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無機質だった陶磁器がまるで生き物のように動き出す…『陶王子 2万年の旅』柴田昌平監督に聞く!

2021年1月9日

2万年にもおよぶ陶磁器の歴史から浮き彫りになる人類の進化と発展を紐解く『陶王子 2万年の旅』が関西の劇場でも1月16日(土)より公開。今回、柴田昌平監督にインタビューを行った。

 

映画『陶王子 2万年の旅』は、陶磁器の2万年におよぶ歴史を通し、壮大な人類史をひも解いたドキュメンタリー。縄文、中国、メソポタミア、ギリシャ、エジプト、ヨーロッパへと人類の知恵を集めながら発展し、現代ではファインセラミックスとして人類を宇宙にまで連れて行くことになった“焼き物”=“セラミック”。陶磁器でできた器の精霊・陶王子をナビゲーターに、土器から陶磁器、さらにファインセラミックまでの変遷を追い、人類の果てない探究心と進歩を描き出す。ATP賞ドキュメンタリー部門優秀賞を受賞したNHKの番組に新たなカットを加え、完全版として劇場公開。『ひめゆり』の柴田昌平さんが監督を務め、中国を代表する若手アーティスト・耿雪さんが人形制作を担当。女優のんさんが陶王子の声を演じる。

 

前作『千年の一滴 だし しょうゆ』の劇場公開後、鑑賞したフランス人で陶磁器のアーティストであり美学校の先生でもある方から40頁近いフランス語で書かれた資料が送られてきた。「陶磁器の歴史をあなたとやりたい」と云われたが、陶磁器や土器について全く知らなかった柴田監督は、意図が分からず困惑。だが、外国の方と仕事がしたい気持ちがあり、次第に興味が湧いていく。今までに、土器の始まりから現在に至るまでの変遷を全部を追ったドキュメンタリーは存在しなかった。〇〇焼きの紹介等の個別のドキュメンタリーは今までにあったが、人類と器のルーツを探るドキュメンタリーは今までに観たことがなく「やってみたいな」と前向きに考えていくようになる。その後、構想に3年近くかけ。フランスを訪れる機会を設けながら、作品のポイントを検討するディスカッションを重ねていきながら、リサーチと議論を続けていった。

 

物語は、日本で最古の土器片が発見された青森県から始まる。日本のどこでも粘土が含まれた土は存在するが「青森を舞台に撮影しながら考えを深めよう」と訪れ、海岸すぐ傍にある断崖で撮影。共に訪れた陶芸家の熊谷幸治さんが「粘土のデパートメントだ」と叫ぶほどに地層が積み重なっている場所だったが「坂はキツいけど、風景の切り取り方や他にはないアングルによるドローンの映像が撮れた」と満足している。陶磁器でできた器の精霊である陶王子の視点で物語は進行しており「ドキュメンタリーにおいてもストーリーテリングは大事ですよね。ものを単純に提示するだけなら、おもしろくない。ドキュメンタリーの基本は、様々な撮影素材にある要素を集めて磨いていく」と捉え「どんなドキュメンタリーでも必ず始まりと終わりを備えたストーリーがあるんですよ」と説く。

 

陶磁器の歴史を語る役割として、器の精霊が必要だと考え柴田監督は「観客の分身としてルーツを発見していく。彼の一人称で物語は自らへの問いかけで映画は進んでいく。その問いかけを誰の声にお願いしたらいいんだろう」と本作にピッタリのナレーターを検討。「器の精霊は陶器の王子。高貴で尊い雰囲気があり、器が持っているキラキラした透明感も必要。下手したら割れちゃうような繊細さがありながら、土であるからこそ素朴さもある」と特徴を挙げていくが「キャラクターとして演じるのではなく、地声を以て説得力を伴って語れる人は本当に少ない」と実感。数多存在する女優の中で、数少ない才能の持ち主として、のんさんが合っていると編集段階で気づき、オファーした。

 

また、器の精霊を主人公にした物語を軸にしたドキュメンタリーを制作しようとした時、通常のドキュメンタリーにおける言語では表現が難しいとひしひしと感じていく、そこで、アーティストとのコラボレーションを考え始め、インターネットで”セラミック アーティスト”等を検索。中国の若いアーティストである耿雪 Geng Xue(ゴン・シュエ)さんが学生時代の最後に卒業制作で作った、陶磁器の人形で作ったアニメーションをYou Tubeで発見する。「無機質だった陶磁器がまるで生き物のように彼女のアニメーションで動いている」と驚き「凄いアーティストだ。この人と一緒にチームを組んでやれば、単なるドキュメンタリーを超えた作品になる」と直感。「オファーに応じてくれたことが一番のターニングポイント」だと語り「正直に云えば、これがなかったら映画制作を止めたかもしれない」と告白する。そして、かつてない壮大な陶磁器のドキュメンタリーが無事に完成した。

 

映画『陶王子 2万年の旅』は、1月16日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、1月29日(土)より京都・三条のMOVIX京都で公開。また、神戸・元町の元町映画館でも近日公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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