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もしかしたら自分にも起こり得るかもしれない、普遍的な物語…『蒸発』アンドレアス・ハートマン監督と森あらた監督に聞く!

2026年3月18日

年間約8万人がさまざまな事情を抱えて失踪している日本で、夜逃げ屋の仕事や、失踪した人と残された家族の姿を通して、人間の心理を紐解いていく『蒸発』が3月14日(土)より全国の劇場で公開。今回、アンドレアス・ハートマン監督と森あらた監督にインタビューを行った。

 

映画『蒸発』は、ドイツ人映像作家アンドレアス・ハートマンと、ベルリンと東京を拠点に活動する映像作家の森あらたさんが共同で監督を務め、日本の”蒸発”という現象を題材に描いたドキュメンタリー。日本では毎年約8万人が失踪し、そのうち数千人は完全に姿を消してしまう。彼らは”蒸発者”と呼ばれ、その理由は人間関係のトラブルや借金苦、ヤクザからの脅迫などさまざまだ。いわゆる”夜逃げ屋”の支援を受け、全てのしがらみを捨て別の場所で新しい生活を始める者もいる。深い喪失や挫折と、人生をゼロからやり直す希望が交差する”蒸発”は、これまで多くの文学や映画のモチーフとなってきた。本作では、知られざる”夜逃げ屋”の仕事や、蒸発者と残された人々の心の葛藤と和解の道のりを没入感ある映像で描き、日本特有の社会現象の実態に迫る。第39回ミュンヘン国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀作品賞を受賞する等、世界各地の映画祭で注目を集めた。

 

”蒸発”に関するドキュメンタリーを手掛けるにあたり、様々な関係者によるチャンネルを使うことで、取材先を見つけていった森監督。最初は、手当たり次第に声をかけていき、何処に行き当たるか分からない状態だった。1つのチャンネルとしてあったのは、”夜逃げ屋”。「夜逃げを手伝っているところを撮影をさせていただきたい」とお願いすると共に、「以前に、夜逃げを手伝った方達、蒸発をした方達を紹介していただきたい」と依頼して紹介してもらったことで、撮影していく。また、大阪・西成に長期滞在しながら様々な方に取材していく中で、ドキュメンタリーに出演してくれる”蒸発者”を見つけていった。そして、探偵事務所を通じて、息子が失踪した母親にコンタクトを取って撮影しており、立場が違う様々な方達を見つけている。撮影にあたり、十分に気を遣い、徐々に距離を詰めていった。そこで拒絶される方はおらず、予想以上にはオープンに話してくださっており「私達は、ドイツ人と外国での生活が長い日本人。”外国から来た人達”であり、当初は日本で上映する予定がなく外国だけ上映することを伝えていたことから、日本のメディアとは違うような安心感があったのではないか」と捉えている。

 

作品の冒頭では、夜逃げの瞬間を捉えたシーンが映し出されていく。夜逃げ屋には、事前に撮りたい意向を伝えていたが、2,3ヶ月もかけてずっと待っていた。劇映画のように直ぐに撮ることは出来ないことであり、かなりの時間を要したが「あの場所に行っても、何が起こるか全く分からなかった。だから、カメラを回しながらひたすら待ち続け、撮影できたことは奇跡的」だと森監督は思い返す。また、私立探偵に同行させてもらうことも容易ではなく「秘密の任務をしているので、その現場にカメラを携えていくのはセンシティブであり、難しかった」とハートマン監督は話す。そして、西成での撮影も困難を極め「今でも、”その筋の人”との絡みがある。最初に、三角公園で撮影した時は、カメラを抱えた途端に誰かが来て、”撮影は駄目だから”と言われた。あいりん総合センターで撮影するのも難しかった」と当時を振り返りながらも「地元のNPOの方達と長い時間をかけて調整しながら信頼関係を構築したからこそ、大変ながらも撮影できた」と語る。森監督も「西成という場所自体がすごく特別な場所のように感じられた。蒸発者の方にとっても天国。身分証明書がなくとも仕事はできるし、自分の本名さえ使う必要はない。相手の過去を聞かない、という暗黙の了解があるので、過ごしやすい」と捉えており「蒸発者の方だけではなく、街自体を映画の主人公としても描きたかった」と明かす。通常はカメラが入ることが出来ない釜ヶ崎夏祭りに関しても釜ヶ崎支援機構の取り計らいで撮影できることになり「ドキュメンタリーの記録としても価値がある」と受けとめている。

 

