逃げたい人が今在る此処を受け容れる話を青春映画と呼ぶ…『モダン・ラブ』福島拓哉監督に聞く!
パラレルワールドを題材に、5年前に失踪した恋人を思うヒロインの孤独と葛藤を描き出す『モダン・ラブ』が12月8日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開。今回、関西での公開タイミングに福島拓哉監督にインタビューを行った。
映画『モダン・ラブ』は、『アワ・ブリーフ・エタニティ』が世界各地の映画祭で注目された福島拓哉監督によるSFラブストーリー。生命体の存在する新惑星エマノン発見のニュースで盛り上がる東京では、その一方で異常気象が頻発していた。旅行代理店でアルバイトしながら理論物理学を研究する大学院生ミカは、5年前に失踪した恋人テルのことを忘れられず、出会い系アプリで知り合った男で孤独を紛らわせながら、妄想でテルと会話する日々を送っている。そんなある日、ミカは発作的に既視感を覚えるようになり、「もう1人の自分」たちと出会う。それぞれのミカには、それぞれ異なる状況が存在していた。やがてミカは、人生を左右する選択を迫られ……
本作のストーリーは中盤以降に複雑に展開していく。だが、福島監督は「シンプルなストーリー。心に傷を負った女の子が困ったり頑張ったりする」だと説く。地味な映画を好んでいない。かつて、鈴木清順監督から「映画は派手な方がいい」と教わり「なるほど」と実感。以来、なるべく派手な展開を盛り込んだ作品を作り上げている。次第に、SF的な要素や複雑な要素が大きくなり、本作においても「基本的に主人公が何かを選び取る話にしたかった。選択する瞬間を描きたい」と構想していった。
主人公のミカは、「もう1人の自分」たちと出会っていく。観客によっては、どのミカなのか分からなくなってしまう。福島監督は「違いを見かけで分かりやすくすると、最終的に敵を倒す話になってしまう」と考慮する。本作の表現について「考え方や行動がほんの少しだけ違うが、基本は同じ。その差異を描きたかった」と明かす。衣装部やメイク部には負担をかけたが「絶妙な違いで3人を表現するのが、この映画には正しい」と定義した。また、本作は、伏線とその回収がしっかりと張り巡らされている。だが「基本的に伏線は全部回収しなくていい」とも話す。映画という芸術に対し「誕生して120年しか経っていない芸術。まだまだ発展する。演出等で新しい方法がある。脚本段階で分かりやすくしたり、あえてオチをつけなかったり」と、新しいタイプの映画を作りたい欲求を強く持っている。本作では、後半で方向性を変えており「映画1本観ただけで3本分ぐらい観たような気持ちになる作り方を近年はやっている。僕はこの手法を軸ずらしと名付けている。ずらしを真面目にやるかどうかも重要」だと解説。脚本のバランスを崩している箇所もあるが「映画自体に感情の流れがある。ポイントをおさえれば、話がぐちゃぐちゃになろうが、人物が思っていたことと違うことをしても意外と映画としてまとまる。映画の感情はおさえつつ、物語は自由に広がっていく」と述べる。
撮影にあたり、キャストやスタッフとは順調に進められた。メインキャストの半分はよく知っており「稲村梓さん、高橋卓郎さん、園部貴一さんらはよく出演している。スタッフ含め劇団のようになっているので、撮影が捗る。川瀬陽太さんや草野康太さんは昔からよく知っている」と明かす。今回、メインキャストで初めて出演した芳野正朝さんと今村怜央さんに対しても満足している。芳野さんについて「ゲイの役だが、当て書きした台本に驚いていた。それでも、芝居が圧倒的に上手い」と絶賛。今村さんの本業はミュージシャンだが「昔から知っている友達だが、これまでも映画出演経験がある。圧倒的な存在感を放ち、ライブハウスにいる人としてリアリティがある。場を背負えるから良かった」と信頼を寄せる。
福島監督の作品は、2016年に下北沢トリウッドで特集上映が開催された。特集上映のタイトルをつける際に「僕は現実逃避したいだけ」と話し『Escape from This Fuckin World』に決定。福島監督は「”今ではない何時か、此処ではない何処かに行きたい”をテーマにした作品を撮り続けている。どれだけ逃げたいと言っていても、逃げれないことは知っている。今在る此処を受け容れるしかない。逃げたい人が今在る此処を受け容れる話を僕は青春映画と呼ぶ」と語る。自身の作品について「現実逃避した主人公が物事を受け容れるストーリー。そんな作品を好きな人が観に来てくれる」と捉えた。現時点では次の具体的な予定は決まっていないが「ずっと撮ろうと思って動いたり止まったりしている脚本がいくつかある。新作で考ている企画も2,3本ある。タイミングが合えば撮っていきたい」と未来を見据えている。
映画『モダン・ラブ』は、12月8日(土)より、大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開。また、2019年1月18日(金)からは、神戸・長田の神戸映画資料館でも公開予定。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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