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これからを生きることと亡くなっていくことは等しい…『みとりし』白羽弥仁監督に聞く!

2019年9月13日

交通事故で突如娘を失い、やがて看取り士となる男の姿を通して、その仕事の全貌や死ぬこと、生きることなどを見つめ直す『みとりし』が9月13日(金)より全国の劇場で上映される。今回、白羽弥仁監督にインタビューを行った。

 

映画『みとりし』は、温かい死を迎えるために、本人の希望する形で旅立つ人の心に寄り添いながら見届ける「看取り士」を描いたヒューマンドラマ。定年間際のビジネスマン柴久生は交通事故で娘を亡くし、自殺を図ろうとしていた。そんな彼の耳に聞こえた「生きろ」の声。その声は柴の友人・川島の最期の時の声だと、川島の看取り士だった女性から聞かされる。それから5年後、岡山・備中高梁で看取り士としてのセカンドライフを送る柴は、9歳の時に母を亡くした新人・高村みのりたちとともに、最期の時を迎える人びとを温かく支えていく。
本作は、一般社団法人「日本看取り士会」の会長を務める柴田久美子さんの経験を原案に、主演も務める榎木孝明さんが企画から携わり映画化した。柴役を榎木孝明さん、みのり役を村上穂乃佳さんが演じるほか、斉藤暁さん、つみきみほさん、宇梶剛士さん、櫻井淳子さんらが脇を固める。監督は『ママ、ごはんまだ?』の白羽弥仁さんが担う。

 

「看取り士」に関する映画を制作するにあたって、原作があるわけではない。膨大な人々の死に関するエピソードがあるだけだ。白羽監督は、本作の嶋田プロデューサーにドキュメンタリーではないことを確認する。榎木孝明さんが主演の劇映画として企画され、ストーリーを考える必要があった。嶋田プロデューサーや榎木さん、看取り士の柴田久美子さんもいくつかの案はあったが、どれも纏まらず。そこで、白羽監督にオファーをあった。柴田さんの生涯からストーリーを作る案もあったが「そんな映画は沢山ある。やはり亡くなられた方のエピソードを交える必要もある」と練っていく。

 

柴田さんは島根県に生まれ、幼い頃に親を亡くした。マクドナルドに勤め業績を上げたが、精神的に疲れ、自殺未遂まで起こし、故郷の島根県に戻りホスピスのような仕事に就く。そこで、沢山の亡くなっていく方を見つめていく看取り士の世界を自身の職場として見出した。この経緯を知り、白羽監督は「3つの時代に分けられる。それぞれを3人で分ければ、話が作れるかな」と考案。「少女時代は村上穂乃佳さんの役柄、働いていた時代を榎木さん、つみきみほさんが看取り士。それぞれの役柄に合わせて話を作っていけば出来る」と気づき、時間がない中で一気に脚本を書き上げた。

 

亡くなる瞬間を中心にしながら描かれている本作は、お客さんの世代によって大きく捉え方が異なっている。50代を迎えた白羽監督は「僕も親を看取る世代です。そんな経験をしたどうかで視点が変わってきます」と説く。亡くなる瞬間を捉えたドラマは多くあるが「亡くなりそうな人の周りに親族を集めて遺言を伝えるようなことは実際にありえない。今から亡くなる人は、ほとんど意識が混濁している」と現実的に捉え、本作では、忠実な表現に徹している。ドキュメンタリーでは、亡くなる瞬間にカメラは自ずと引いていく。本当の死を撮ることは難しいが「我々がフィクションとして制作する場合は寄ってもいいんだ」と気づき、伝えていった。

 

人間誰しも等しく死は訪れる。本作では穏やかな表現を以て死を描いた。だが、現実では、もがき苦しんで亡くなる方もいる。白羽監督は「穏やかに亡くなることを人生の中でプログラミングしておく必要がある。これからを生きることと亡くなっていくことはイコールである」と制作しながら実感。淡々と死を見つめることに専念しており「愛すべき親しい人が亡くなることを厳粛に受け止めなければならない。同時に、何処かで避けてしまいたくなる。これが自然の理です」と毅然とした姿勢で捉えていく。また、看取り士が仲介役となり「違うんですよ。傍についてあげてください。なぜなら本人が望んでいるはずだから」と伝えていくこともテーマとしており「死にゆく人に対する捉え方を認識してもらえれば」と願っていた。

 

また、榎木孝明さんを主演に、脇を固める新進気鋭のキャストを集めている。村上穂乃佳さんが演じるみのり役に関しては、オーディションで1200人から絞っていき、最後に白羽監督とプロデューサーらと全員一致で決定した。キャリアは自主映画とCMへの出演でネームバリューとして危ぶむ心配も無きにしも非ずではあったが「本人も計算して一生懸命にオーディションに挑んだと思うが、存在感がピッタリだった。この映画を観て村上穂乃佳という女優を発見してもらえる」と太鼓判を押す。新米医師役の高崎翔太さんについては「見た目と違って、飄々としており楽しい人。役柄的にもピッタリだった。抜けたような医者は今時の新人医師としては外れていない」と自信がある。作品全体的として穏やかな空気を纏ったかのような演技があると感じるが「元々、僕はそういう質なのかもしれない。『劇場版 神戸在住』等も含め、仕掛けを取り入れた嘘くさい演技は好まない。それが僕の持ち味かもしれない」と自身の演出について真摯に語った。

 

なお、本作は、岡山県高梁市で撮影されている。原案の柴田久美子さんが会長を務める日本看取り士会の本部が岡山県にあり、広大な岡山県でロケハンが行われた。高梁市は、横溝正史シリーズが周辺で撮られたり、『男はつらいよ』シリーズでは2回も登場していたりする場所である。映画との相性を考え「山間に古くからある街であり、映画の中に出てくる過疎問題は否応なくある」と画的にも良いと気に入った。だが、撮影は昨年7月より始まったが、水害があり岡山県は大きな被害を受けてしまう。市内を流れる高梁川が氾濫し撮影が一度中断、1ヶ月も延期した。幾つもの困難を乗り越え、白羽監督は本作の完成を感慨深く受け止めている。

 

映画『みとりし』は、9月13日(金)より全国の映画館で公開。関西では、9月14日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場で公開。

「看取り士」は、本人が希望する場所で自然で幸せな最期を迎えられるために、旅立つ方の思いを受け止める真摯な職業だ。

 

世間でもまだ馴染みが少ない「看取り士」への風当たりは強く、本作でも決して美化していない。認知度による問題を描いており、決して他人事とは思えない気持ちに張り巡らされる。誰にでも訪れる死というテーマに寄り添い、旅立つ者にも、残された者にも、悔いのない最期を迎えられるように、高齢社会を迎えた現代に向けて本作が公開された意味を今一度考えさせられた。

fromねむひら

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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