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アーティストの魅力があり作品に滲み出ているか…『アートのお値段』松尾良一さんと谷口純弘さんを迎えトークショー開催!

2019年9月28日

驚くような高値で取引されることもある芸術作品市場の現在を見つめたドキュメンタリー『アートのお値段』が9月27日(金)より関西の劇場でも公開中。9月28日(土)には、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田に、TEZUKAYAMA GALLERY ディレクターの松尾良一さんとFM802メディアワークス プロデューサーの谷口純弘さんを迎え、公開記念トークショーが開催された。

 

映画『アートのお値段』は、『マイ・アーキテクト ルイス・カーンを探して』でアカデミー賞にノミネートされたナサニエル・カーン監督が、アートの価格を題材にアート市場の裏側に迫るドキュメンタリー。秋のオークション開催まで6週間と迫ったニューヨークのサザビーズ。アート界周辺がにわかに騒がしくなり、オークショナー、ギャラリスト、評論家、コレクター、そしてアーティスト、それぞれの立場のさまざまな思惑、価値観がせめぎあう。ラリー・プーンズ、ジェフ・クーンズ、ジョージ・コンド、ゲルハルト・リヒターら一流アーティストたちが登場するほか、サザビーズでの実際のオークションの様子などを紹介。「アートの価値」をさまざまな角度から掘り下げていく。

 

上映後、TEZUKAYAMA GALLERY ディレクターの松尾良一さんとFM802メディアワークス プロデューサーの谷口純弘さんが登壇。

 

松尾良一さんは、1992年より大阪帝塚山を拠点にウォーホル、ジャスパー・ジョーンズなど国内外の現代美術を紹介するギャラリーを運営してきた。2008年より日本の若手アーティストのプライマリーギャラリーとしての運営も行い、2010年に現在の南堀江に移転後も積極的に海外のフェアに出展して日本現代美術を紹介している。谷口純弘さんは、802Mediaworks/digmeout プロデューサーとして、FM802のビジュアルにアーティストを起用し、ソニー、日産、りそな銀行、ナイキなどの企業プロモーション、アートブックの発行、国内・海外での展覧会を手掛けるなど「街」と「アート」と「人」をつなぐ活動を進めてきた。2011年5月にはアートギャラリー「DMO ARTS」をオープンし、2015年よりアートフェア「UNKNNOWN ASIA」を企画・主催している。

 

作中では、バスキアの絵画が125億円と高額で取引されている。松尾さんがニューヨークのオークションに行っていた頃、メインオークションは座席指定で直近の関係者から順に席が埋まってしまい、一番端で立って参加していた。ある時、ピカソの絵画が落札予想額30億円だったが、最終的に100億円で落札される。「オークション会社は落札者を想定して営業している。僕の二席前に座っていたロシア人の若者がずっと上げて、最終的に100億円で購入し場内がざわついた。オークション会社すら知らない人物だった」と振り返り「凄い時代が来ている」と感じた。以前では、作品に対する評価による値段の付け方からすると、アートマーケットは世界経済全体では小さな市場、ニッチな世界であり、金額は比較的高くなかったが「今は凄い。あまりにも白熱し過ぎていて、その中に入っていながら、取り残されている」と打ちひしがれている。谷口さんも、バスキアの絵画については所縁があり調べてみたが「125億円で買うから意味がある。買う側もスターになる。40億円の絵画を沢山買っても仕方ない。買う側は市場の中に入っていけるのがオークションの醍醐味」と実感した。

 

