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ユーモアとシリアスは隣り合わせに表現できる…『台風家族』市井昌秀監督に聞く!

2019年9月8日

強奪事件を起こし姿を消した両親の財産分与のため、見せかけの葬儀をすることから始まる1日の騒動を映し出した『台風家族』が全国の劇場で公開中。今回、市井昌秀監督にインタビューを行った。

 

映画『台風家族』は、ひとクセある家族たちの姿を、ブラックユーモアを交えて描いたコメディドラマ。鈴木一鉄と妻の光子は銀行から2000万円もの大金を強奪し、行方がわからくなっていた。事件から10年たったある日、いまだに所在がわからない両親の仮想葬儀で財産分与をおこなうため、鈴木家の子どもたちが集まる。どんな仕事も長続きしない長男の小鉄は妻の美代子、娘のユズキとともに10年ぶりに実家へ訪れ、長女の麗奈、次男の京介とともに、空の棺おけを2つ並べた見せかけだけの葬儀を始める。葬儀が終わった頃にインターホンが鳴り、間に合わなかった末っ子の千尋がようやく到着したかに思われたが、ドアの外に立っていたのは千尋ではない、チャラチャラした男だった。
『箱入り息子の恋』の市井昌秀監督のオリジナル脚本で、長男役の草彅剛さん、長男の妻役の尾野真千子さん、父親役の藤竜也さんのほか、MEGUMIさん、中村倫也さん、榊原るみさんらが顔をそろえる。

 

今から13年前、市井監督が30歳の時、富山の実家を離れて12年を経て、両親を田舎に置いたままで長男として罪悪感があった。「両親に向けた映画を作りたい」と一念発起した際に、小学校5年生の時に台風で真夜中に停電になった時のことを思い出していく。弟を含めた家族4人で家庭不和を若干感じている中で、台風一過の町に出て、非日常的な光景に遭遇する。「家族4人ではしゃいで距離感が縮まった」と現在でも鮮明に覚えており「家族を題材にする時は台風を掛け合わせて描けたらいいな」と12年前から構想していった。

 

当初は、高齢の夫婦を主人公に霊柩車で疾走するストーリーを検討。ぴあフィルムフェスティバルのスカラシップに応募したが落選し、手付かずだった。6年前に舞台公演に誘われた時に「残された家族を描いてみよう」と決意し、本作に近いストーリーが出来上がっていく。台風に遭遇している雰囲気を出すために、家族の外側にある世界を広げていく構成を練り上げ、着想から13年を経て、現在の社会現象を切り取った作品となった。なお、当初のタイトルは『暴風域』だったが『台風家族』に決まり「台風と家族を掛け合わせたような見事なタイトルがしっくりとくる」と大いに気に入っている。

 

完成した本作は、ユーモアに富んでおり、冒頭から怒涛の勢いで進んでいく。市井監督は「シリアスなシーンでもユーモアを入れたくなる」と独自の感性を以て惜しみなく表現していく。シリアスやユーモアに寄せているシーンは数か所ある、と説明するが「基本的には寄せないで、お客さんが思ったように捉えてほしい」と願っている。「基本的にはコミカルとして笑っている人の隣で、グッときている人がいても良いなぁ」と思っており「笑いを狙わずとも、事実を切り取る撮影手法や姿勢がある。演出も生々しく、コミカルで過剰な演技をしない」と自主制作時代からブレずに表現方法を貫いてきた。

 

他にも、家族だけの内なる空間と外側の世界との繋がりを意識した映像表現が施されている。家の中にギュッと居続けるので、外に出るだけで劇的だと感じ「振り切った展開にしたかった。家を出る時に勢いある音楽を流しながらハイスピードで駆けていく姿はカッコいい」と拘った。特に、ゆずき役の甲田まひるさんについて「初演技なのに柔軟で勘の良い子」と感心しており「娘からの視点も大事。この映画はゆずきの映画なんじゃないか」と次第に感じていく。これまでの作品とは一線を越え「ゆずきのカメラ目線は撮影中に思いついて初めて挑戦した」と監督個人としても劇的な撮影となる機会だった。

 

また、各登場人物には裏設定があり、2018年8月18日に起きた出来事の背景をディレクションし夫々に渡している。映画の完成後には、市井監督と妻で女優の今野早苗さんと本作の小説を書き、詳細に載っており、今回は「麗奈は弟の千尋を可愛がっているけども、可愛がっている自分が好き。千尋は可愛がられているふりをしているけど、可愛がっている自分が好きだという麗奈に気づいている」とまで明かして頂いた。プロットの積み重ねを大切にしており「過去があった上で演じていると言い方や声量が絶妙に変化がある演技になった」と市井監督は実感している。なお、本作はオリジナル作品ではあるが、様々な映画から影響を受けており、特に『逆噴射家族』『台風クラブ』といったATG作品の要素も見受けられ「映画では、非日常へとなだらかに飛んでいきたい。逆に、演技は生々した表現が良い」と考え、一風変わった境地に達した本作が完成した。

 

本作の主題歌には、フラワーカンパニーズによる「西陽」を起用している。市井監督はフラワーカンパニーズを10年前頃から聴いており、「深夜高速」「夜明け」「ハイエース」がお気に入りで「生々しい、というよりは生臭いぐらいの楽曲を作られている。歌詞によっては見受けられる露悪的な部分好き。同年代では銀杏BOYZが好きで、上の世代ではフラワーカンパニーズが大好き」と話す。今回の起用にあたり、2曲を挙げてもらっており「1曲は、映画として締りの良い柔らかい優しい曲で、今までのフラカンに近い」と明かし、もう一曲が「西陽」だった。「攻めまくっている楽曲だけど、歌詞の内容はグダグダな男の話。どちらにするか迷い、映画を一本繋げた上でひたすらに聴き続けたが、決められず」と困惑。「時間をおいて再び一本鑑賞し楽曲をかけると、この家族は、すんなり終わらねぇぞ、まだ先があるぞ、と伝わってきた」と受けとめ、「西陽」を採用した。

 

今作での草彅さんとの映画作りが印象に残っている市井監督は「もし『台風家族2』を作るなら、藤竜也さんが演じた役を草彅さんが演じてほしい。2,30年後には続編をやるか」と想像を膨らませている。『台風家族』に拘らずとも「草彅さんの一見普通な雰囲気が好き。『箱入り息子の恋』の星野源さんのように、スターでありながら、その辺りに居そうな感じが魅力的。だからこそ、大胆で狂気をはらんだ人間を演じてほしい」と次の機会に目を輝かせていた。

 

映画『台風家族』は、9月6日(金)より全国の劇場で三週間限定公開中。

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映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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