の生活で意識する機会が少ない。可愛くて楽しい青春ドラマを見るうちに、自然と問題に関心が向かうかも」と期待している。

 

なお、安田監督の創作意欲は今後も止まない。現在、企画中の作品が2本もある。一つは、映画「虹色のネジ」、大阪のネジ工場を舞台に、祖父・父・息子の男三代家族物語をファンタジーも交えて描く、優しく熱いストーリー。もう一つは、映画「胎内の魚(仮)」、毒母や虐待のレベルに達しなくとも大勢といる「母に逆らえない娘」が題材。小さな不満やすれ違いが、やがて深刻な遅すぎる反抗期を招く、母と娘の愛憎物語。どちらもユニークで興味深いオリジナル脚本だ。「他の人が取り上げないようなニッチな題材に惹かれます。これからも、地味な題材に光を当てて、そこに息づくアツイ人間ドラマを描きたいです」と意気込む。

 

TUNAガール』は、ひかりTV、大阪チャンネルで配信中、Netflixで世界配信中。

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キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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