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映画『地球に落ちて来た男』とアメリカを読み解く!「デヴィッド・ボウイと京都の夜」みなみ会館でオールナイト上映開催!

2017年6月25日

6月24日(土)より、京都・東寺の京都みなみ会館でデヴィッド・ボウイのライブドキュメンタリー映画『ジギー・スターダスト』が公開されている。みなみ会館では、『ジギー・スターダスト』の公開を記念し、オールナイト上映『デヴィッド・ボウイと京都の夜』が開催された。デヴィッド・ボウイの出演作品として『地球に落ちて来た男』『デヴィッド・ボウイ・イズ』『ジギー・スターダスト』を上映すると共に、映画評論家であり、「boid」を主宰し爆音映画祭ディレクターの樋口泰人さんと映画批評家の北小路隆志さんを迎えてゲスト・トークが繰り広げられた。

今回の上映作品のうち、『地球に落ちて来た男』は昨年、みなみ会館がboidと共に上映権を獲得し勢力的に上映してきた作品であり、デヴィッド・ボウイにとって初のメジャーな映画出演作。ある日宇宙船が地球に落下する。砂漠に降り立ったデヴィッド・ボウイ演じる宇宙人は、あまりに美しい容姿を持っていた。その後弁護士のもとを訪れた彼は、人知を超えた9つの特許を元に、弁護士とともに巨大企業を作り上げていく。アメリカのかつての大富豪、ハワード・ヒューズなどを思わせる、彼の奇妙な暮らしが始まり、彼は全米の注目の的となる。一体彼は何をしようとしているのか?彼は何者なのか? もちろんそんな彼の勢威を恐れる者たちもいた。彼の秘密の計画は思わぬ妨害を受け、彼の暮らしは一気に変わる。果たして彼は、故郷の星に戻ることができるのか…

樋口さんは「『地球に落ちて来た男』が映画史の中でどのような変遷の下で作られたかを話します」と述べ、トークを展開。「デヴィッド・ボウイが『地球に落ちて来た男』を撮っている頃は、イギリス生まれのデヴィッド・ボウイがアメリカに進出しブレイクを果たし、映画も出演し始め、ヨーロッパに戻ってくる時期だった」と説明。北小路さんは「『地球に落ちて来た男』は、公開される頃、僕は『ジギー・スターダスト』に乗り遅れていた」と明かす。「一番最初にデヴィッド・ボウイの新譜を買ったのは『ヤング・アメリカンズ』。『ジギー・スターダスト』というイギリス的なグラムロックのスターだった彼がアメリカにすっかり染まっていく頃だった。『ダイアモンドの犬』が出た後、『デヴィッド・ボウイ・ライヴ』のツアー写真を見てカッコいいと中学生の頃に純粋に見ていた。並行して家にあった『ジギー・スターダスト』を聴き、同時進行でリアルタイムと過去の音を聴いた」と当時を振り返る。「その後に、『地球に落ちて来た男』の存在を知り、デヴィッド・ボウイという男を観た。今見てもおもしろく、魅力的な映画」だと感じている。

北小路さんは、樋口さんに『地球に落ちて来た男』を配給した経緯や狙いについて伺った。樋口さんは「『地球に落ちて来た男』はずっと上映したかった。変な映画だし、音使いがおもしろい。爆音映画祭で、音に注目してこの映画を上映したらおもしろいだろうな」と思っていた。「日本でしばらく上映されていない映画だと、上映用のフィルムやデジタル素材、字幕もない。余程の動員が期待され収益が見込めないと決断できず、どうしようかと迷っていた。素材が無くとも、日本の配給会社が手を挙げてやってくれるだろう」と高を括っていた。「実は、『地球に落ちて来た男』はBlu-rayディスクとして販売されていた。Blu-rayディスクになってしまうと、いくら新しいヴァージョンでも通常の配給会社は上映だけでは無理。採算が取れず、誰も手を挙げないのなら…」と上映権の買付に至った。なお、現在のデジタル隆盛時代では、Blu-rayディスクが販売される時、海外の権利元が字幕も一緒に購入する。海外の権利元にあるデジタルのマスターデータには日本語字幕がセットされている。フィルムでは焼き付けられてしまうので、日本語字幕が付くと、日本以外では使えない。デジタルの場合では、レイヤーで重ねられている。「boidだけでは大変で、みなみ会館でも上映したいと云っていたので、一緒にやりましょうという流れになり買い付けた。だが、恐ろしいことに、海外で付けられた字幕は日本語を使わない人達が手掛けたので、文字の間隔等が適当だった。”わたしは”が”わた しは”といったレベル。今作の上映は追悼の想いも込めているなかで、字幕がこれでは意味がない。結局、字幕を全部付け直した」と明かす。さらに、「権利関係が厳しく、日本で字幕を付けさせてくれなかった。結局、マスターデータのレイヤー上に字幕を画像としてつくったものを透明のレイヤーに載せ、貼り付け上映用のデータを作った」と大変さを物語る。

