名張毒ぶどう酒事件の謎に挑むドキュメンタリー『眠る村』がいよいよ関西の劇場で公開!
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事件発生から半世紀以上経った今なお幾多の謎が残されているが、司法が頑ななまでに再審を拒んでいる“名張毒ぶどう酒事件“について、粘り強い取材を重ね、この昭和のミステリーの真実と闇に切り込んでいく『眠る村』が、3月2日(土)より関西の劇場で公開される。
映画『眠る村』は、『ヤクザと憲法』『人生フルーツ』など数々の社会派作品を送り出してきた東海テレビ製作によるドキュメンタリー劇場版の第11弾。戦後唯一、司法が無罪から逆転死刑判決を下した事件として知られる「名張毒ぶどう事件」の謎を追った。三重と奈良にまたがる葛尾で昭和36年、村の懇親会でぶどう酒に混入されていた毒物による中毒で5人が死亡し、当時35歳の奥西勝が逮捕される。一審で無罪となった奥西だったが、二審で死刑判決、そして最高裁は上告を棄却。昭和47年、奥西は確定死刑囚となり、独房から再審を求め続けたが平成27年10月、獄中で帰らぬ人となる…
本作では、奥西の自白の信憑性や、二転三転した関係者の供述、そして再審を拒む司法など、事件から57年を経たいまも残る多くの謎に迫っていく。獄中の奥西の半生を描いた劇映画『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』で奥西を演じた経験のある仲代達矢さんがナレーションを担当している。
映画『眠る村』は、3月2日(土)より、大阪・十三の第七藝術劇場と、京都・烏丸の京都シネマで公開。また、神戸・元町の元町映画館でも5月公開予定。
本作を観終わったあと、気になってネット上で「名張毒ぶどう酒事件」を検索してみた。真偽はともかくとして、怒りをこめて冤罪説を語った内容や、証拠の不自然さをまとめた解説など、膨大な量の情報にヒットする。しかし、ドキュメンタリー映画である本作の中には「これは冤罪だ!」と感情を高めるような展開はない。ただ淡々と事件から57年間の流れを追い、まとめるのみ。だからこそ、事件を処理した司法の手続きの不自然さが逆に際立って見える。「これって、つまり、そういうこと。。。?」と、こちらから言い出さずにはいられない。
フラットな視点で、主観や恣意的なアングルを排除して、黙々と伝える語り口は見事。本作を制作した東海テレビは、他にも数々のドキュメンタリー作品を世に送り出しており、納得である。仮に奥西死刑囚が冤罪であるならば、真犯人は他に居ることになる。小さく狭い村では、顔見知りな村人の誰かが犯人である可能性は非常に高い。部外者の視点だと、そこが一番気になるが、ドキュメンタリーでは一切言及しない。真犯人を探すことが目的ではないだろう。
村人たちの証言に「奥西と妻と愛人との三角関係が」とか「ここは部落だから」とか、ドキっとする言葉が何でもないかのように出てくる。まさに、事件の特異な構造の片鱗が垣間見えた。本作を鑑賞した後、自分にとって何が残るかと問われると難しい。当事者の死によって本当に幕を閉じた…というよりも、これ以上の進展がもはや果たせなくなった、やるせない後味だろうか。
fromNZ2.0@エヌゼット
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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