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アウトローだからこそ人間の本質を表現できる…!『タロウのバカ』大森監督に聞く!

2019年9月4日

戸籍がなく、自身の本名さえない少年を含む悪友3人組の先の見えない日々と、それでもなお消えることのない青春の輝きを描き出す『タロウのバカ』が9月6日(金)より全国の劇場で上映される。今回、大森監督にインタビューを行った。

 

映画『タロウのバカ』は、社会からはみ出した三人の少年の純粋かつ獰猛な生き様が描かれた青春映画。主人公の少年タロウには戸籍がなく、一度も学校に通ったことがない。タロウという名も、「名前がない奴はタロウだ」という理由で呼ばれるようになった。“何者でもない”タロウにはエージ、スギオという高校生の仲間がいる。悲しくなるほどだだっ広い空き地や河川敷がある町を、3人は全力疾走。何でもない日々に自由を感じて暮らしていた。しかし、偶然にも一丁の拳銃を手に入れたことをきっかけに、目を背けていた現実に目を向けざるを得なくなった。生と死の狭間に追いやられ、身も心もボロボロになっていくエージとスギオ。「好き」も、「死ぬ」も、自分の感情すらもわからないタロウ。強く脆い彼らに希望はあるのか? 恐ろしいほどに生々しく描かれた、大森監督渾身の問題作である。

 

本作の脚本は、20年以上前に大森監督が人生で初めて執筆。随分前から制作したかったが、デビュー前に執筆した脚本であるため、時代も変化した今、この作品を撮る意味があるのか、葛藤しながら制作に着手する。だが、心配は杞憂に終わり「撮りたい」という気持ちはどんどん膨らんでいった。

 

大森監督は本作を含め、社会の枠組みから外れた人たちにスポットを当てた作品を多く取り組んでおり「人物の本質を探っていくと、アウトローな人物である方が見つめやすい」と説く。我々は社会人、学生、親といった、様々な肩書きを持って生活している。実生活の中で必要だが、真剣に人間を見つめた時、障壁となってしまう。アウトローな人物にスポットを当てると、不必要なノイズを取り除き、人物の本質により迫られる。本作の場合、公園でタロウと出会う主婦は、「学校はどこなの?」と聞くが、タロウは学校に行ったことがなく、名前も存在しない。“何者でもない”存在のタロウという生き物を見て、彼女は怯えていた。社会の枠組みの中にいる人間にとって、ひとりの人間の本質に迫ることはかなり恐ろしい。大森監督は「だからと言って、カテゴライズすることは良くないと言いたい訳ではないんです」と語る。「カテゴライズしてはいけない」と断定すると、新たなルールとなってしまうため「幾つにも重なるルールの連鎖から抜け出したいという気持ちを強く持っている」と力説した。

 

一本の映画を作り上げることで、商品性、社会性、論理性が働き、世界に何らかの意味が広がっていく。しかし、映画はそれだけでは終わらない。原則としてこれらと相容れないはずの芸術性も持ち合わせていることに魅力を感じる大森監督は、「1+1=2というのは簡単でも、1+1はもしかすると5かもしれない、10かもしれない。全然イコールにならない、イコールじゃない部分の行間のようなものを発見する能力が、人間にはある」と確信する。

 

本作は障害者向け介護施設での発砲シーンから始まる等、衝撃的な描写が多く含まれている。「誰でも表現者となり得るようになって現代において、表現者は自主規制をかけなければいけないといった風潮が出てきた」と危機感を募らせてきた。表現の自由を守らなけば、ファシズムに近づいていくことは歴史が証明している。自分が表現したいものを具現化することは、決して非難されることではない。加えて「俳優なんて根本見世物じゃん、という考え方があるんですよ。見世物は、人前に立って何故こんな演技をしたりこんなセリフ言わなきゃいけないんだろう」と、大森監督も思う時がある。「見世物に対するある種の厳しさや覚悟は感じています。障がい者の人たちに出てもらう時、見世物にしていく覚悟はありますよ」と核心をつく。

 

なお、本作のストーリーは重たい内容だが、撮影現場は非常に楽しかったようだ。今作の現場に限らず、大森監督の現場は楽しく撮影していることが多く、遊びに訪れた方々が驚いている。今回は特に、演技に初挑戦である主役のYOSHIさんがいるため、タロウが社会の力と関係ない場所に存在し、彼自身も社会化されていない生き生きとした魅力を持っているので、タロウを社会に迎合しないような現場になるよう、監督達は本作を作り上げた。

 

本作の完成によって、20年来の夢が叶った大森監督。一種のゴールのように思えるが、大森監督にとって「これはゴールではなく、スタートだ」と語る。「映画は一本一本が大きく異なり、自分の今までの経験が全くと言っていいほど通用しない」と認識していた。「もちろん通用してる部分もあるだろうけど、毎回変な悩みが出てくるんだよ。これだけ撮ってるからもう少しえらくなってると思ったら大して偉くなってなくて、びっくりする」と顧みる。「新しい台本が出来上がった瞬間に全く違う映画に向き合わなきゃいけない。俳優さんが違うし撮る場所も違う内容も違う。すると毎回が新しい。だから永遠に終わらない感じかな」と、少年のような笑みをこぼしていた。

 

映画『タロウのバカ』は、9月6日(金)より全国の映画館で公開。

[インタビュー by ナカオカ

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映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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