地球に落ちて来た男』公開当時、北小路さんは「この映画では異国のロックスターが動く姿を見られる。当時としては珍しい作品であり、それだけで観に行った」と振り返る。「樋口さんはニコラス・ローグ監督の映画として見ていたか」と尋ねると、樋口さんは「変な映画だなという印象が強かった。デヴィッド・ボウイの映画として観ることができるが、映画史の中でどういう状況にあるのかといったことが全然わかっていない状態で観た。ヴィム・ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』と似ている。デヴィッド・ボウイだけでなく、アメリカをどういう視線で映画が捉えようとしていたかという意味で『パリ、テキサス』と『地球に落ちて来た男』を一緒に観てもらうと、作品単体で見た時とは別の見え方をするんじゃないか。もしかすると、デヴィッド・ボウイがなぜアメリカに進出したのかが見えて来るんじゃないか」と捉えた。北小路さんは「ニコラス・ローグはイギリス生まれ。今作以降、一時は売れっ子監督、旬な映画作家になった。映画『美しき冒険旅行』では鷲が映る、風景を映す、虫に食われている動物の死骸を映す。ニコラス・ローグは撮影も行い、異文化体験な映画になっていない。それがアメリカのすごさ、おもしろさであり、アメリカはいかにエキゾチシズムがないところなのかを見せている」と解説。これには樋口さんも賛同し「1950年代末に、フランス映画界におけるヌーヴェルヴァーグの主要人物がアメリカ映画を取り上げて、アメリカ映画に別の視点を与えた。その時点でエキゾチシズムがなくなった」と思っている。「ハリウッドの中にアメリカ映画があり、アメリカ映画の中にハリウッド映画がある。アメリカで制作されなくともアメリカ映画であると定義するところからヌーヴェルヴァーグは始まった」と考察。「1950年代から60年代を通して、映画でも音楽の中でもアメリカが無意識に顕在化してきたと思っている。デヴィッド・ボウイは直接アメリカの音楽を聞いている。デヴィッド・ボウイ自身がアメリカを通してアメリカの音楽を聴き意識したのではないか」と感じている。ここで、樋口さんは、今回のために持参したレコードの中からデヴィッド・ボウイの「スペイス・オディティ」を流す。

樋口さんは、「スペイス・オディティ」について「ベルトルッチ監督等多くの映画で使われている。様々な要素が入っていて、一つの曲が出来上がるベースになるものを作ろうとしているアレンジがあり、いろんな風に聞こえてくる。ニコラス・ローグはこの曲を聞いたが故に『地球に落ちて来た男』では俳優に徹してもらったのではないか」と捉えている。「今年1月には新訳版小説が出版された。映画みたいな小説で、感情を込めて読めないし書いていない。見たものや聞いたもの、起こったことが繋がっていき、物理的に捉えている。映画とセットで読むとおもしろい」とお薦めする。

最後に、樋口さんは「この映画はデヴィッド・ボウイが出演し、曲や歴史を考えるとデヴィッド・ボウイが宇宙人そのものに見え、視線がいってしまう。アメリカをお客さんそれぞれの中で捏造してもらい、自分がイメージしていたアメリカ、あるいは、自分が今まで見てきたアメリカ、現在のアメリカが何をしているかを意識すると、作品の捉え方が違ってくるんじゃないか」と伝え、『地球に落ちて来た男』の劇中に流れる曲よりロイ・オービソンの「ブルー・バイユー」を流す。

この楽曲について、樋口さんは「故郷に置いてきた恋人を想う歌詞で、映画のシチュエーションにピッタリ。外側から見たアメリカ、デヴィッド・ボウイの中に流れているアメリカ、誰にも真似できないアメリカ。この人がいてくれるからアメリカがある。ヌーヴェル・ヴァーグがアメリカ映画を発見しようがしまいが、ここにアメリカがあると思わせてくれる人物がロイ・オービソン。世界中にあふれるアメリカとこの曲が対比されているという意味でおもしろい」と思っている。「デヴィッド・ボウイは、こういう人には敵わないことからスタートしたのではないか。ニコラス・ローグも、こういう歌には敵わないことから今作を作った。そういうことがあるので、アメリカはエキゾチシズムではないところに至るのではないか。そんなつもりで観て頂けるといいかな。どうぞ今夜をお楽しみください」とゲスト・トークを締め括った。

映画『ジギー・スターダスト』は、京都みなみ会館と大阪・九条のシネ・ヌーヴォで7月14日(金)までの上映。また、神戸・元町の元町映画館では7月15日(土)から7月28日(金)[7月25日(火)は休映]までの上映が予定されている。

さらに、デヴィッド・ボウイ、クイーン、ルー・リード、イギー・ポップ、ブロンディ、シド・バレットといったミュージック・アイコンを撮り続けてきた伝説のカメラマン、ミック・ロックが、自身の視点でこれまでの活動を語るドキュメンタリー映画『SHOT! THE PSYCHO-SPIRITUAL MANTRA OF ROCK 』の京都みなみ会館での先行上映が7月8日(土)から7月17日(月)まで行われる。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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