高額で取引するバイヤーについて、松尾さんは「彼らは、注目されることで様々な情報や依頼が入ってくる。次のターゲットを周りが注目する。宣伝効果が大きい」と解説。1990年代にピカソやシャガール等が売れてしまい、次の作品が集まらず、オークション自体が下降気味になったが、谷口さんは「ニューリッチが登場し金の使い道を探している。現代美術に投入してみたら、大変なことになって困ってしまった」と嘆くしかない。世界トップのアートフェアにトップクラスのギャラリーが出品しており、松尾さんは「僕等は全く出せない。僕等が出せるような規模のフェアに出ているが、大きなフェアに出ることは目指すべきステータスではある」と理解しているが「大きなフェアを見てみると、目指すべき場所なのか、と疑問を抱くこともある。僕が関わっているアーティストの為ならやるべきか」と常に葛藤がある。大きなフェアに出品している方達の本音を聞き「この人達も不安がいっぱいで苦しんでいるんだな」と心に響いてきた。谷口さんは「買う人も売る人もマネーゲームのプレーヤーになっていく」と捉えざるを得ない。

 

ニューヨークを中心としたアート市場では、アーティストとギャラリーが存在し、評論家が作品の意味を定義し、コレクターとオークション会社が介入するシンジケートのようなものが存在し、作家を盛り上げていく潮流がある。この波に乗り、天井無しに評価が上がっているアーティストも存在し、大物になり過ぎている傾向も。松尾さんは「アーティスト自身も作品が売れることを認識し、ギャラリーと契約する時も、自身に有利な契約を要求したり、ギャラリーも負けじとポテンシャルを上げる企画を開催したりしている」と、沼に嵌っている状況を危惧せざるを得ない。アーティストと関わっていく中で「人間として魅力があり作品に滲み出ているか」と純粋な視点を欠かさないようにしている。

 

現在、構築されているニューヨーク最先端の美術システムについて、松尾さんは「見た目が派手でギラギラしており、最近は特に多い。じっくり見ながら感じていく傾向ではない」と分析。谷口さんは「アートビジネスで勝ち残るためには数多く作らないといけない。値段も上がっていかない」と捉えている。現在の傾向について、松尾さんは「アートが投資として捉えている。それ自体は自然なことかもしれない。どのような思いで買っているのか」と鑑み「ギャラリーの人間は、それ自体が悪いことをしている感覚はないが、度が過ぎると、やりたいことではないと感じる。マーケットが大きくなる傾向に対して考えてもらうように提示している」と訴えた。一方で、谷口さんは「マネーゲームから外れて自分が書きたいものを書き続けているアーティストもいる。それでも、ギャラリーとしてはビジネスとして高額で売買していくので、作家は翻弄されて巻き込まれていく。マネーゲームの中ではそんなポジションも存在する」と挙げていく。これを受け、松尾さんは「アーティストはマネーゲームを見ない方がいい」と述べた上で「情報がオープンになっているので、必然的に出くわしてしまう。その時に、気にしないようにして、自身が亡くなった後に再び日の目を見るような作品を作りたいという志が嬉しい」と期待している。

 

また、作中では、オークション運営者から「美術館は墓場。展示されなかったら倉庫に入ったまま」という発言があった。谷口さんは、この反応について「美術館に入ってしまったら転売できないので、ビジネスに出来ない」と解説。松尾さんも「作品が評価されると、欲しがる人が増える。増えた時に作品の供給がない。人気になるほど作品を求めて行列ができ、作家はギャラリーへの貢献度について順位付けがなされる。それだけのニーズがあると、セカンダリマーケットがカバーする一面がある。人気があると、入手できなくて過去に買った人が世に出て来てマーケットのニーズに応じて高騰していく」と分析していく。だが、一方で、最終的にコレクションを美術館に寄贈するコレクターも存在していた。松尾さんは「実は多くのコレクターが最終的に辿る道」と定義し「外国の美術館では、フロアによっては人名が付いたコレクションルームがよくある。だが、美術館も全てのコレクションを受け入れられないので、質の高い作品をコレクションしてくれるのは美術館にとっては有難いので、喜んで受け入れている」と評価している。自身もギャラリーを運営し、買い付けているが「20年以上も仕事をしていると、コレクションもある。最終的に買った作品をどうすればよいか悩みます。美術館が全部受け入れてくれるかな。ゆっくり考えたい」と将来を見据えていた。

 

映画『アートのお値段』は、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で公開中。また、10月5日(土)より京都・烏丸の京都シネマ、10月19日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。

 

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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