撮影中は「まだ足りない…まだ足りない…これで十分だと思うことがない」と話すハートマン監督。とはいえ、編集室に行けば「十分すぎる素材だ」と初めて気づく。多くの方を撮らせていただいているが、作品には登場しなかった方もいる。撮影の真只中では「私達の前から、いつ蒸発するか分からない方であり、予見が不可能であることから、できるだけ多くの方を撮らないといけない」と認識していた。編集室では、撮影素材を見ながら「撮影過程で、どの方が一番おもしろい発展を遂げたか」といったことも踏まえながら纏めている。森監督としては「蒸発した人は、蒸発された側の家族が、なかなか見えない。残された家族にとっては、蒸発した人がどういう生活を送っているのか見えない。蒸発した人と残された家族、別々の関係ない人同士だが、それがあたかも繋がり、両方が補完できるようにしよう」と考え、様々な登場人物を入れ込み、一つの大きな流れになるように編集していった。しかし、ドキュメンタリー映画はコントロールし難いものであり、編集作業は難航を極めていく。そこで、今作では、編集作業の途中から、カイ・アイアーマンというドイツの編集者が携わり、3人体制で取り組んでおり「彼は、劇映画にも携わる編集者であり、的確であった」と述べ、6ヶ月以上をかけながら、5,6回の試写も行い、都度様々な方が参加して意見をもらいながら、試行錯誤を繰り返した後に今作の形に落ち着いた。

 

なお、本作では、出演者達の⾝元を保護する⽬的で、AI技術を⽤いて⼀部の顔や声に加⼯を施している。実は、インターナショナル版と日本上映版が存在しており、インターナショナル版は何の加工もしてないそのままの素顔が見えるそうだ。日本で上映することになり「どうしたら日本で上映することができるだろうか」と検討していく中で「AIのディープフェイクを使って匿名化をしよう」「顔が本人だと分からないけれど、感情はちゃんと伝わるようなことをしよう」とハートマン監督は提案。だが、ディープフェイクを使い過ぎると「AIなので人工的な感じがしてしまう。違和感を持たせる状態に長くしてはいけない」と察し「ぼかしとモザイクとAIをミックスして切り替えよう。登場人物の感情が重要な瞬間にはモザイクを外し、ディープフェイクで顔が見えるよう」と考えた。「AIを使っていることは全面には出さない。あくまでプライバシーを保護するための方法。基本的にはモザイク、本当に大事なシーンだけAIを使う」と森監督は説き「俳優やモデルの写真は使っておらず、AIにプロンプトを入力して出来上がった顔を使って、オリジナルの出演者の顔の表情をAIに分析させ、動きを完全に模倣させた。こちらで操作はしていない。ブレンドしているので、蒸発者の方が流す涙は本物」と言及する。建物に関しても、同じ外観であっても、少し違う場所の外観を使用していた。また、固有名詞や地名を発する声をAIボイスによって変えており、オリジナルのものが分からないようにしている。ハートマン監督も「日本が撮影地でもあるし、日本ならではのテーマでもあるので、日本で上映することが望みだった」と話し、AIの発達によって、日本での上映が可能となったことに安堵していた。

 

2024年3月、ワールドプレミア上映が行われ、以降は世界各国の映画祭で上映。沢山の方が来場し、上映する度に完売し何度も再映する必要がある事態となる程の人気となり、映画祭側からは「こんなことは凄く珍しい」と云われたこともあり、2人にとっても驚くばかり。ハートマン監督は「国際的にも、時代の趨勢にすごくマッチしていたんだ。このテーマは、皆さんが自分事のように近く感じて下さったんだな」と分かった。今回、日本の劇場で公開されるにあたり、森監督は「私達は、普通の人による普通の物語を描きたかった。”蒸発”は、現実の対岸にある話ではなく、誰にでも持っているような話だ」と思っており「物語のシノプシスを読んだ方は、自分とは全く違う世界の話として観に来ると思うんです。だけど、映画館を出る頃には、もしかしたら自分にも起こり得るかもしれない、または、昔蒸発した人の話を思い出しているかもしれない。本当に普遍的な話だと思うので、自分自身の人生を振り返っていただきたいな」と願っている。

 

映画『蒸発』は、3月14日(土)より全国の劇場で公開。関西では、3月20日(金)より大阪・十三の第七藝術劇場や京都・烏丸の京都シネマ、3月21日(土)より神戸・元町の元町映画館、5月15日(金)より兵庫・豊岡の豊岡劇場で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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