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余計なことを考えず、まっさらな気持ちで遊歩さんを撮りたい…『遊歩 ノーボーダー』淺野由美子監督と藤野知明さんに聞く!

2026年5月22日

障碍者運動や社会の課題に切り込んだ安積遊歩さんの活動を追ったドキュメンタリー『遊歩 ノーボーダー』が5月23日(土)より全国の劇場で公開。今回、淺野由美子監督とプロデューサーの藤野知明さんにインタビューを行った。

 

映画『遊歩 ノーボーダー』は、日本におけるピアカウンセリングのパイオニアのひとりである安積遊歩(あさかゆうほ)さんの軌跡と現在を追ったドキュメンタリー。1956年、福島県福島市に生まれた安積遊歩さん。骨が弱いという特徴を持つ彼女は、幼い頃から学びをあきらめさせられ、障がいや性別によって差別し排除しようとする社会に憤りを抱えてきた。ずっと自分の居場所を探してきた遊歩さんは、脳性まひ者の当事者団体「福島県青い芝の会」とのつながりや、アメリカ留学中に出会った自立生活運動やフェミニズムを糧に、日本初の自立生活センターの設立に尽力。国際会議にも参加し、優生保護法を変えるきっかけをつくった。映画では、自由のために突き進んできた遊歩さんの姿を追いながら、激しくぶつかり合う父と遊歩さんの間で揺れ動いてきた妹の愛子さんや、遊歩さんと同じ特徴を持って生まれ、海外で障がいのある人の権利向上を図る研究所に勤めながら大学院に通う娘の宇宙(うみ)さん、自由な関係を築きながら日々をともにする若い介助者たちの姿も映し出す。『どうすればよかったか?』のプロデューサーを務めた淺野由美子さんが初メガホンをとり、同作の監督を務めた藤野知明さんが撮影・編集・プロデューサーを担当。

 

『どうすればよかったか?』以前から幾つものドキュメンタリー作品を手掛けてきた淺野さんと藤野さん。淺野さんは、1人でも制作できることがメリットだと感じながら「ドキュメンタリーにしか表現できないのは事実の重み。フィクションより真実をあぶり出す」と説き「同じ時代を生きている人からの生の声を聞くことができ、親近感を深め、一緒に生きている気持ちになる」と話す。藤野さんは「フレーム内の人物に制作者が指示をすればフィクションに近づいていきます。例えば、インタビューは対象者に制作者が質問し、答えることを求めるので、相当な影響力を与えています。ドキュメンタリーでは当たり前のようにインタビューをやっていますが、ドキュメンタリーの手法として妥当か、という考え方もある」とフォローしながら「ドキュメンタリーを手掛けている映画監督も意外といて、行き来している。観れば観るほど、境目は曖昧になる。ドキュメンタリーも意図を以て演出して編集がなされている。ドキュメンタリーだから事実である、と一概には云えない。垣根は元々曖昧であり、見る側の判断も重要だと思う」と述べた。

 

そして、淺野さんは、新たな作品に携わるにあたり、買い替えた4Kカメラに慣れるための試し撮りを目的にして、偶然にも安積遊歩さんの講演会に参加してみることに。淺野さん自身は、遊歩さんについてほぼ情報を持っておらず「凄そうな人がいるな」といったレベルの認知であり、どのような人物であるか知らなかった。実際に、講演会に参加してみて「物凄くおもしろい。ユニークであり、行動的で、やっていることが格好いい」と惚れ込んでしまい、直ぐに遊歩さんに撮影のオファーへと至っている。特に、以前から「複合差別を描きたい。そういった方がいたら撮りたいな」と考えていたことから、遊歩さんの話を聞き「複合差別を描けるのは、この人だ」と確信。また、以前から、淺野さんは、アナーキズムやフェミニズムに関する書籍を沢山読んでいたことから「アナーキズムは、即ち、無政府主義ではない。今なら、何者にも束縛されず自由に生きる、という意味」と持論があると共に「この男性優位社会に対しては憤りを感じ、女性はいつも我慢させられ酷い目に遭う…と考えていた中で、遊歩さんが体現している生き方しかない」と期待を寄せていった。

 

