和歌山にある自然の大きさや人柄の温かさが伝わった…『ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでいる。』矢野聖人さん、岡本玲さん、藤原知之監督に聞く!
和歌山県にあるクジラだけを飼育している太地町立くじらの博物館を存続させようと奮闘する若き飼育員リーダーと仲間たちの姿を映し出す『ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでいる。』が、11月3日(土)より全国公開を迎えるにあたり、矢野聖人さん、岡本玲さん、藤原知之監督にインタビューを行った。
映画『ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでいる。』は、クジラの飼育をしている和歌山県太地町立くじらの博物館を舞台に、クジラを愛する青年を中心に博物館を盛り上げようとする人びとの奮闘を描く。来場者も増えず、次々と飼育員も辞めていく太地町立くじらの博物館の館長は、ベテランスタッフからの反対を押し切り、飼育員のリーダーとしてクジラを純粋に愛する青年・鯨井太一を任命する。東京の水族館からピンチヒッターとして博物館へやって来た白石唯や、学芸員の間柴望美など、同僚たちも太一を懸命にサポートするが、増えることのない来場者の少なさはスタッフたちを悩ませ続けた。そんな中、太一はスタッフの手作りによる「くじら夢まつり」を開催し、博物館を盛り立てることを思いつき、準備を進めるが、開催を目前に控えたある日、イベント中止の危機に直面する…
主人公の太一を映画初主演となる矢野聖人さんが演じるほか、武田梨奈さん、岡本玲さん、近藤芳正さん、鶴見辰吾さんらが脇を固める。
今作を手掛けたプロデューサーの前田さんは和歌山県出身。以前も和歌山市を舞台にした『ちょき』に携わっている。和歌山県を舞台にした作品をまた制作出来ないか、と仲間のプロデューサー達と話す中で、くじらの博物館に行った方がおり、皆が興味を持ち、実際に訪れた。飼育員の方から話を聞き、おもしろい物語になると直感。それ以来、脚本を作り始め、決定稿に近い台本が出来た頃に藤原監督へ依頼があった。
脚本を読んだ藤原監督は「大変だなぁ」と吐露する。自然が絡み、登場人物も多く、撮影に多くの時間を要することを想定した為だ。さらに、動物が登場しており、大変なことばかりの作品である。当初、信頼しているプロデューサーからの依頼だったので、作品の内容を聞く前に「やります」と反応。脚本を読み「うわぁ、大変だなあ」と思いながらも、課題の解決方法を明確にしていき「大丈夫だな」と確信する。
今作で初主演となった矢野さんは、主人公のキャラクターについて「普通の男の子ではない。監督から依頼を受け、天才らしさを出したかったが、やり過ぎると違う人に見えてしまう。普通の人と突出している人との間を演じるのは難しい」と悩みながらも「声のトーンを上げて喋ったり、間をなるべく作るようにしたり」と心掛けて演技に挑んだ。撮影初日には、藤原監督が「細かい説明をする前に、太一のニュアンスで一番わかりやすいのが走り方」だとアドバイス。足だけで跳ねるように走ってみせ、太一の雰囲気が矢野さんに伝わった。主人公の同僚を演じた岡本さんは、撮影が始まる前から「どんな時も見守る人でいよう」と心掛ける。
また、クジラとのアクロバティックな共演について、プロデューサーと藤原監督は「難しいかもしれないが、役者本人でやりたい」と認識が一致。演技力やヒロイン像があり、さらに身体能力がある人をリクエストしていくなかで、武田梨奈さんが候補にあがった。武田さんにオファーし、挑戦してもらったが「彼女なら出来るだろうと思ったら、本当に出来てしまった。運動神経が少しだけいい女優さんなら出来なかった。体幹が良いので、回数を重ねる程に姿勢が良くなった。流石だ」と絶賛。今作では武田さんが矢野さんを蹴るシーンもあるが「当初の台本には無かった。梨奈さんが出るなら、やはりアクションが観たい。無理やりに回し蹴りのシーンを入れた」と告白。皆から「取って付けたようなアクションですね」と言われたが「取って付けても、観たいじゃん」と本音を明かす。さらに、蹴られた時に矢野さんが発する悲鳴に拘り「本番をやった後に、声だけ何回も録った」と本作の面白さも欠かさない。なお、藤原監督の提案に対し、武田さんは「出来ません」と言ったことがなく「わかりました」と応え、まさに女優の鑑といえるだろう。
クジラとの撮影について、藤原監督は「99.5%程度は上手くいった」と自負する。クジラは頭が良く「カメラのフレーム外から飼育員の方がサインを出したり、役者がサインを出したりしても、その通りに動いてくれる」と信頼を寄せる。意思疎通も上手く出来るようになり「指示を出さず、なんとなくカメラを回しても、アドリブで演技してくれた」と助かった。矢野さんはサインを覚えることが大変だったが「自信を持って演技していないと、それが伝わり、お願いを聞いてくれない」と実感。入念に準備し「僕がその子の担当だ、と自信を持ってやれば、素直に聞いてくれた」と難題を乗り越えた。
なお、捕鯨問題に関して、藤原監督は「この映画で意見を言うつもりはない。作中で皆が言っているように、難しいことではあるが、夫々の文化を尊重し合い、歩み寄れれば」とコメント。本作は青春群像劇がメインであり、当初の台本では全く触れていなかった。だが、現地へロケハンに伺い、町の方とも話し「太地町で撮るにあたり、捕鯨について無視するのは違和感がある」と皆で話し合い、脚本が決定。とはいえ、編集の段階等でも皆で「これでいいのか」と多くの議論を行い、今作が出来上がった。
和歌山先行公開を迎え、藤原監督は「お客さんを温かく感じました。舞台挨拶も鑑賞後のお客さんを迎えた時も、好意的に捉えてくれた方がいたので、良かったですね。現段階では、間違っていなかった」と、ひと安心。初めて主演を担った矢野さんは「完成して公開するまでドキドキしていた。舞台挨拶を終え、お客さんのリアクションを見て、温かく受け入れてもらっている」と、ホッとしている。和歌山県出身の岡本さんは「和歌山を題材にした作品は多くない。だからこそ、自然の大きさや人柄の温かさがあり、様々な歴史のある町を伝えたかった。優しく温かい、背中を押してくれる映画になった」と和歌山県民としての誇りを語った。
映画『ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでいる。』は、11月3日(土・祝)より、大阪・難波のなんばパークスシネマほか全国順次公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
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