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淀みのない役者達が自身の感情を以て演じ切った…!『ひとよ』白石和彌監督に聞く!

2019年11月6日

ある事件をきっかけにバラバラになった家族の15年ぶりの再会と、再生を願う葛藤と戸惑いを描く『ひとよ』が11月8日(金)より公開される。今回、白石和彌監督にインタビューを行った。

 

映画『ひとよ』は、女優で劇作家、演出家の桑原裕子さんが主宰する「劇団KAKUTA」が2011年に初演した舞台を映画化。タクシー会社を営む稲村家の母こはるが、愛した夫を殺害した。最愛の3人の子どもたちの幸せのためと信じての犯行だった。こはるは子どもたちに15年後の再会を誓い、家を去った。運命を大きく狂わされた次男・雄二、長男・大樹、長女・園子、残された3人の兄妹は、事件のあったあの晩から、心に抱えた傷を隠しながら人生を歩んでいた。そして15年の月日が流れ、3人のもとに母こはるが帰ってきた。次男役を佐藤健さん、長男役を鈴木亮平さん、長女役を松岡茉優さん、母親役を田中裕子さんがそれぞれ演じるほか、佐々木蔵之介さん、音尾琢真さん、筒井真理子さんらが脇を固める。

 

母親役田中裕子さんに決まらないと撮れなかった本作。女の情念を演じ続け、観る者に底の無さを見せつける役が多く、近年では『共喰い』での演技が印象的に残っている。今作が母親をテーマにするため、白石監督は玉砕覚悟でオファーした。「来年の春は無理です」と最初は断られたが「1年待てば大丈夫ですか」と諦めない。白石監督の熱意に押されて、田中裕子さんは、「考えさせてください」と応えるも「そこまで待ってくれるなら。分かりました。やります」と受けて頂いた。台本作成の段階から「この台詞はどうしてこうなっているんですか」と質問を受けたり修正した脚本を再度読んでもらうといった往復書簡を何度も繰り返していく。その後、初対面の際には「様々なことを言われるかもしれない」と緊張感に包まれたが「僕達がなぜ裕子さんにお願いし、この映画をやりたいか、一通り話して、特に質問はなかった」と安堵した。「最初から柔らかい方でしたが、本心が何処にあるのか見せてくれなかった気がします」と振り返り、映画女優であると実感させられる。

 

佐藤健さんは、白石監督作品には初出演となった。現在の活躍ぶりについて「既にスター俳優であり、さらに階段を駆け上がっており、これから日本を背負って立つ俳優になっていく」と評し「本人はクールに見えるが、並々ならぬ情熱があるから、皆が好きになってい」と捉えている。監督自身も佐藤さんの魅力を体感してみたかった。演じた雄二という役は、母親とコミュニケーションが上手く出来ず酷いことを言ってしまう。だが、実は誰よりも母親が好きで、兄弟のことを誰よりも考え、母親の期待に応えられていない自分にイラついている。そんな熱い愛情を持っているキャラクターについて「健君の恥ずかしがり屋でいつも表に出せない感じがマッチするんじゃないか」とキャスティングした。

 

雄二の兄である大樹を演じた鈴木亮平さんと佐藤健さんは、TVドラマで兄弟役を演じたことがある。だが「本作のような兄弟は成立するか、と不安は撮影が始まるまではあった」と明かす。「亮平君はキャラクターの作り方の強さと同時に、器用さと不器用さを持ち合わせている」と捉えており、大樹がピッタリな役だと感じた。松岡茉優さんについて「天才性が遺憾なく発揮されている」と称えており「この兄弟を兄弟にしてくれたの時間や空間を埋める力のある松岡茉優の力が大きい」と捉えていく。彼女の役作りを信頼しており「人には強く当たるけど、実は一番時間が止まっている。母親がいなくなってから、きちんと大人になれていない感じが、茉優ちゃんのもつキャラクターにピッタリ」と絶賛した。

 

家族が揃った際の演技には、それぞれのキャラクターに合わせた感情表現をしており、拘りを感じさせる。台詞を言っている時、皆が順番を意識しており「上手い役者は台詞がオフの時、リアクションや目線を計算している。この3人と裕子さんを含め、淀みがない。計算した芝居が出来ている」と説き「それぞれの役者が自分の感情でそれぞれのキャラクターを演じている瞬間を切り取れることが、上手い人を集めた映画の強み」と本作における役者の醍醐味を述べた。

 

舞台となったタクシー会社には、事務所があり、裏庭があり、稲村家の母屋まである。舞台作品が原作であるための設定だが、ロケハンでは、都合がいい場所がなかなか見つけられなかった。制作陣皆総出で探し続け5ヶ月かかった後、偶然にも茨城県神栖市の国道沿いにある「浜松タクシー」を発見。事務所を増築しており、その光景を見るだけでストーリーが出来るような建物だった。事情を話し、撮影用に一時的にお借り出来ないか、皆でお願いしていく。事情を汲んでもらい、撮影期間中に貸して頂くことなり「浜松タクシーさんの協力がなければ出来なかった」とその存在を大きく感じている。

 

タクシー会社に勤める人物それぞれにも家族があり、何らかの重い事情を抱えていた。作中では家族のような盛り上がりとして描かれているが「現実でもあり得ることなんじゃないか。血が繋がっていないからこそ話すことが出来る。繋がっているからこそ話せないことも多々ある」と受けとめ、スクリーンに映し出ていく。本作は、人間が抱えるもどかしさを乗り越えていく物語でもあるが「血縁があると、疑似家族と違って、関係を清算出来ない。疑似家族は何かしらの利害関係で成立するから、都合が悪くなれば、いなくなればいい。いなくなったとしても血縁があると、なんらかのタイミングで戻らざるを得ない」と、今作の本質を語った。

 

最後に、白石監督の人生が動いた”ひとよ”について、昨年公開の『止められるか、俺たちを』を例にして挙げていく。それは、門脇麦さん演じる吉積めぐみさんが、若松孝二監督と出会い、最初に新宿のゴールデン街に連れられ「お前、どんな映画を撮りたいんだよ。誰かぶっ殺したいとか、何か爆破したいとか、そういうものないのかよ、そういうものを、ばっと取り入れれば映画になるんだよ」と云っているシーンだった。「あれは、僕が若松さんに二十歳の時に言われた台詞。めぐみさんも僕が弟子入りする30年前に弟子入りしている。歳は取ったけど弟子入りした人は同じことを言っているはず」だと明かし「僕はその時、ぶっ殺したい人はいなくて映画監督になれないと思った」と告白する。だが「あの瞬間、ワクワクしたんですよね。そのワクワクは、あの日から今に至るまで続いている」と、師匠からの教えを胸に、今後も白石監督は映画を撮り続けていく。

 

映画『ひとよ』は、11月8日(金)より全国の劇場で公開。

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映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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