ドキュメンタリー映画を目的とした撮影について、遊歩さんは大歓迎。実は、これまで、テレビ等で取り上げられても、”障碍者”の枠でしか扱われず、様々な一面について話したくても、禁止されていたことがあり「ありのままの自分をとにかく撮ってほしい。今まで生きてきた自分と、今の自分を撮ってほしい」という遊歩さんの気持ちを汲み取り、淺野さんは「私があなたを撮りたいです」とお願いし、快く承諾してもらった。撮影にあたり、師匠でもある藤野さんから色々と教えてもらっており「ありのままを撮りたい、と思ったので、構成等を考慮しなかった。遊歩さんについて知らなかったので、まずは話を聞いていった。もっと知りたい、という気持ちにあり、余計なことを考えず、まっさらな気持ちで撮影していきました」と振り返る。撮影を進めていく中で、遊歩さんについて「あらゆるモノや人に対して好奇心が強い」と感じており「私自身は、自分のことを色々と話すのは嫌なんです。だけど、気持ちを裸にしないと、遊歩さんは撮れない」と覚悟を決めることに。そして、2人は対話を重ねながら撮影の日々を重ねていった。とはいえ、遊歩さんは、本当にアクティブな方であり、淺野さんは体力的にも大変な日々を送っていたようだ。

 

様々な撮影を経て得られた素材については、淺野さんと藤野さんの2人で全て確認し議論しており、藤野さんにとっても興味深い内容であった。また、海辺での散歩シーンについて気に入っており「障碍がある方のイメージはインドアになりがち。だけど、遊歩さんはどんどん外に出かける方なので、伝わるといいかな、と思っていましたが、整理するには相当な時間がかかりました」と思い返しながら「様々な要素があり混乱してしまいますが、遊歩さんが様々な状況に入り込んでいける物怖じしない面があり、重要なシーンだな」と受けとめている。撮影を進めながら編集作業もしていく中で、足りない要素も分かっていった。子供時代の話を聞いていく中で、遊歩さんの故郷である福島県に帰省した際に聞くことも提案しており、淺野さんは、遊歩さんも参加していた福島県青い芝の会が自主制作したドキュメンタリー『しどろもどろ』に注目。「障碍者である当事者が自分達で作った映画はあまりないので貴重なんじゃないかな」と察した。8mmフィルムとして福島県立図書館に寄贈されていることが分かったが劣化していて再生ができなかったので、専門業者にリマスターが必要と判断、遊歩さんの「”私、著作権者だから」という一声によって特別に貸し出してもらうことに。淺野さんは「障碍者の方達は、特に”ないもの”とされている。優生保護法が、最たる象徴だと思います。性に関する問題に関しても重要な要素だと思ったので、ぜひ残したい」といった思いがあり、デジタル修復を施してDVDも制作し「後世の研究者まで届けばいいな」という思いで福島県立図書館に寄付した。

 

その後、2人で編集し、まずは104分の作品として制作した。だが、あまりにも情報量が多くなってしまい、淺野さんは「次から次へと情報が入ってくると、観ているお客様は消化しきれない」と察し「 どうやってこれを整理したらいいのか、分からなくなった」と吐露。その後、改めて秦岳志さんに編集作業を依頼。秦さんの編集力を信頼しており、全面的に委ねてみたが、戻ってきた作品は77分になっていた。そこから、シーンを入れ替えたり整理したり、秦さんが削ったエピソードを戻したりする再編集も行い、最終的に82分の作品として仕上げている。完成した作品は、遊歩さんの娘である宇宙さんにも観てもらっており「自分が預かり知らぬ部分でもあり、最初は懐疑的であったと思います。だけど、この親子はお互いを尊重するので、遊歩がそうしたい、というならすればいいんじゃないか、と肯定的に背中を押してくれたと思うんです」と真摯に受けとめている。そして、遊歩さんからも「自分の人生をよく描いてくれている」と喜んだようだ。マスコミ向けの試写も実施しており、藤野さんは「何を感じるか、は観る側の自由なので、こう観なさい、とは言えないです。だけど、共同制作者としては、”障碍者”と”女性”という複合差別の視点で見ていることが伝わると嬉しい」と願っている。なお、淺野さんは、本作を撮る前から2つのドキュメンタリー作品を撮っており「分断されている人間関係や居場所を創りだして広げるような人達を撮っています。それらは或る意味では『遊歩 ノーボーダー』と重なっている部分でもあります。ほぼ撮り終わったので、まとめていければいいな」と今後を楽しみにしている現在だ。

 

映画『遊歩 ノーボーダー』は、5月23日(土)より全国の劇場で公開。関西では、5月30日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、6月5日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、6月20日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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